* いずれたどり着く未来 *












「手塚くん、部活行かないの?」
「今日は、ちょっと」
「そうなんだ。また明日!」
「ああ」


そう言ってテニスコートの方に走っていく大石くんを見送り帰路に着く。
今日は一旦帰宅して、病院へ行く予定だ。

制服越しに、左肘を握り込む。
傷めつけられてからもう一日経過しているにも関わらずズクズクと痛むそこは、
何か、本能的にイヤな感覚を抱えていた。

もしも、このまま、テニスが………。


足元を見ながら歩いている僕の目の前に
別の人物の足が見えて顔を上げた。


大石くん…?


いや。大石くんに似ているけれど明らかにもっと大人っぽい。
大石くんに兄は居ただろうか。


「手塚…か」


目が合ったまま離れないと思ったら、思いがけず名前を呼ばれた。
そう言って、俺を見る表情はどこか懐かしそうに見えた。
どうやらこの人は俺を知っている。


「…すみません、どちら様でしょうか」


15cmほど高い位置にあるその顔を見上げた。
優しそうな下がり眉が印象的だと感じた。


「信じられないかもしれないけど、俺は2年後から来た大石秀一郎だよ」


2年後から来た?
あまりに理解し難い事実ではあるが、
先ほど感じていたように、その顔はあまりに似ているのに
まとった雰囲気が異なることには納得が行く。


「信じるのは難しいですが、納得はしました」
「…君は中1の頃からそんなに硬い喋り方だったっけね」


そう言って、ふっと笑う大石さん(と呼べばいいのか…)は、
いつも接している大石くんよりも柔らかい雰囲気であるように感じた。


「何故」、「どのように」、
聞きたいことは色々あったが、
そのようなことよりも気になっていることが一つ。


「未来から来たんでしたら、一つ質問があります」


右腕で抑えた左肘に力が籠もる。


「未来の俺は、テニスができていますか」


自分でわかる。
これは数日で治るような怪我ではない。

質問と言いながら、不安な気持ちをどこかにぶつけたいだけであろうと気付いている。
突然目の前に現れて未来から来たなどと言い出す人物を信じてまで。
藁にすがるような思いだった。

大石さんはまた、柔らかく笑った。


「ああ。ちゃんとテニスできているから大丈夫だよ」
「そう…ですか。ありがとうございます」


礼を返しながら、言われた一言は気休めにすらなっていないと気付いた。
俺を励ますために嘘を吐いたかもしれない。

そう思っていると。


「手塚」


先ほどまで柔らかく笑っていた大石さんは、
見たことのないような真剣な表情をしていて。


「これから、色々と辛いこともあると思う。
 だけど…絶対に大丈夫だから。
 君にはたくさんの仲間がいることを忘れないでほしい」
「……はい」
「勿論、俺はいつだってそばにいる」


今の俺には、そこまで響く言葉ではなかった。
だけど、きっと後々大切になる言葉なのだと思った。

しっかり胸に刻み込んだ。


「はい。ありがとうございまします」


頭を下げて、腕時計を確認した。

今日は病院に行くのだ。
あまりゆっくりしている時間はない。


「すみません、俺はこれで」
「ああ。引き止めてごめんな」


会えて良かったよ。
大石さんはそう言った。


なんとなく、一度振り返ったらもう見えなくなる、そんな気がした。

だけど、また会える。
未来の俺と未来の君で。

未来から来るだなんてそんな夢みたいなことが起こるのならば、
きっと、俺の夢も叶うのではないか。
そんな希望を胸に抱きながら、帰り道を急いだ。
























お題箱より「1年生の手塚くん(怪我のすぐ後くらい)の元に
3年生の大石くんがタイムリープしてくる話(友情色強め)」でした!

中1手塚の一人称が俺か僕かわからなくなって一旦全部僕で書いてたのは内緒だよ!


2020/06/13