* 恋するにゃんこプリンセス *












遊園地の業務は色々ある。
販売、清掃、案内、などなど。
そして忘れちゃいけない、着ぐるみの中の人。


「やったー今日は私がにゃんプリだー!」


待ちに待った日がやってきた!

お客さんと直接触れ合えるし、
みんながとても喜んでくれるから
羨ましいなーって思ってたんだ!

「ナメてるだろ、結構大変なんだぜ」
「大丈夫です!私こども大好きだし」
「そうじゃねえって。蒸れるし息苦しいし視界は狭いし歩きづらいし」
「う…大丈夫です!がんばるもん!」

経験者の先輩に脅されて怖気づいちゃったけど…
ガッツポーズして意気込みを確認。
大丈夫、がんばる!!


頭部分、結構大きいな。
腕、割と動かしやすい。大丈夫。
足元は見えにくいけど、段差なければ歩くの問題ない。よし!

ていざ時間になって…出陣!

「あっ、にゃんこプリンスだ!」
「写真撮ってもらおー!」

人通りの多い広場に出てぱたぱたと手を振ると、一気に人に囲まれた。
すごい!めっちゃ人気者になった気持ち!
先頭の女の子二人組が自撮りの体勢でスマホを向けてくる。

「撮るよー!はいチーズ!」

掛け声に合わせてポーズを取った。
可愛い可愛いと言われて私も気分がいい。

「ハグしていい?」

聞かれたので、コクコクと頷いてきゅっと抱きついた。
あったかーい!ふかふかー!と大喜びしてくれて、
手を振りながら最高の笑顔で帰っていった。

何このお仕事!
たのしーーー!!!

「ほら、順番来たわよ」
「にゃんこプリンス〜!」

今度は親子がやってきた!
優しそうなお母さんと、元気そうな息子さん。
3歳くらいかな?
これくらいなら持ち上がりそう、と思って顔の高さが揃うまでリフトしてみた。
これもまた大喜び!

「あっ、そのまま写真お願いします」
「ピーーース!!!」

そのあと地面に下ろしてあげたら、もっともっとってせびられちゃったけど
いつの間にか列もどんどん伸びてる。
その子にしか聞こえないように「またきてね」って言った。

「またね!にゃんこプリンスー!!」
「ありがとうございました」

二人は笑顔で帰ってくれた。
よかったよかった…。

このお仕事めちゃくちゃ楽しい!本当に天職かも!

始めのうちは、そう思っていられたけれど。


「(し、しんどい…)」


数時間経つとさすがに疲れてきた。
頭は重いし足はむくんでる。
ひと組に時間掛けすぎかな?
もっと塩対応にするべきだった?
だけど私はみんなに幸せになってもらいたいし…。

列が途切れてくれたら早めに休憩行けるんだけど、
全然その気配はない。寧ろ少しずつ伸びてない?
にゃんプリ人気だなぁ…。


「(期待に応えないとね。にゃんプリはみんなを元気付けないと!)」


そう自分を奮い立たせて頑張った。
列の方を見ると、背が高めな男の子たちの集団が目に入った。

「もうすぐオレたちの番だね!」
「ああ」

そう言って嬉しそうに笑い合ってる。
中学生か高校生くらいだよね、にゃんプリ好きなのかな?
わざわざ並んでくれるなんて、ちょっと可愛いかも…。

そんなことを考えてほっこりしたとき。

「うわーーーん!!!」

列の後ろの方で、小さな子が大きく声を張り上げるのが聞こえた。


「(どうしたんだろう…大丈夫かな。
 お母さんも一生懸命あやしてるみたいだけど、全然泣き止まない)」


こういうときこそ、にゃんプリの出番なのに…!
でも列に並んで待ってる人たちを邪険にするわけにはいかない。
これは、私の仕事なんだから…。

そうだ。
私はにゃんこプリンスなんかじゃない。
殻を被っているだけ。
仕事としてにゃんこプリンスをやらせてもらっているだけ。

なんか、急に無力感……。

でも今は自分が任されたことをしっかりこなさないと。
そう思って列に次に並ぶ人をを招き入れて対応した。
私の表情はお客さんたちに見えていないのは救いだった。
動きだけは明るく元気に振る舞って目の前の人を楽しませることに専念した。


「(さ、次のお客さん……あれ?)」


そろそろ男の子たちの集団のはず、と思っていたけど
坊主頭の変わった髪型をした男の子が誘導をしていて、
代わりに、私の目の前には。

「ぶええええええん!!!」
「ほら、にゃんこプリンスよ!」
「ぶええ……え?」

これでもかというほどの大声で泣き叫んでいた子、
それは列のはるか後ろの方にいたさっきの子だった。
にゃんこプリンスを目の前に見て、驚いているようだった。
ぱたぱたと手を振って、いないいない、ばあ!

その子は……笑ってくれた。

「キャハハハ!」
「よかったわね、にゃんこプリンスが遊んでくれるって」
「にゃんこぷりんしゅー!!」

よかった、元気になってくれて。
にゃんこプリンスはすごいや。

「(あの子たち……)」

例の男の子集団は、列のはるか後ろの方に並び直してた。
ずっと待っててあと少しまで順番がきてたのに、
あの男の子が、泣いてる小さい子に気づいて譲ってあげたんだ。
立派だな…。

にゃんこプリンスはみんなに元気を与えてあげなきゃなのに、
元気をもらう側になっちゃった気持ちだ。

しばらく戯れてから親子連れにバイバイをした、そのとき。
インカムから通信が。

『時間です、戻ってください』

あー…。

にゃんこプリンスが外に出ていられる時間は決まっている。
この連絡を受けたら、今対応している人たちを最後にして去らなければいけない。
並んでいる人たちに残念な思いをさせてしまうかもしれないけど
心を鬼にしてその場は立ち退くように、と教育されている。

うー……。

時計の方を指差して、ビックリするポーズをして、
もう行かないと、って走るジェスチャーをして、ぺこぺこ頭を下げた。

「あー、にゃんこプリンスもう行かないといけないのか」
「ここまで並んだのに残念ー」

伝わったみたいでよかった。
ごめんねごめんねと頭を下げる。
列の前方の人たちは意味を理解してバラけだした。
後ろの方…男の子の集団は、まだ事態に気づいてない。

さっきのこと、一言、お礼を伝えたい。
小さい子に譲ってくれて、ありがとう。
私にも元気をくれて、ありがとう、って。

「…って、うわ!」

声を出すことができない私は眼前に現れることしかできなかった。
言葉で伝えることができない。
頭を上げたら謝ってるみたいだ。
どうしたら、わかってもらえるかな。喜んでもらえるかな…。

「にゃ、にゃんこプリンス?」

お願いにゃんこプリンス、勇気をちょうだい!

この気持ち、伝わって!


「あー!大石、にゃんこプリンスにハグされてる〜!」
「なんで急に…」
「もしかして、大石の親切を見ていたからじゃないかな」

こくこくと頷いた。
よかった、周りの子たちがわかってくれた。

「はは…こりゃ参ったな」

大石と呼ばれたその男の子は照れたように笑った。

そして彼らと写真を撮ることになった。
その写真に私自身の姿は写らないけど、
同じ空間に入られるのが嬉しかった。

「見てあれ!ズルくない?」
「あのお兄さんたちの方が先に並んでたの見てたでしょ!
 大きくなったらああいう優しい人になるのよ」
「…はーい」

そんな親子の会話を耳にしてほほえましい気持ちになった。
あの男の子も、いつか大石クンみたいなお兄さんになってくれるといいね…。

「なんか照れくさいけど、いい思い出になりそうだよ。
 ありがとう、にゃんこプリンス」

そう言って大石クンに手を握られた。

着ぐるみごしなのに、他の子たちには平気だったのに、
急に顔が燃え上がるみたいに熱くなった気がした。
私の表情がお客さんたちに見えないのは救いだってまた思った。
写真を撮るときに大石クンの背中に添えていた手を焦って離して、
ぺこりとおじぎして、私はその場を走り去った。

風が当たらないから走った分だけ顔が熱くなる気がしながら駆け抜けた。
走るのは、急いで戻らないといけない、それだけが理由?


「(着ぐるみだからって、私の正体はわからないからって…
 中学生や高校生にもなるような男の子にハグするなんてよく考えたら恥ずかしい!!)」


彼らは、中に誰が入ってるだなんて考えてないんだろうけど。
もしも生身の私にすれ違ったとしても絶対気づかないけど。
でも、私の方は「あのときの子だ」って気づいちゃうだろうな。なんて。





「おーお疲れ。どうだった初のにゃんこプリンスは?」


事務所に戻るとニヤニヤした先輩がそこにいた。
私は着ぐるみの頭を外して、紅潮させたままの笑顔で答えた。
「最っ高に楽しかったし、元気をもらえました!」って。

ありがとうにゃんこプリンス。
ありがとう大石クン。
やっぱり私はこのお仕事が好きだ。
またやりたいな、にゃんプリの中の人。

だから、いつかまた遊びにきてね。待ってるよ!
























[青学]大石秀一郎SSR+のカードストーリーに感銘を受けまして…。

テニラビBest Team!〜青学編〜ガチャでは結局大石は自引きできなかったけど
クリスタルを使って無事お迎えできました。ええ。ありがとう天井。
ストーリー読んだらあまりに萌えたので勢いで書いてしまった。

これで後日大石が彼女連れてネコネコパーク()来てくんねえかなあ…(鬼畜の所業)


2020/12/25