* 名演技だったなんてね。 *












クリスマスまで一週間を切った。
今日はその日のために彼氏にプレゼントを買いにきた。

彼氏できたの自体も始めてだし、プレゼントってどういうもの上げればいいんだろ…。
中3男子って何をもらったら喜ぶもの?

文房具、って感じじゃないよなぁ。
服…っていうのもなぁ。
書籍?うーん…。
おもしろグッズとか?
いっそ食べ物の方がいい?

「(んーーー…)」

「あれ、か?」
「あー大石くん!」

そこにいたのは、クラスの学級委員の大石くん。

「奇遇だな。買い物か?」
「そー…なんだけどさ」

そこにいるのは、中3男子。
ふむ。

「今急ぎじゃなかったら、ちょっと相談していい?」




  **




「なるほど…クリスマスプレゼントな」

事情を説明すると、大石くんは納得したように頷いた。
私と、クラスメイト同士で付き合い始めたことは
最近大変な噂になってるから大石くんの耳にも届いていた。話が早い。

「うん。どんなものあげればいいか全然わかんなくてさ!
 彼氏できたのも初めてだしー。アイツがどんなもの好きかまだよく知らないし。
 一般的に中3男子ってどんなものもらったら嬉しい?」

大石くんが真剣な顔してうんうん頷きながら聞いてくれるから
つい気を良くして捲し立ててしまった。
ついつい喋りすぎてしまったかな…と思ったけど、大石くんは柔らかく笑ってくれた。

「幸せそうだな」
「えーそう見える?正直付き合うとかまだよくわかってないんだけどー」

これは照れ隠しとかじゃなくて、本当に言葉通り。
に告白されて付き合うことになったのは今月頭。
特別好きな人がいるわけでもないし、せっかく告白してくれたからそのまま飲んだ。
何回か一緒に下校して寄り道してだべったり…その程度。
まだそこまで彼氏彼女らしいことはしてないって感じ。
休日に遊ぶのは今度のクリスマスの日が初めになるんだけど、
何か発展があったりとかするのかなー…と思っているところ。

「彼女が買ってくれたものならどんなものでも喜ぶんじゃないか」
「アイツそういうタイプかなー。んー。マジでわかんないよー…」

わからなすぎて髪をわしゃわしゃしたところで、
見かねた様子で大石くんは言う。

「実は俺も今度テニス部でやるクリスマスパーティの
 交換用のプレゼントを買いに来てるんだ。よかったら一緒に行くか?」
「マジー?早く言ってよ!」

助かるー!!
お言葉に甘えることにした。
「じゃあ行こうか」と大石くんは柔らかく笑って、
私は大石くんと一緒に雑貨屋に向かった。

大石くんに相談に乗ってもらいながら、
私もまた大石くんの相談に乗るような形で、
二人とも同じお店でプレゼントを選んだ。
物を選ぶのは楽しくって、爆笑したりしながら
なんだかんだ1時間くらい買い物をした。

「いいのかい、恋人へのプレゼントがあんなおもしろグッズで」
「いーのいーの!ガチなやつよりああいうのの方が喜ぶ気もするしさ」

とか言って向こうがめっちゃガチなもの選んでたらどうしよう!
ブランド物のバッグとか!?
そんなわけないか!中3男子だし!
アイツ絶対そんなにお金ないし!!

「大石くんも、クリスマスパーティ楽しんでね」
「ありがとう」

そう言って手を振ってお別れして、一日が終わった。
無事プレゼントが買えて、良かった良かった…。




  **




そしていざクリスマス当日!
この前買ったラッピングされたプレゼントを持って、
足取り軽く待ち合わせ場所に向かった。

はもうそこに居た。
でも、予想外なことに手ぶら。
あれープレゼント交換しようねって言ってたのに。
ポケットに入るような小さな物でも準備したの?
それとも選んでやるから一緒に買おうぜパターン??

「やっほ〜お待たせー!」

明るく笑顔で話しかけたのに、はあからさまに不機嫌な顔。
え。もしかして待ち合わせ時間間違ってた?
なんでそんな顔して…。

、お前浮気してんじゃねーよ」
「え?何が」
「この前の日曜日、大石とデートしてんの見たぞ」
「………え!?」

この前の日曜日、大石くんと一緒にいたのは本当だ。
でもデートって。

「誤解だよ、偶然会ったからプレゼント選ぶのにアドバイスもらっただけだよ」
「随分長いこと二人で楽しそうに買い物してたじゃねえか」
「選ぶのに時間掛かっちゃっただけじゃん。別にデートとかそんなんじゃないし!
 っていうか見かけたなら声掛けてよ」
「完全に二人の世界だったよ」
「いやいや、二人の世界って…」

つまらん誤解過ぎる。
実際、私は浮気したつもりなんて微塵もない。
とりあえず冷静になってもらって、本当のことを落ち着いて話せばわかってもらえる。
そう思ったのに…。

「もう冷めたから。帰るわ」
「……は?」
「そのまま別れる?」
「………はあ??」

そっちから告白してきて、勝手に誤解して、何…!?
混乱してるうちに「とりあえず今日は帰るわ」とだけ残してはいなくなっていた。
私はわけもわからないままそこに取り残されていた。
はっと我に返って開いていた口を閉じた。

…意味がわからない。
どうしてこんなことになっちゃったの…?

なんとか誤解を解かないと。

パニック状態のまま、クラスのグループトークの中から
丁寧にフルネームで登録されてる「大石秀一郎」の名前を見つけて通話ボタンを押した。

『もしもし、?どうした?』
『大石ー!助けてー!!なんか浮気疑われてるー!!!』

私は端的に事情を話した。
私たちが一緒に買い物してる現場を目撃されて誤解されて、
そのまま今日のデートを強制的に解散にさせられてしまったこと。

『ごめん、俺が一緒に買いに行こうって誘ったから』
『いやでも誘いに乗ったのは私だし…そんな悪いことしてるつもりもなかったし…』

さっきまでは怒りに近い感情だったけど、
冷静に説明しているうちに、悲しい思いに包まれてきた。
楽しい一日になるはずだったのに。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう…。

、泣いてるのか?』
『っ………ごめ』

涙と一緒に鼻水まで出てきて、すすった音を大石くんに勘づかれた。

『俺なら絶対に、そんな苦しめるようなことしないのに…』
『…大石くん?』
『…………』

大石くんの方からにも説明してもらって誤解を解いてもらいたい。
そうお願いしようと思っていたのに、
私が頼む前に大石くんから質問が飛んできた。

、今どこにいる?』
『え、青春台駅…』
『今すぐ行くから、動かないでくれ!』
『え、ええ?』

今すぐ行く、って…。
大石くんはどこに居るの?どれくらい掛かるの?
聞くより先に通話は切れてた。
こんなに焦ってる大石くんを見るのは珍しい…。

まあ、いいか。
誤解が解けない限り私は今日一日予定がない人だし。
今日、って言うか…。
とこのまま付き合い続けるのもうまく行く自信ないな。
このまま別れちゃうのかな……。

そんなことを考えて俯いていた私の肩にガシッと力が加わった。
驚いて顔を上げると、そこに居たのは大石くんだった。
汗がすごい。

「大石くん!早かったね、電話から10分も経ってないよ」
「パーティの準備で学校に居たんだよ。そんなことより、大丈夫なのか!?」

両肩を掴んで顔を覗き込んでくる。
さっきまで微妙に泣いてたから目とか鼻とか赤いかもしれない。
こんな至近距離で見られるのは恥ずかしいな…と思っていると、
大石くんは見たことないくらい険しい顔で「…ッ!」と漏らしてスマホを操作し始めた。

「大石くん、落ち着いて…」
は黙っててくれ!俺がなんとかする」
「えええ…」

こんなにイライラする大石くん、見たことない…。
誰よりも優しくて気配りでクラスを上手にまとめてくれる大石くんじゃない。

から話を聞いたぞ!どういうことだ!」

通話が繋がったようで大石くんが声を張り上げた。

「デートなんかじゃない!もそう説明してたはずだろう!」
「一緒に行動していたのは事実だ」
「そうじゃない!彼女がお前へのプレゼントを選ぶのにどれだけ頭を悩ませて一生懸命選んでいたか想像したのか!?」

向こうの声は聞こえない。
大石くんの発言だけから会話の内容を推測する。
穏やかな話し合いではない。それはわかる。
こんなに声を荒げる大石くんは珍しい。
のことだから同じか、それ以上に荒い言葉で応戦してるに違いない。
この会話がどういうところに着地するのか、耳をすませて居たら。

「お前がそんな態度を取るなら、俺がをもらってしまうぞ!」
「え、えええええ!?」

まさかの発言が聞こえて、耐えきれず私も声を上げてしまった。
大石くん、今、何を。

びっくり仰天で硬直していると大石くんは通話を終了させた。

、ここに来るって」
「ちょっと待って大石くん、さっきの発言って…」
「………」

顔をしかめたまま大石くんは黙った。
え。いやいやいやいやいや待って待って。
全く想像だにしなかったけど、
もしかして大石くん、本当に私のことを…!?

「てめぇ大石…やっぱりのこと狙ってたのかよ!」

走ってきた様子で息を荒げてが現れた。

「…そうだ。でも、お前と付き合ってが幸せならそれでいいと思ってた。
 それなのにこんな悲しませるようなことをするんだったら、奪い取ってやる!」
「っんだと!?」

まさに、漫画やドラマで見たような「私のために争うのはやめて!」状態。
やめてよ、も、大石くんも…!

「二人とも、やめてよ!」
は下がってろ」
「ひええ…」
怖がってるじゃないか!お前のそういうところに問題があるんじゃないのか?」
「あわわ…」

も大石くんも、頭に血が上っちゃってる。
どうしたらいいの…!?と混乱する私。
すると、後ろからぐいと引き寄せられた。
もたれかかるとそのままぎゅっと抱きしめられた。
それはの腕だった。

「お前がなんと言おうと絶対には渡さねぇ!はオレの彼女なんだよ!」
…」

斜め上のの表情は真剣そのもの。
さっきはの気持ちがわからなくなっちゃってたけど、
はちゃんと私のことを想ってくれてた。
それがわかって嬉しかった。

正面に視線を向けると、それまで険しい顔をしていた大石くんはふっと表情を崩した。

「それが聞けて良かったよ」

………へ?

その後の大石くんはさっきまでの恐ろしい剣幕の欠片すら感じさせなくて、
普段見ているような、誰よりも優しくて気配りで
クラスを上手にまとめてくれる大石くんそのものだった。

、もうを悲しませるようなことはするなよ」
「お、おう」
「大石くん…?」
「名演技だっただろ」

そう言って、大石くんはウインクした。
……騙された。

そうだよね、大石くんが私のこと好きなわけないよね。

「それじゃあ俺は学校に戻るよ」
「あ…ごめんね大石くん忙しいのに」
「気にするな。じゃあ二人とも、メリークリスマス」
「おー…メリークリスマス」
「メリークリスマス…」

大石くんは手を振って学校の方向に小走りで居なくなった。
取り残された私とは、顔を見合わせて笑った。

「とりあえず…プレゼント交換する?」
「ワリ、オレ逆上してなんも買ってねーわ」
「何それー!」
「今から買いに行こうぜ」
「あはは、始めからそうしとけば良かったね」

そうやって笑い合いながら、無事クリスマスデートの再開となった。
そんな、楽しかった思い出。


その裏で、テニス部のパーティが大石くんを慰める会と
化していたことなんてそのときの私は知る由もなく。


「『名演技だっただろ』が名演技だったなんてね〜」
「何年前のこと言ってるんだ」
「あんなに怒ってる秀一郎それ以降一度も見ないもんな。
 よほど私のことが好きだったんでちゅねー」
「…、いい加減にしないと本気で怒るぞ」
「ぎゃー!やめてー!!」

笑い合いながら過ごす幸せなクリスマス。
まさかあのときは想像できなかったこんな展開。
この幸せが、どうぞ長く続きますように。
























ついったに妄想投下してたら止まらなくなったので一作仕上げてしまった。
ログとして投下しておく↓

> 彼氏のためにクリスマスプレゼント物色してたら大石とばったり会い
> 流れで選ぶの手伝ってもらったら彼氏に目撃されてて
> クリスマス当日待ち合わせ場所で即行ケンカして解散になってしまい
> 誤解を説いてもらおうと大石に電話で泣きついたら
> 「そんな奴別れて正解だ!俺にしておけ!」と言われるの回。

> or大石が彼氏くんに「君がそんな態度を取るなら俺が彼女をもらってしまうぞ!」言うから
> 「大石くん私のことを…?(トゥンク)」となってたら仲直りした二人を見て
> 「名演技だっただろ」って言うから、なんだ〜となりハッピーエンド☆
> と見せかけて本当は本当に大石は主ちゃんのことを好きだったの回。


2020/12/20-24