* エールを背に受けて *
「(あれ、あそこにいるのは…)」
フェンス外に転がっていったテニスボールを拾いにコートを出ると、
いつもは二人組で見かけるうちの一人がフェンス内を見つめている姿が目に入った。
よく越前の様子を見に来ている一年生だ。
「今日は一人なのか」
「あ、大石せんぱァい!」
気になって声を掛けると、期待以上に元気な返事が返ってきた。
「今日は桜乃が練習なので、私一人です!」
私ももうすぐ弟’sのお迎えに行かなきゃ行けないんですけどっ。
そう言って小坂田さんはいつもの笑顔を見せてきた。
そういえば、ずっと気になっていることがあったのだ。
今日は一人だし、多少聞きやすいかもしれない…。
辺りをを見回して、今なら近くに誰も居ないこと、
練習を抜けていても問題ないことを確認して、問いかけた。
「一つ気になっていることがあるんだけど、聞いてもいいかい」
「はい、なんですか?」
「その…君たちは二人とも、越前のことが好きなんだろう」
「そうですけど」
だからどうした、とでも言いたいかのようにあっけらかんとした返事が返ってきた。
回りくどい言い方では意図は伝わらないと判断し、
ためらいはありながらも直接的な質問をした。
「その…例えばだけれど、いずれ越前がどちらか一人を選ぶことになったらどうするんだ」
目の前の小坂田さんは、固まった。
そんなこと考えたことなかったとでも言うか。
それは禁句ですよと突き返されるか。
…どちらにせよすごく失礼な質問をしてしまったことに気付いた。
ごめん忘れてくれ、と訂正しようと思って口を開こうとしたところ
それより先に小坂田さんは勢いよく答えてきた。
「リョーマ様がどっちを選ぶかはリョーマ様の自由だし、
それがどっちでも私たちがリョーマ様のことを好きな気持ちは変わらないし」
そこまで言うと、険しげだった表情を変えて。
「私と桜乃が親友だっていうことも変わらないんですよ」
言い終わるときにはしたたかな笑顔を見せてきていた。
その笑顔は、あまりにも眩しくて。
たまに聞く、「友情と恋愛どちらを取るか」なんて言う設問。
君たちにとっては、どちらも譲れない「一番」なんだろうな。
そしてその一番である存在たちは、揺るぎないものなのだと、これでもかというほどわかった。
「…割って入る隙はなさそうだな」
「へ?」
思わずこぼしたひとり言を聞かれてしまい、
いやなんでもない、と言おうとしたがまた元気な声に遮られた。
「あっ、大石先輩ダメですよ桜乃のこと好きになっちゃあ!
なんたってあのおばあちゃんがついてますからね!」
「…そりゃ大変」
別にそういうわけではないのだけれど、とわざわざ否定する必要もないだろう。
それに、あのおばあちゃんこと竜崎先生はコート内で目を光らせている
俺もそろそろ戻らないと。
「それじゃあ、頑張って…っていうのも変だな」
いつも応援をもらっている俺たちにできることは、
それに応えるだけの強さを手に入れること。
「いつも元気をもらってるよ。ありがとうな」
「どういたしまして!」
敬礼と一緒にいつも変わらぬ元気な笑顔を背に受けて、小走りにコートに戻った。
俺ももっと頑張らないとな、と拳を強く握りしめて。
ようつべのアニプリ公式配信で見てたら、倒れかけた朋香を
大石が抱きかかえるシーンがあって頭がバグったので書いた(←)
2020/08/17