* パンプキン・パルフェ *












――ふわふわメレンゲ、

  プリプリプディング、

  仕上げはシャリシャリクラッシュキャンディー。


「こんなもんかなー…」
「ただいま」
「あ、大石おかえりー!」

手にクリームがついたまま首だけ廊下に覗かせる。
大石がネクタイを緩めながらキッチンにやってきた。

「お、新作か?」
「そ。ハロウィン用のやつ」
「ほんとだ。綺麗なオレンジ色だな」

パンプキンをベースにしたパフェだ。
色んな食材を使って味の変化を楽しめる逸品にしたつもり。

「今ちょうどできたとこ。よかったら食べてみて」
「そうか、丁度デザートがほしいなと思ってたんだよ」

外食して帰ってきた大石はそう言った。
今日の接待は大口の客先って聞いてた。
大石のことだから、気を遣ってあんまり食べれてないのかも。

「ほい、召し上がれ」

できたてのパフェとスプーンをテーブルに並べる。
背広を背もたれに掛けた椅子に座って、大石は手を合わせる。

「いただきます」
「どうぞー」

外観をぐるっと見回してから、
スプーンで一口目をすくってパクリと食べた。
この瞬間は、いつになって緊張する。

昔は「おいしいよ」しか言わなかった大石だったけど、
繰り返しているうちに辛口な意見も言えるようになった。
客観的な意見がもらえるのは、オレとしてもありがたい。

半分くらい食べ進んで、全ての材料をあらかた口にした大石は
ウンウンと頷くとスプーンを置いて話し始めた。

「いいんじゃないか。かぼちゃ味は大人も子どもも楽しめそうだな」
「でしょ?」
「ああ。食感が色々あるのも食べごたえあるよ」
「良かったーそれが今回のこだわりポイントだったんだ!」
「ただ…」

ただ。
大石はいつだってこう。
まず全貌を述べて、褒めてくれて、だけど最後には鋭い指摘。

「チョコレートがちょっと甘すぎるんじゃないか?」
「えープリンが甘いから喧嘩しないようにしたんだけど」
「その分もう少し苦味があった方が引き締まると思うんだけど」
「そっかなぁ…」

大石の味覚を疑ってるわけではないけれど、
自分の感性が期待から外れているのも悔しい。

「味見してないのか?」
「だって大石が一番に食べたいっていうから」
「そこまで謙虚に言いつけ守るのか」

そう言って大石は笑った。
大石は笑うけど、オレにとっては笑い事じゃないから。

チョコレートが作り直しとなると、
もういったん配合組み直して、計量して、混合して、
融かして、冷やして、固めて。
この先の手順を想像して小さくため息。


――チョコレートは温度が命。

  湯煎の温度は55度、

  テンパリングは27度から32度、

  型に入れたら冷蔵庫へ。


「(今晩はもうちょっとだけ夜ふかしだな)」

ちらりと時計を見やったときに「英二」と声を掛けられる。
呼ばれた方を振り返ると、試作品のチョコの残りを咥えた大石が。

促されるがままに、ぱくりとかぶりつく。


――チョコの融点は30度、

  人の体温は36度。


「(確かに、ちょっと甘かったかな…)」

ゆるゆる融けていくチョコレートを舐め取りながら、
二人が重なる部分の温度が上がっていくような、そんな気がした。
























おおきくフェスの大菊ワンドロワンライのお題『お菓子』で書かせて頂きました!
お菓子ガチ勢として書かないわけにはいかないと思ってw
英二はパティシエ、大石はどこぞの営業マンという設定。


2020/10/14