* 私の好きな人は地味、 *
私の好きな人は、地味だ。
背は高いほうだし、髪型だって割と特徴的。
なのに。
「おっとワリイ南!居るの気づかんかった」
「大丈夫だよ。痛くなかったか?」
「ヘーキ」
どうしてあんなに大きいのに気づかれないの?
しかもぶつかられた側が気づかってるし…。
相変わらずだなと観察を続ける。
私の好きな人は、いつの間にやら地味の代名詞、南健太郎。
南、名字ランキング200位。
珍しくない…けど、ランキング上位というには微妙。
健太郎、知り合いに2人居る。
うん。
なんとも言えない感じ…。
「(地味、ねぇ…)」
さり気なく横目で見ていると、いつの間にか隣のクラスの東方もそこにいた。
確か二人はテニス部のダブルスパートナーだ。
こっそり会話に耳をすませてみる。
「南聞いてくれ。今朝の占い、2位だったんだ」
「2位か!それは随分と派手だな」
周りは誰も二人の会話になんて着目してない。
おそらく唯一この会話を耳にしてしまった私は
「(いや!全然派手じゃないだろ!)」
と漏れなくツッコミをかましているのだった。
1位じゃないんかい!
どうせだったらビリの方が派手だよ!
2位って!確かに悪かないけど!
はっきりいって中途半端じゃん!
少なくとも派手ではないよ!!
「(って、言ってやりたい…でも急に話しかけるのも…)」
「おっ、地味’sやってる〜?」
二人の様子を見守っている私の視界に、3人目が姿を現した。
千石清純。
まさに、派手を体現したような人。
「どうしたんだ千石」
「いやあちょっと次の試合のことで相談したくってさ」
「なんだ?」
そう言って3人で喋り始めたけど…。
「あっ、千石くんだ」
「なんで清純がうちの教室いんのー?」
「やあみんな!今日も可愛いね!」
女子が数名集まってきて、一気に華やかになる空間。
千石は地味’s…もとい、南と東方に話しかけに来たはずが
そのまま女子との会話に夢中になっている。
置いてけぼりになった南と東方は、輪から外れて二人で会話を再開した様子。
見慣れすぎた光景だなー…。
なんてぼーっと見ているうちにチャイムが鳴った。
相変わらずだな。
相変わらず地味。うん、やっぱり地味だ。
**
今日の体育の授業はソフトボール。
守備が終わって攻撃に回ると、自分の順番が来るまではヒマ。
先生からは試合をちゃんと見て他のチームのプレイから学べと言われてるけど。
「そういえば男子今日100mのタイム測るって言ってた」
「へえ」
そちらの方を見ると丁度、次が南の番。
「(次…)」
ピッ!と言う、小気味よい笛の音とともに駆け出した南は、
一緒に走ったメンツを置き去りにしてて。
「(忘れがちだけど……スポーツ推薦だったっけ)」
「あ、もう攻撃終わった。行こ」
「うん」
ゴールするタイミングが入れ替えと被った。
たぶん女子は誰も着目していなかった。
私以外、は。
ファースト位置に着きながら肩越しに校庭の反対端を見ると、
南はもう他の男子と一緒にゆったり歩いているところだった。
**
教室に戻ると、いつもの光景。
誰もタイム測定のことで盛り上がっていやしない。
………南、一人。
声掛けてみる、か。
「南、さっきタイム測定見たよ。めっちゃ速かったね」
「見てたのか。少しは目立ってたかな。はは……」
情けない表情で頬を掻く。
走っている間の凛々しい姿が幻のようだ。
謙遜するでも、盛大に喜ぶでもなく、反応までが地味。
どうして私はこんな人が好きなのか。
地味なのに?地味だから?
一見ぱっとした特徴がなくて
影が薄くて
妙なところにツボがあって
信頼感があって
実は運動神経が良くて
なのに目立たなくて
人を思いやれるとびきりの優しさを持っている。
私の好きな人は地味、とは言うけれど。
「わざわざ声かけてくれて、ありがとな」
それだけ告げて歩き去っていく、
その表情は、とびきり柔らかくって。
私の好きな人は。
「(地味…じゃ、ないんだよなぁ)」
飾り気のない笑顔に視線を向けられた私の心臓は
今にも爆発しそうなほどにド派手に脈を打っていた。
16年ぶりに南夢を書いたよーw
いつも温かくて柔らかな夢絵で癒やしてくれるひまたんに捧げます!
お誕生日おめでとうございました!過ぎすぎた涙
2020/12/18-21