* 大石くんを振り向かせたい! *












「っはよ〜大石!」


今日も姿勢が良くて見ててキモチーな!
なんて思いながら隣の席の大石に声を掛ける。
相変わらずの爽やかな声で挨拶が返ってきた。


「おはようさん。今日も元気だな」

「おう。バリクソ元気」

「ははっ。それは何よりだな」


うん。
今日もいい一日になりそう!

鞄の中身を机の中に移していると、
親友であるが話しかけてきた。


「おはよー

「はよー!ね、昨日あの番組見た?超ウケたくね?」

「ウケたウケた!でも爆笑しすぎてて大学受験でピリついてる兄貴にテレビ消された」

「クソじゃん」


笑っていると、斜め後ろの席からが話しかけてきた。


「あ、たちもアレ見てたん?クソ笑えんかった?」

「笑ったー!一番最後のヤツが一番笑えた」

「それ超下ネタだったやつじゃね?」

「おもろいもんはおもろい」

「ヤベー卍」


そんな話をして、朝から爆笑。


大好きな友達がいて。
楽しいクラスメイトがいて。
好きな人もいて。
私は学校が好きだ。


「なんかあそこ溜まってんな」

「ね、なんだろ」


との会話が一段落して辺りを見渡すと、
教室の隅の方で、女子数名が頭を突き合わせてきゃいきゃい盛り上がってる。
なんだぁ?

目配せしてと二人で様子を見に行く。


「なーにやってんのっ」

「あ、ちゃん!」

ちゃんも入る?」

「は?」


顔を見合わせて、きゃぴりとした返事が返ってくる。


「今ね、みんなで好きな人発表しあってたの」

「ね、入ろうよ」

「こんな朝からぁ?」

「関係ないよ!ね、入る?まだ時間あるし」


教室をぐるりと見渡す。
アイツは…遠く、自分の席で静かに本を読んでる。
ま、大丈夫か。


「……入る」

「やったー!」


こうして私とはその輪に取り込まれた。

口は悪いし男子と対等にやりあってるけど、私たちも一応女子だ。
こういう話は嫌いじゃない。寧ろ好きだ。
実は、休み時間になると私とは恋バナばかりしている。


「えーっと今までのおさらいをするとね…」


先に、既に発表した人たちは誰が誰を好きかということを教えてくれた。

「へー意外」という人もいれば「なるほどね」という人もいる。
興味深くはあるけど、大騒ぎするほどの驚きは今のところないかな。

何より幸い、被ってる人はいない。


「じゃ、ちゃんの番だよ」

「私かぁ」


大勢の前で公言したことなかったから、今更照れる。
小声ながら、張り切って応える。



「私は……大石!」



一瞬の間があった後、「「ええええええー!?!?」」と今日一番の叫び声が聞こえた。


「ちょっと!静かにしろ!バレるだろバカ!」

「だってすごく驚いちゃって」

「意外ー!」


大石の方向を確認したけど、
変わらず本に視線を落とし続けているから肩を撫で下ろした。


くんとかじゃないの?仲良しじゃん!」

「仲良いと好きは別じゃん」

「そうだけど…大石くんってちゃんのタイプの真反対かと思ってた」

「ね。大石くんは真面目だしあんまバカなこと言ったりしないよね」


おーおーなんとでも言うがいい。
でも私はこう見えて一年以上大石に片想いしているという
見た目に寄らない健気ガールなのだよ!


「でも大石くんが素敵なのはよくわかるよ、応援する!」

「そりゃどうも」

「うんうん、うちらも大石くんは好きな人ってわけじゃないけど、
 みんな大石くんのことは尊敬してるし人として好きだよね」

「わかるー!」


そういうもんなのか。
自分の好きな人が他人にも評価されているのは、悪くないものだ。
確かに私も、恋愛感情を差し引いても
大石のことは立派な人だと思ってる。


「でもさちゃん」

「お?」

「大石くんのことが好きなんだったらそーゆー態度取ってて大丈夫なの?」


不意に言われた一言で私は硬直する。
なんですと?


「……へ?」

「だってさ、ちゃん…その、言葉遣いも、その…男の子っぽいというか」

「おうオブラート包まんでええわ私はこういうヤローだよ」

「勝手なイメージなんだけど、大石くんのタイプは清楚な感じの子なのかなー、とか思ってたから」

「うんそれはわかる」


それくらい私も考えた。
でも、好きな人の前だから態度を変えるとかできない。
だって私はこんな感じだし。

っていうか、大石に好かれようって考えてない気がする。
近くに居られたら嬉しいし、姿を見れるだけでテンション上がるし。
一方的な片想いで終わるならそれはそれでいいというか。

だから、自分が大石を好きだという気持ちで一生懸命で、
大石からどう見られてるかとかそこまで気にしてなかった。
我ながら、マジか。


「そういえば呼び捨てしてるよね、大石くんだけじゃなくて男子みんなだけど」

「あー確かに言われてみたらそうか」


言われてみたら…そうだな。
……ホントだな!?
うちら以外のクラスの女子全員大石のことくん付けで呼んでる!
なんなら他の男子には呼び捨てするくせに大石だけくん付けしてる子もいる!

毎日とばっか喋ってたから気づかなかった!(も大概口が悪いから)


「なんていうの、大石くんって、清いっていうか?」

「わかるー。あんまり粗末に扱っちゃいけない感じするよね」

「ちょいちょいちょい、アイツは聖人かよ」


ツッコミを入れると間が合って、ツッコミ返された。


「…好きなんだよね?」

「うん、好き」


謎の再確認があったところでチャイムが鳴った。
私たちは散り散りになって、自席に戻っていく。

あんな話をした直後だから、大石の隣に座るのなんとなくドキドキする。


「なんだか、盛り上がってたみたいだな」


そんなことも知らずに、
大石は相変わらずの爽やかさで声を掛けてくれる。


「いやー朝からテン上げハンパなかったわ」

「女子のおしゃべりって、いつも楽しそうだよな」


そう言って大石は笑った。
ちゃんと私も女子にカウントされてて、そんなことで地味に感動してしまう。
他の男子、例えばとかは、多分私のことを女子だと思ってない。
誰にでも優しくて、平等で、それでいて芯のある…
私は大石のそんなところを好きになった。

去年委員会が一緒で気になりだして、
今年は同じクラスになって、
この前では席まで隣になって、
それだけで幸せだと思っていたけど…。


「(私は、大石にどう思われてるか、ね…)」





  **





「確かにそれ今まで意識してこなかったの致命的だよな」


休み時間、いつも通りと二人で会話をスタートすると
一言目からズバリと切られた。
今日も私たちの話題は大石で持ち切りだ。(私が話すからなんだけど)


やっぱり、おかしいのか。
好きな人に自分がどう思われているかを意識しないというのは。


「だって考えてみろよ。女はぶりっことかが発生する人種だぜ?
 好きな人に良く思われたい、可愛く思われたいってのは普通のことなんじゃね?」

「スミマセン…自分の想いを貫くのに一生懸命でそこに思考が至りませんでした…」

「マジウケる。まあ私はのそういうとこが好きだけど」


はそう言ってくれたけど、
私の思考は一般的ではないということがわかった。
なんで私はそうなのだろう、と自分の気持ちを整理する。


「私は一方的に見てられればいーやみたいなとこあってさ、
 大石と付き合う…とか。そんなこと考えたことなかった…」


そう、付き合うなんて、そんなこと考えたことなかった。
けど、今まさにそのことを言葉に出しながら、
大石と一緒に下校したり…休日にデートしたり…手を繋いで歩いたり…
そんな私たちを妄想してしまって、心拍数が上がった気がした。

え!!!そんなん無理じゃね!?


「私が勝手に大石のことを好きでいられればいいんだよ!」

「じゃあさ、大石が先に他の女子に取られちまったらどうすんだよ?」

「………」


想像する。

大石と一緒に下校したり、休日にデートしたり、手を繋いで歩いたりしているのが
別の女になっている未来を。

…………。


「それは、ヤダ」

「じゃあ頑張れよ」

「う……」


頑張れ…頑張れったって。
もう私の性格は知られてるし、
ここから変えていこうとしたって…。


「試しにさ、大石のことくん付けで呼んでみたら」

「は!?!?無理でしょ!今更?」


想像しただけで、顔が熱い。



「そんなの、好きバレするじゃん…」



は、ハハッと笑った。


「お前、意外と乙女だな」

「うるせー今更だろ!意外とか言うんじゃねー!」

「へーへー」


こんな感じでいつも通り、休み時間の恋愛トークで終わった。

普段の素行が悪いせいで、度々人気のない場所に消えていく我々は
「タバコを吸っているのでは」「学校を抜け出しているのでは」などなど
ありもしない疑惑を掛けられたこともあったが
実際はこんな話に花を咲かせているなんて、みんな知らない。





  **





教室に戻ってきて、次は英語の授業。
しかし私の意識は別のところへ飛んでいく。
それはもっぱら、大石に対してのこと。
今日は、まさにホットな、大石の呼び方について。


大石含め、男子のことをくん付けなんてこそばゆくってできない!
まあ、さすがにほらクラス替え直後とか?
まだギリギリ名前憶えた程度の得体の知れない相手に対しては
くん付けするみたいなことあるけど、
何回か喋って気心知れたなって思ったら呼び捨てしちゃうからさ。


大石のことをくん付けで呼んでた記憶なんて、もはや残ってない。
一番始めはそう呼んでたんだっけか。



大石くん…
大石くん…
大石くんかぁ……。



「(大石くん……)」



心の中で何回も復唱するうちに
ポッと火が灯るように胸が暖かくなった。

なんか、改めて…。
私、大石、のこと、好きだな。



「(…何考えてんだよ!!!)」



一人で勝手に考えて、顔が赤くなった気がして、
ノートを取る手を止めて自分の顔を軽く叩く。

呼び方って、人の関係をすごく左右すると思う。
関係によって呼び方が変わるのはもちろんなんだけど、
呼び方が変わると関係性も変わる気がする。

もし、私が大石のことを、大石くん、と呼ぶようになったら、
「片想いしている仲良しのクラスメイト」から
「片想いしている好きな人」に変わってしまう気がする。

なんか、気持ちが、すごく乙女だ。


「(これ、危険なんじゃね…?)」


そうは思いながらも、ちょっとだけ、続けてみることにした。
なんだか自分が少し変われそうな感じがしたから。


「(くん付けとかするんだったら、こんな喋り方もやべーよな…
 早速ヤベーとかいう言葉使ってる時点で)」


なるほど、大石くんのタイプは清楚な感じの子、ね。

それくらい私だって想像ついてるよ……。





  **





英語の授業が終わった。
ヤバイ、考え事してたら途中から置いてかれた…。

でも安心、私の隣の席には英語が得意な彼が居る!


「お…」


大石、と言い掛けて、違う大石くんだった、と考え直して、
でも今その呼び方をする自分を考えたら、恥ずかしすぎて、無理。
近くにはクラスメイトも居るし。


「…あのさ」

「ん?」

「ちょっとわからないとこあったから教えてほしいんだけど」


すごすごと教科書を差し出しながら質問すると
「ああ、どうした?」と笑顔で応えてくれた。
面倒臭そうな顔一つせず。
そういうところ、本当に…好きなんだよなぁ。

聖人かよ。うん、聖人かもしれない。
とてもじゃないけど私はこうは居られない。


「…って感じだけど、わかったかな?」

「え?あ!ごめんもう一回!」

「どこからわからなかった?」

「………全部」

「ふっ、大丈夫だよ」


柔らかい笑みで場を和ませてくれて、一から説明し直してくれた。
こういうとこ、ホントかなわないわ。

今度こそしっかりちゃんと聞いた。
しかもわかりやすい。
先生よりも説明うまいじゃん。


「めっちゃわかった。ありがとー」

「良かったよ」

「ありがとね、」


大石クン。

と喉まで出かかって、声には出なかった。


大石くん、ねぇ。
………。


なんだろう。
なんだか、穏やかな気持ちだ。
前より更に、大石くん、が、清い存在に見えてならない。


向こうからの私に対する見方が変わるんじゃっていう思いで
言葉遣いを変えることにしたけれど、
私の向こうに対する見方も変わってしまうだなんて。


でもそれと同時に、言葉遣いを取り繕ったところで
私が好きになってもらえることはないんじゃないか、と思ってしまう。

………。



「(今の私のままじゃ、ダメだろうな)」



それは、わかってる。

きっと、今までは心の底で諦めてた。
変わることを。好きになってもらうことを。
だから片想いのままでいいなんて思ったりして。



だけど、変えたくなってしまった。

やっぱり、私は、大石くんが好きだから。






  **






次の授業、時間丸々使ってイメトレした。

私は清楚な子。
私はお嬢。
大石くんのクラスメイトで大石くんの隣の席で
大石くんの様子を観察することを日課に生きてる
大石くんに片想いをしている女の子。
そう、それが私。


私は決めた。
あとで大石くんに話しかける!
「大石くん」って話しかける!



「(やって見せますわよ!オホホ!)」



我ながらキャラ壊れてるなー、とは思ったけど
これくらい根本から変えなきゃいけない気もするから
ちょっとこれで頑張ってみることにした。





  **






一人で居るところを見計らって話しかけることにした。
そのために昼休み、私は一階に降りてきている。


私は知っている。
保険委員長の大石くんは、毎日昼休み保健室に訪れる。
あとは、他に誰も居ないことを祈るのみ…!


ガラガラと戸を引く。

…居た。



さん、どうかしたかい?今先生いないけど」



そうか。
保健室に来るってことは普通は体調が悪いんだ。
何も理由を考えていなかった。


周囲を見渡す。

先生は居ないって言ってた。
カーテンが空いてるからベッドで寝ている人も居ない。
他には誰もいない。


もう、言っちゃえ!



「ううん、大石くんに用事があって探してた」



呼べたー!!!

心の中でガッツポーズをする私に対し、
目の前の人物は怪訝な顔で私を見つめ返す。


「…何かたくらんでるのか?」

「ちっ!!!」


ちげーし!!!といつもの剣幕でカチキレてしまいそうなところをぐっと我慢。
「違うよ」とニコリと笑って返す。

よし、できるじゃん、私。


「えっと…さっき教えてもらった英語、また質問があるから聞きたいと思って」

「なんだ、わざわざこんなところまで来るくらいだから急ぎの用事かと思ったよ」

「あはは。ごめんね大石くんも委員会の仕事で忙しいのに」

「いや、俺は構わないけど」


そこまで順調に会話は続いて、
でも大石くんは、不思議そうな顔をして頬を掻いた。


「その呼び方、なんか慣れないな。いつも呼び捨てだっただろ?」

「うん。変かしら?」


あれ、カシラとか喋り方やりすぎか??
普段が酷すぎて普通がわからん!
普通の女子はどうやって喋るんだ!

何が可愛い?
ぶりっこすごくない?
無理ナンデスケド!!!!


「変、というか…あんまり聞き慣れないなと思って。
 何か心境の変化でもあったのかい?」


そうやって気楽そうに聞いてきてくれちゃいますけど。

ウルセー!!!
テメェのせいだぞ!舐めてんのか!?!?

とか、言いたい!いつもの私なら言ってる!!!


だけど違う今の私はそんな子じゃない。
私は恋する乙女。そう。



「大石くんは、清楚な感じの子がタイプなのかなー、って思ったから」



うん、我ながらナイスなお言葉遣いでございましてよ。
これならば大石くんもワタクシのことを見直してくださるかもしれませんね。


って、ン?

なんで大石ポカンとしてる?

顔赤いし?

え、私そんな変なこと言った?

確かに言葉遣いは変だったかもしれないけど………


…………ん?

変なこと?



言ったー!!!!!!




「えっと、さん、今のはつまり…」

「ちょっとタイム!ワリィ!ナシ!いやマジでないわ!!!」




え!?!?コクった!?!?

これもう実質コクってるじゃん!!!


違うそうじゃない本当の作戦は
呼び方とか言葉遣いとかを少しずつ改善していって
私も大石くんに釣り合う女性になれたときに
振り向いてもらえればいいなっていう
そこに向けてのステップを踏み始めたところだったの、に。



「(終わった…もうフラれる…今すぐフラれる…)」

「ええと…」

「(オワタ…)」

「その、それは…俺に好意を寄せてくれてるって解釈していいのかな…」

「(もうやめてくれ喋らんでくれ…)」

「ごめん、こういうの慣れてなくて…」

「(アーメン……)」

「えっと………何か返事みたいなの必要なのかな」

「(R.I.P...)」


しかしいくら待てど、なかなかトドメが刺されない。


「(まあ、私が、はっきり言ってないからか)」


完全にそうとしか受け取れないことを言ったけれども、
「好きです」とか「付き合ってください」とか、
言ったわけではないのだ、私も。

これでは向こうも刺すに刺せないのか。



「ええと、俺は…さんのいつでも元気なところ、すごく良いと思ってるよ」



ああ。
脈がなさすぎてる。

これでは刺されなくてもわかる。



「(フる相手励ましてんじゃねーよ…お人好し)」



嫌になるよ。

そうやって誰にでも優しくて。


そんなところが、


そんな、



「大石のことが、好きだ」



口から飛び出した。

涙も一緒に飛び出した。



大石はハッとした顔になって、
ゆっくりと笑顔に変えた。

笑顔、だけれど、
こんなに優しそうで寂しそうな目があるだろうか。



「ありがとう……でも、ごめん」



嗚呼。

やっと刺された。



「(そりゃ、そうだよ。そりゃそうだ)」



わかってたんだ始めから。
うまくいかないことなんて。
だったら頑張らなきゃ良かった。
慣れないことなんかして。
このまま片想いでいいですって諦めてれば
傷つかなくて済んだのに。



「気持ちは嬉しいけど、応えることはできない」


うん。うん。わかってる。



「…ごめんな」


ううん。大石は悪くない。



縦に横に首を振って、涙がボロボロ振り落とされた。

本気で本気で好きなんだ。
確かに私はがさつだし素行は悪いし
とても大石に好きになってもらえる女じゃない。
それはわかってる。
だけど、この気持ちだけは、間違いなく本物なんだよ……。


「ただ、誤解しないでほしいことがあって…」


ん、何?



さんだからとかじゃなくて、今、誰とも付き合う気がないんだけなんだ」


…そうなん?



「さっきも言ったけど、俺は、さんのいつも元気で、
 周りにも元気を与えられるところ、すごく良いと思ってるよ」



………。
そんな風に、思ってくれてたんだ。

そんなの、思いも寄らなかったな…。



「ごめん、今の俺にはこれ以上は言えない」



ううん、ありがと。


声はうまく出せなかったけど、
首を横に振って、頷いて、なるたけの笑顔を見せた。

大石は、柔らかく笑い返してくれた。


ありがとう。
充分だよ。

そうだよ。
私は、大石のことを好きで居られるだけで満足だったんだよ。
それくらい幸せもらってたんだよ。


そしたら大石は、じっと目を見つめてくる。
なんだやめろそれはオレに効くぞ。


「目…少し腫れちゃうかもな、冷やした方がいいんじゃないか。あ、氷嚢あるぞ」


そう言って冷凍庫から氷を準備し始める。
そういうとこ、

そういうとこ…。


クソ。

ホントに好きだ、大石。



「…ぞういうごどずるがら、もっど好ぎになるだろ!バガ!」

「あっはは…こりゃ大変」

「……あぃがとー」



受け取った氷嚢はひんやり冷たくて、
腫れを引かすために目を押し当てたのに、尚更涙が出た。

大石。なんなんだお前。


「…ちょっと寝る」

「わかった。先生には伝えておくよ」


カーテンを閉じて、
ベッドに潜り込んだ。
大石は保健室を出ていく音がした。


暫くしゃくり上げて泣いてしまったけれど、
呼吸もだんだん落ち着いてきて、考える。


フラれた。

フラれちゃった。


わかってたけど、思ってた以上に辛かった。
でも、嬉しいことも言ってもらえた。


絶望なのか、
救われたのか、
わからなくなった。

諦めろってこと?
今は無理ってこと?



…クソめが。




「(大石、ゼッテー許さん。なんとかして振り向かす!!!)」




やっぱり私は清楚なお嬢にはなれそうにないけど、
でも、アナタが私の中に良いといえる部分を見つけてくれたから。

そのために、午後の授業には笑って戻らないとな!
氷嚢を目に当てなおして、大きく深呼吸をした。
























私に大石のくん付けは無理だった(笑)


2020/05/24