* 星空の下で僕らは繋がっていられる *












星がキレイだ。

一人で歩く帰り道、真上には見事な星空が広がっていた。


都心にある実家から電車で約2時間という場所で一人暮らしを始めてもう数年。
暮らしていて不便を感じることもあるけれど、
この見事な星空を見ていると、ここでの暮らしも悪くないなって思えてしまう。


そういえば今夜はしぶんぎ座流星群がピークだったっけ。
でもピークはもっと夜更けだし、月明かりはあるし、
ピーク時でもそれほど多くは期待できないだろうってニュースで見た。
今こんな気まぐれに空を見上げたところで見られないだろうなって経験的に思った。


まさかこんな帰り道ついでに上を見上げているだけで
流れ星が見られると期待しているわけではないけれど。


ただ、今日はとても星がキレイだったから。


私の彼氏の秀一郎は星が好きな人だ。
影響を受けて私もすっかり星好きになってしまった。
もしかしたら同じ星空を見上げていたりしないかな、なんて。


自分の息で少しだけ空気を白く曇らせながら、夜空を見上げて歩き続けた。
無論、一つも流れやしない。

でも本当に見事だ。今日の星空は。


オリオン座、おうし座、カシオペア座…。

北斗七星があそこだから、放射点はあっちの方かな。


そういえば、しぶんぎ座ってもう存在しない星座なんだよね。
流星群の名前だけ残ってるって、それはそれでロマンチックだなー…。


そんなことを考えているうちに家に着いた。
駅を出てすぐは寒いと思ってたのに、歩いているうちに体は温まった。
それに反して、肺の中は外気に慣らされたみたいでもう息は白くない。


少しだけ、見上げてみようか。



夜空一杯に広がる空に思いを馳せたくなって。

だって、この空はどこまでも遠く繋がっているから。



ああ、本当に今夜の星はキレイだ。
そう思ってまっすぐ頭上を見上げていると。


「あっ!」


流れた!
見事な流れ星が、一筋。
一秒もしないうちに消えてしまったそれには
とても願い事を三回も繰り返す余裕はなかったけれど。


流れ星って、一つ見られるだけですごく嬉しくなっちゃう。

…秀一郎も今頃、星見てるのかな。


流れ星を見ることができた高揚感そのままに、
スマホを取り出してメッセージを一つ。


『今日しぶんぎ座流星群だね。見てる?』


返事が来るにはしばらくかかるかなと思っていたのに、
予想に反して即座に既読になって、すぐ返信が来た。


『見てるぞ。さっき流れ星を一つ見たよ。』


やっぱり、君も星を見ていたんだね。
それだけで嬉しくなって。

しかも、「さっき」ってもしかして私が見たのと同じやつ?

嬉しくなって、返信ボタンの代わりに通話ボタンを押した。
1コールですぐに繋がった。

「もしもし秀一郎?私も流れ星見たよ!同じやつかな?」
「たぶんそうだろうな。もう30分も観察しててやっと1つだからな」
「そうなんだー。私まだ10分くらいしか見てないよ」

丁度タイミングが良かったんだな、ラッキー!
と思ってそう返したけど。


「そっちは空が広いから、たくさん見られそうだな」


秀一郎はそう言った。
そうか。そういえば、東京の空はもっと狭かったっけ。

「今、どこで見てるの?」
「家のベランダだよ」
「視角狭そう」
「相当な」

そう言って苦笑いの声。

そうか。
思い返してみれば、実家に住んでいた頃に見ていた空は確かに狭かった。
明かりも多かった。

私が見ている星空を、秀一郎にも見せてあげたいな。
流れ星、一つ願いを叶えてくれるとしたら、
『あの人と一緒にこの星空を見たいです』、なんてね。

「さっき見えた流れ星、何か願い事したの?」
「してないよ。願い事をする暇なんてないの、わかるだろ」
「あはは、だよね」

返事をしてから数秒の間があって、
こっちから何かを言おうかと口を開きかけた瞬間に秀一郎が喋った。

「特に願い事はしなかったけど、のことを考えてたよ。
 早速願いが叶ったのかもしれないな」

そんなことを言う。
柔らかく微笑む顔が浮かんだ。

「何それー!そんなこと言うならたまにはそっちから掛けてよ!」
「悪い、そうだな」

照れ隠し混じりにそんな文句を言ったけど、
本当は嬉しくて胸が踊った。

同じ時間に、同じ空を見上げて、同じことを考えていたこと。

会いたいなあ。ってこの気持ち、星が繋げてくれているみたいで。

このどこまでも遠く広がっている星空に比べたら
私たちはなんという近い距離にいるのだろう。
流れ星よりは遥かにゆっくりしか歩めない私たちだけれど、
この気持ちさえあれば繋がっていられるね、って思った。
























実家と自宅を行き来したら空の広さと明るさにあまりに違いがあったのと、
何気なく空を見上げていたら流れ星が見えた(多分しぶんぎ座流星群の一端)ので
大石夢にしてやりたいなぁと思って、しました!

2021年書き初めだっ!


2021/01/02-03