* 勘違いしてもいいかな *












「あれ?」



家に着くなりさっさと宿題を終わらせてやろうと
鞄を開けたら教科書とノートがない。
っていうか筆箱しか入ってない。

しまった…起き勉したら宿題がある科目まで置いてきてしまった。
家に帰ったら宿題やろう、とまでは意識してたのに
肝心の道具を忘れてくるとはなんたる不覚。


幸い、うちは学校から徒歩圏内。
制服から着替える前で良かった。
さくっと再登校することにした。




校庭でサッカー部と野球部が元気に練習している横を通り過ぎて、
さっき脱いだばかりの上履きを履き直して階段を上がった。

3年の階について、廊下を歩き出すとその静けさに驚かされる。


慣れた3年2組の教室。
でもこんな時間に来ることは珍しい。
ロッカーの中には、全科目置きっぱなしの教科書とノート。
必要なものを選んで引っ張り出す。

よしこれで大丈夫、と立ち上がって振り返って、
がらんとした様に改めて驚く。


放課後の教室って、ドキドキする。
昼間はあんなに人で賑わってた場所が、
私だけの特別な場所になったみたい。


こっそりと、自分の席から3列離れて1列前のその机に触れる。
大石くんの机。


きょろり。

……当然誰も居ない。


着席してみる。
ここで、大石くんはいつも勉強してるんだ…。

こてんと頭を倒す。
ほのかに温かい気もする。
そんなはずないけど。


……ふぅ。

行こうか。


と思った瞬間。


『ガララ』

「!?」


ドアが開く音で反射で立ち上がったけど、
たぶん座ってたのは見られた。

誰だ無害な人か仲良い子か先生とかならいいけど
冷やかすような男子だったら嫌だな…

て。

え。


「お、おおいし、くん…」

、まだ残ってたのか」


さりげなく椅子を入れながら
じりじり後ずさり…。 

頼むっ、気付いてないでいてくれ…!



「あの、 今、」

「ごめんなさいっ!」



先手必勝、
バレてたとわかった瞬間、謝罪の言葉と共に頭を下げた。

いやしかし、これはいわゆる墓穴じゃないか…?



「あの…さ」

「はい……」



謎の敬語で恐る恐る視線を上げた先、
見えたのは。



赤らめた頬で口元を押さえて目線を外した大石くん。

え?


「勘違いしちゃいそうだけど、いいのかな」


それ、は。


「そんな言い方されると、こっちこそ勘違いしちゃうけど」


間髪入れずに返す。
どういう、こと。大石くん。
そんな言い方は。

顔が赤いままの大石くんが口を開く。



「してくれよ、勘違い。
 というか……勘違いじゃないからさ」



ばさりと教科書ノートを取り落とした。



――放課後の教室って、ドキドキする。
昼間はあんなに人で賑わってた場所が、
私たちだけの特別な場所になったみたいだ。
























仮タイトル『勘違いしてくれ大石』w
赤らめた頬で口元を押さえて目線を外した大石に
「勘違いしてもいいかな」などと言われたすぎて書いた。

大石を呼び捨てするかくん付けするか、
大石から呼び捨てされるかさん付けされるか、
っていうのはどの組み合わせでも美味しく頂けるんだけど、
改めて「くん付けして呼び捨てされる」てめちゃめちゃ良くない…!?(私は好き)

青春してぇ〜!


2019/10/24-2020/06/13