、大丈夫、痛くない?」

「だい、じょう、ぶ…」


本当は少し痛かった。
でも、痛いと言ってしまったら、少しでも痛そうな素振りを見せてしまったら、
秀はこの行為をやめてしまいそうだなって思ったから。

じっくり時間を掛けて私の体を慣らしてくれて、
もっと言えば何ヶ月も掛けて気持ちの準備をさせてくれた、
秀の優しさに私は応えたかった。

本当は呻きそうなほど痛いのを我慢しながら“初めて”を失って、
その相手が秀であったことに感謝した。




その後も何回か体を合わせたけど、
結局、イクとか、気持ちよくなるとかはわからないままだった。
秀とのセックスの思い出は、それくらいだ。
私の体のせいか、秀の技術のせいか、まあ両方だったんだろうと後から思う。

それでもひたすらに秀の優しさだけは感じ続けたけれど、
物理的な距離が生じてしまった私たちはその後、2年間の付き合いに終止符を打った。




それから、10年。










  * あの頃の私たちには想像のつかなかった未来の話 *












「きゃ〜〜久しぶり!」

ー!元気してたー?」


今日は、青学3年2組の同窓会。
都内のオシャレなダイニングバーに集まった。
久しぶりに会う、当時親友の姿を見付けて抱き合う。

懐かしい。当時の気持ちが蘇ってくる。


「いつぶりだっけ?」

「最後成人式でしょ?7年ぶりとかじゃない」

「ヤバー!」


そんなことを言ってきゃいきゃいと盛り上がる。
人もどんどん集まってくる。
当時の思い出話、近況、
もうすぐ結婚するとかしないとか。


は?結婚」

「あー…私は」


その話題は振られたくないなーと声を潜めていたけれど、順番が回ってきてしまった。
見栄を張ってもしょうがない。
本当のことを言うまで。


「まったく予定なし。っていうか、フリーだし」

「えー!?勿体ない!!」

「モテモテだったじゃん!」

「いやあ最近別れた」


これは本当。
でも、付き合っては別れてが多くて、
結局は誰とも付き合ってない時期の方が多いのかなー…。

色んな人を知ることはできたけど、
深く関係を築いていくことがどうにも苦手だ、私は。


「アンタめっちゃモテてたのにさ、大石と付き合い始めたらがっちりガードが堅くて、
 と思ったら別れた途端にとっかえひっかえが始まってさ」

「とっかえひっかえって言い方やめてよ!
 なんかうまく長く続かなかっただけじゃん」

「だってなんか電話する度に相手が変わってて」


の話に、みんなが「えー!」なんて言いながら笑ってる。
もう…。
でも本当にことだから否定できない。


初めて付き合った相手…つまり秀との関係は良好だった。
だからこそ、二人目以降、うまくいかなくて別れて、
次告白された人と付き合ってうまくいかなくて…を繰り返した。
人と付き合っていくのってこんなに大変なんだ、って思った。
そんなこんなで何人と付き合っただろう…思い出せない。


「最長でどれくらいだっけ?」

「2年半…」

「それが大石でしょ?あ、そういえば今日大石来てたよね?大石ー!!!」

「ちょっとやめてよ!」


来ているのはわかっていた。
先ほどその姿も視界の端に捉えた。
だけどどう距離を詰めれば良いのか、
どのような温度感で話しかければ良いのか、
迷って目線すら送れないでいたのに
思慮しているうちに最悪な方法で対面を果たしてしまう。


名を呼ばれてこっちを覗き込んできた秀と、目が合った。


このご指名で更にバカ騒ぎが増す男子テーブル。


「そういえば大石と付き合ってたよな!?」

「え、もう別れてるだろ?」

「当たり前だろ何年経ってると思ってんだよ!」


勝手に盛り上がる外野には敢えて言葉を挟まない。
ヤジをハハハと笑って流して目を細める。
ああ、すごく久しぶりだ、その目線。


そのまま「当時誰が好きだったか発表しようぜ!」「いいねー!」と、
男女別れていたのが一つの大きな集団となった。
好きだった人発表からそのまま思い出トークになり、
ああ、これは私の大好きだった3年2組そのものだなぁと懐かしくなった。


そうして2時間はあっという間に過ぎた。


お店を出てワイワイと喋り続ける元クラスメイトたち。
お酒が入ってることもあってみんな陽気だ。





呼ばれた声に振り返る。

秀だ。


付き合う前みたいに「さん」って呼んでくるんじゃないかなとも思ってたけど、
名前で呼ばれて、懐かしくてちょっと嬉しくて、ドキドキする。


「秀…久しぶり」

「久しぶり」


若干背が伸びたかな?
ガタイが良くなってる。
髪型違う。
微妙に声も違うかも。
ちょっと老けた。

観察すれば違いは色々挙げられる。
だけど、あの優しい穏やかな空気感は変わらないなって思った。


「ごめんねさっき急に、が」

「大丈夫だよ。アレがきっかけでみんなで話せたし良かったんじゃないかな」

「そうだね」


物腰柔らか。
前より更に、落ち着いた雰囲気になったなー…。


「良かったらだけど…もう少し喋っていかないか?」

「あ、そだね。それは私もちょっと思ってた」


心の底で思いながらも脳内で言語化されてなかった、
だけど言われてみたら、確かにもう少し喋りたい。
願ってもない申し入れだった。

さてこの輪からこっそり抜けて良いものか、
一応みんなに聞こえるように挨拶するべきか。
うーん、せめてくらいには声を掛けようかな…と思ったら。


「二次会行く奴〜?」

「はーい!」

「みんな行こうぜ!!」


そんなで一致団結する元クラスメイトたち。
そうか、全体の二次会もあるのか…。



「お前らは?」



声を掛けられて、目を見合わせる私たち。
秀が対応する。


「ちょっと、俺たちは二人で」

「何、復縁すんの?」

「ワンナイトだろ?」

「こら、やめろ」


茶化してくるやつに真面目に対応してるあたり、
秀はやっぱり秀だな…と思った。


でも、私こそ聞きたい。

復縁とかないの?
ワンナイトとか、ないの?


何はともあれ、私たちは全体とは別れて二人での二次会に行くことになった。

みんなに申し訳ないような…。
でも、ちょっと嬉しい。

体育祭の打ち上げのあとに二人だけで遠回りして帰ったりした、
あの頃の気持ちを少し思い出した。

そんな感傷に浸っているのも知らずに、秀は心配そうに覗き込んでくる。


「ごめん、もしかしてみんなと行きたかったかな」

「ううん、大丈夫!」


首を振って否定する。


「私も、久しぶりに秀とゆっくり話したかったし」


そう伝えると、秀は安心したように笑った。

みんなとも行きたかったのはあるけど、
こっちの方が今は大事だ。


「それじゃあ、行こうか」

「うん」


肩を並べて歩くのですら懐かしくって、
手こそ繋がなかったものの、
前はこうだったよね私たち…なんて思った。





  **





「ここでいいかな?」

「うん」


半地下になっているバーの前で秀は足を止めた。
正直どこでも良いと思っていた私は頷いた。

店内に入ると思っていたより賑わっていて、
私たちはカウンター席に通された。
隣り合って座るなんていつぶりだろう。

っていうか別れて以来会ってないのか…。


とりあえず飲み物を決めて、おつまみも選んで、
店員さんにオーダーしてくれている間こっそり観察してたけど、
ジャケットを着たその姿もすごく似合っててカッコいいな…とか。
秀、大人になったなー…。


「乾杯」

「かんぱーい」


グラスを軽く合わせて、二人きりの二次会が始まった。


今どこに住んでるだの、
仕事はどんな感じか、
今日の同窓会の感想、
相変わらずテニスはやってるのかとか、
最近私が料理にハマってる話も。

話題は尽きなかった。


…楽しい。
男の人と二人で喋ってて、久しぶりに本心でそう思った。

思い返してみれば、好きじゃなくなって別れたわけじゃ、なかったもんな…。


「今日、良かったよ」


ひとり言のように、秀が漏らした。
ん?とそちらを向くと、
グラスを見つめていた秀はこっちを向き直して、
「あ、いや」と話を続けた。


「俺たち…別れてから一回も会ってなかっただろ。
 今日会ってもちゃんと話せるかとか…
 は俺と会うのが嫌じゃないかとか色々考えてしまって」

「えー、ヤなわけじないじゃん!相変わらず考えすぎ!」

「今ならそう思えるんだけど、昨日の夜はとてもそう思えなかったんだよ」


そう言って苦笑いをするもんだから、背中を軽く叩いた。

まあ、本音をいうと私も「どんな顔して会おう」とかめっちゃ考えたし、
秀の好みっぽそうな服装をこっそり着てきてたり…。
実は、すごく意識してた。

照れ隠しで間を外すように腕時計を見た秀が、おっと、と呟く。


「もうこんな時間だ。そろそろお開きにしようか」

「…うん、そだね」


本当は、もう少し話したかったな…。
とか言ったら、秀はどうするだろう。

…でも言わなかった。言えなかった。
年を取ると、守るべき余計なものが増えて困る。
つまんないプライドとか。


お店を先に出て、支払いを済ませた秀が出てくるのを待った。
なんか…割と良い雰囲気なのでは?
とか期待してるのは、私だけかな…。


「ありがとう、奢ってくれて。ごちそうさま」

「これくらい全然いいよ。それより…」

「……それより?」

「あ、もしが良ければなんだけど…また食事とかしたいなって…嫌かな?」

「ううん、嫌じゃないよ!」


ふるふると首を左右に揺する。
ドキドキ。
これ、は、脈アリというやつでは…?


「今日、来るまでそんなつもり全くなかったんだけど、
 と話していて、やっぱり、なんというか…いいな、と思って、その……」


顔を真っ赤にして目線を逸したまま口ごもっていた秀が、
意を決したように目を覗き込みながら言ってきた。


「俺は、また付き合いたい!」


考えるまでもなく、私の返事は決まっていた。
反射のように答えた。


「はい!」


そのまっすぐな告白に、中学生のときの気持ちを思い出した。
嬉しい。

思えば、10年前に別れてしまったのも物理的な距離の問題だった。
私が親の仕事の都合で、新幹線や飛行機
に乗らないと会えないような場所に引っ越してしまった。
すぐには別れなかったし手紙やメールのやり取りはあったけど、
あるとき、電話で「別れよう」となったんだった。


今となっては、何の障害もない。
寧ろ、東京で一人暮らしを始めた時点で連絡取ってみても良かったのかも…とか。
今だから思う結果論かもしれないけど。
(そのときは秀に別の付き合ってる人がいたかもしれないし…)


「嬉しい…けど、なんか恥ずかしいね」

「そうだな」


色々な人と付き合ったことがあるけれど、
復縁をするのは初めてだ。
初めて付き合ったときの感じとは違う、けど、
長年付き合い続けてきたときとも違う。
これは。


「えっと…とりあえず、行こうか」

「うん」


歩き始めようとすると、「ん」と手を裏向きに腕が伸ばされた。
その手を取った。

わあ…何年ぶり?秀と手を繋ぐなんて…。


「これ知ったらみんななんて言うかね」

「な」


そんなことを話しながら、ご機嫌に手を揺さぶって駅までの道を歩く。
中学生当時の気持ちが思い起こされるようだ。

しかし。


「(ここで「帰したくない」とか言い出すようだったら
 秀も変わったなぁと思うんだけどな)」


そんな私の思考とは裏腹に、みるみる駅が近づいてきた。
秀は「それじゃあ、また連絡するな」なんて言ってお別れの準備を始める。


「そういえば新しい連絡先知らないな」


そう言ってスマホを探そう首を振って左右のポケットを確認する。

やっぱり、秀は秀か。
私ばかりが、悪い意味で、変わってしまったのではないかと不安になりながら
離されそうになった手を、きゅっと強く握りなおした。

目が合う。



「私たちもう、あの頃みたいな子どもじゃないよね?」



目は離れない。

無音の数秒が流れる。



ここまでお膳立てして解散はないだろう、と思っていると
秀は視線をぐるりと一周泳がせて、
「どういう、意味?」と聞くので
「そういう意味。」と答えてやった。


手がほどかれて、

え、もしかして幻滅された?

と思ったら、

そのまま肩が抱かれた。


それだけで、お腹の奥の方が熱くなる感じがした。


さっきより近づいた距離、首を思い切り傾かせて、
上から秀が問いかけてくる。


「まだ帰りたくないって意味で、いいんだよな」

「うん。帰りたくないって意味で、いいんだよ」


返事を確認して、秀は私の肩を引いた。
こうして私たちは、駅から離れて、夜の街に導かれていった。



私から誘ったのは、ある種のポーズだ。
「もうあの頃みたいなピュアな私はいませんよ」っていう。
あなたはそれを受け入れたってことで、いいんですよね?


何人目か、
数えるのも億劫になった経験人数。

そのリストに2回名前が刻まれることになるのは、アナタが初めて。



「ここ入るよ。大丈夫?」と肩越しに聞かれ、コクンと頷いた。
少なくとも、“こういうとこ”来るの初めてではなさそうだな…。

受付済ませて、部屋に上がる。
エレベーターの無音が苦しい。
ただ、握り直された手の力は強かった。



急だったけれど、たどり着いたのは割と綺麗な部屋だった。


…誘ってしまった。
完全に私が誘導した流れだったもんね?

えーと、何か私からアクションを起こした方が良いか。

さて、どうしよう。


「シャワー、浴びる?」

「あ、うん」


悩んでいると秀の方から提案してくれたので、
それじゃあ先に浴びさせてもらうことにする。
荷物を下ろしてコートを抜いで…としていると、背後に気配。

身構える暇もなく、後ろからぎゅっと抱き締められた。


「秀…」

………会いたかった」


方便かもしれないその言葉に、ばっちりときめいてしまう自分がいた。

だって。
本当はずっと、私も秀に会いたかった。

どれだけ待たされたんだろう。


「私も、だよ」

「……うん」


秀は私の体を反転させた。
頬に手が添えられる。
顔と顔の距離、30cm。

瞼がそっと伏せられ、
その顔がゆっくり近づいてきた。
私も、目を閉じた。


12年ぶりに

その唇に

触れた。


そうそう、こういう感触だったな…

と、少し懐かしく感じるのも束の間、
舌が差し込まれてきた。
どんどん押し込まれて、私の舌も絡めとられる。


「(んっ……きもちい)」


キス、めちゃめちゃ上手になってる…。

とろんと目が蕩けて開けられない。
キスしてるだけ、なのに、とんでもなく感じちゃう。

そりゃ別れてから10年経ってて、
物理的には12年離れてて、お互い色々あったよね。
私はその後何人とも付き合ったし、きっと、秀も。
………。


その巧みな舌遣いに感じさせられながらも、
私も負けない、みたいな変な意地もあって
軽く吸い込むようにしたり
歯列をなぞったり
ただのキスにもアクセントを加える。

秀は一瞬止まって、顔を離して、口を開く。


「…ごめん」

「ん?」

「やっぱり我慢できない」


その言葉の直後、より深い角度で口が合わせられた。
背中と腰に腕を回されて、体を引き寄せられると
中心部が硬くそそり立っているのが感じられた。
カチカチじゃん…。

いいや、シャワーは、諦めた。


どさりとベッドに押し倒されて、
秀と、その後ろに天井。
顔が近付いてきて、首元にキス。
繰り返されるその感触が甘美で、意識せずに吐息が零れた。

しちゃうんだ、秀と。
12年ぶりに。
初めてを失った、あの頃ぶりに。


服が一枚、また一枚取りさらわれていく。
少しひんやりとした私の肌に、
秀の手が、大きくて温かい手が、
なめらかに滑ってぬくもりを落としていく。

触れられるだけでこんなに心地好いなんて。


上手になったんだな、秀も。
そりゃそうか。
結局当時、セックスは数回したっきりだった。
あの頃はあんなにもたどたどしい手つきだったのに…それは私も同じか。

私も秀の下半身に手を伸ばす。
ベルトを外して、チャックを下ろして、
下着越しに固くなったものを握って扱く。

そのまま手を中に差し入れた。
予想以上の熱と湿り気を携えたソイツは手の中でも暴れた。
扱くほどに固さと大きさを増していく感触を確かめていると、
秀は私の手を制して一度体を起こすと、服を脱ぎ去り準備を整えた。

そして、私も布一枚纏わない姿にされた。
お互い、生まれたままの姿だ。


初めて見せあったときは、とんでもなく恥ずかしかった。
今も、その頃ほどではないけれど変わらず、恥ずかしい。
そんなに見つめないで。


手指が絡め取られて、布団に手の甲が押し当てられる。
顔が近付いてきて、キス。
深く深く。


片手が離されたと思うと、
その手は中心にそそり立つ棒に添えられた。
そして、私の中心部に宛がう。
ピクンと全身が震えた。


いよいよ、この時が。
ばくんばくんと心臓が大きく響いてる。


12年ぶりの期待に胸が揺れる私に、

「大丈夫?」

と秀は問いかけてきた。
その言葉と表情、どんだけ秀らしいんだか。


初体験が痛くてトラウマになったって話をたまに聞くけど、
私はそれほど痛いとか怖いような思いしなかったの、
初めての相手が秀だったからだろうな。

あのときの秀は、
技術こそ何にもなかったものの、
とにかくとことん優しかった。

勝手に声が出ちゃうのが恥ずかしくって
「やめて」って言ったら
本当にやめようとしちゃうくらいの。


もどかしかったけど、秀の優しさが感じられて嬉しかったの覚えてる。
懐かしいな。



なんだか、またあの優しさに触れたくなった。
別に、やめてほしい理由なんて何もないけど、

「やっぱ、やめて」

って言ってみた。


私の不安を包んでくれる?


秀は、ぐっと眉間に力を込めて、解いた。
そして軽くため息をついた。


「…そうだな。久しぶりに会ってすることじゃないな」


そう言って軽いキスを落とすと、「ごめんな」と頭を撫でてくる。

優しい。とんでもなく優しい。
不安を包み込むどころか昔の感情まで蘇るようで、
心臓のドキドキが治まらない。

しかし治まらないのは、私の心臓だけではない。


「(なんか、今更訂正しづらくなっちゃった…)」


下半身の疼きの治まらなくて、さり気なく脚をこすり合わせる。
本当にこのままやめちゃうの?


そのまま眠ろうとしているのか、
目を閉じて横に寝転ぶ秀に、キスをした。


「ん…?」

「………」


何度も何度も、文字通り鳥がついばむようなバードキスを重ねる。

触れさせるだけで嬉しい。
だけど触れさせるだけじゃ物足りない。

私から、貪るようなキスを、求めた。
唇を合わせたまま舌を突き出して、
そのまま唇の隙間、歯の間に割り入らせて
相手の舌も絡め取る。
吸い込んで、音が立つくらいにぐちゃぐちゃに掻き回す。


私はもう治まらないよ。
秀ももっと熱くなってよ。


顔を、唇を、そっと離した。
目の前のポカンとした表情に、顔が熱くなった。

驚いてる?
引いてる?
なんだコイツって思われてる?


次の瞬間、気の抜けた瞳に急に火が灯った、ように見えた。
私の気のせいでなければ。

だけど秀は何も変わっていないように穏やかに微笑む。


「ありがとう、。いいよ無理しなくて」


違う!と焦って否定しようとしたけど、
その発言が私への思いやりだけでできたものではないと気付いたのは、
そう言いながら、ペニスで私の敏感な部分を擦り上げてきていたから。

秀…?


「え、秀…」

「残念だけどな、ここは準備万端そうなのに」


そういうと私の穴の入り口部分、挿入される寸前までに棒の先端部分を押し当ててくる。
そして円を描くようにゆっくりと動かす。
あ…それ、キモチイ……。


のここ、ヌルヌルだよ?
 入れようと思えばいつでも入れられちゃいそう」


そう言いながら、ぐいっと腰は突き出した、のに
中には入れてこなくて肉棒は表面をヌルッと擦って通過していった。
それを繰り返される。

その度にクリが擦れて…!


「(こえ、でちゃう…ッ)」


ハッハッと息が浅くなるのを感じる。
敏感な部分を擦られ過ぎて、感度が高まり切っている。
これ以上繰り返され続けたら、我慢できなくなっちゃう…!

そう思って口元を手で覆ったタイミングで、秀は体を離した。



「ごめんな、久しぶりの再会なのに無理にこんなことしようとして」



そう言ってポンポンと頭を撫でてくる、
その視線はあまりに優しくて
初めてのあのときの秀とよく似ている、のに。



「終わりにしよう。な?」



その言い方は、あまりに挑発的で。


気付いてしまった。

“気づかれている”と。



「イジワル…」


「え、なんのこと?」



しらばっくれて、不安げな顔をする。

もしかして本当は本当にしらばっくれてるんじゃなくて
本気で私のことを心配してくれているのではないだろうか、
そう誤解してしまうほどに目線は優しくて。

だけど、そうではないとわかったのが、
私の腰がもどかしさに揺れたのを見逃さず、
口元が僅かに上がった、のを、私は見逃さなかったから。


秀、いつのまに、こんな。



「おねがい、いれて……」



真剣な眼差しが返ってくる。


「本当に、いいの?」

「はやく、おねがい…!」


思わず秀の手首を掴むと、
にっこりと笑顔が返ってきた。

瞬間。


「あああああああああっ!!」

すごい…中キュウキュウに締まってる」


一気に奥まで貫かれて、声を抑える余裕とか、皆無。

秀と初めてのときどんなだったっけ。
気持ちいいとかあったっけ。
なかった気がする。

その後巡り合ってきた、
元カレ、元々カレ、元々々カレ……。
行為自体には少しずつ慣れていった。


それが今、信じらんない、くらい、絶対一番気持ちいい。



「あっ、やっ、そこだめっ!あっ!アンッ!」

「すごいギチギチ、動くのしんどいくらいだよ、



そう言いながらも腰の動きは止まらなくて、
自分でわかる、下はびしょ濡れだ、
私たちの間は隙間ないくらいぴったり埋まってるのに
愛液が潤滑油になってもっと滑ってもっと気持ちよくなって、もう、もう、
もうダメ。


「っ…待って……っ!」


一度抜かれて、後ろ向きに組み敷かれたタイミングでストップを入れる。
喘ぎすぎて息が続かないなんて。


「こんな秀、知らないんだけど…!」

「俺も、がこんな感じやすいエッチな子だなんて知らなかったよ」


耳元で、明らか笑った声色でそういうもんだから、
お手上げ。


「ほら、こっち向きでも入れるよ」

「っ、あああああ!」

「すごい締まる…名器持ちだね」


そういう秀も、
硬いし熱いしおっきいし、
しんどい。
きもちよすぎてしんどい。


「胸、あの頃より成長したね」

「へ……あんっ!」

「感度はそれ以上かな?」


後ろから、胸を揉みしだかれて、
先端部分を指の先でコロコロと弾かれる。
そこ…気持ち良すぎて、そこ弄られながら、
下の抜き差しもどんどん速くなって、だめだめダメダメ



「ィク、イっちゃう!」

「いいよ、イって。どうして我慢するの」

「ま、待って…」

「ほら」

「ぁ、ああああああああああ!」



腰を手で固定されて高速でピストンされて、
私はあっけなくイってしまった。

こんなきもちいいの、はじめて。ほんとムリ……。


秀とセックスしてイカされたのはこれが初めてだと、ぼうっとした意識の中で思った。





  **





ん……寝てた。

朝?


んんっ!?



「あ。目、覚めた?」



そこに居たのは、私の頬を指で撫ぜている上半身裸の秀だった。
ちなみに布団を被せられてる私は…全裸。


「体、大丈夫か」

「ん……」


そうだ、昨日、
あんなことがあってそんなことになってあれやこれや…!

顔が急激に熱くなるのを感じて、布団を引いて顔まで潜った。


「いま何時?」

「んー…2時くらい」

「1時間くらい寝てた?」

「うん、そんな感じ」

「ごめん…」

「いいよ、ゆっくり休みな」


そういって私の肩をトントンと軽く叩き始める。
その優しい温もりと感触に、
一度開いた瞼がまた重くなりかけたけど。


「シャワー浴びたい…」

「ああ、そうだな」

「秀はもう浴びた?」

「俺もまだ」

「ふーん…」

「お湯、溜めて来ようか?」


考えてることを当てられてしまって、
悔しいながらも、こくんと頷いた。

「わかった、ちょっと待ってて」と私の頭をぽんぽんと叩いて、
秀は浴室に向かっていった。


その背中を見ながら、得も言われぬ感情になる。


10年という時間を埋めるみたいに、急速に距離を縮め始める感じがする。

この人と一緒に居られるんだ……
その思いだけで胸が一杯で、
それでも私たちがたどり着くのは、
あの頃の延長線ではないのはわかっている。


ああ。なんだこの気持ちは。

……苦しい。



秀は部屋に戻ってきて、
ぽすんと私の横に寝転んで、
反対を向くように横向きになっていた私の肩を軽く引いた。
だけど私はガンとして体を動かさない。



「…?」



焦ったように上半身を起こした秀がこちらを覗き込んでくる。
手で顔を覆って隠したけれど、啜り上げた音できっと気づかれた。

涙が止まらない。


「ごめん、やっぱり嫌だったか?」

「へ…?何が?」

「強引だったかな」


昨夜のことを、言っているのだろう。
秀の声は不安そうだ。

何を言ってるの。
寧ろ私が誘ったし。
あんなに気持ちよくて、幸せだったのは、
本当に人生で初めてってくらいだったんだ。
秀だって、私の気持ち汲み取ってくれてたでしょ?


顔が見えるように仰向けになって、ふるふると首を横に振る。
振り落とされるように、潤んだ瞳から滴が溢れる。



「違うよ……秀」



その指が、私の目の端から水滴を掬ってくれるのに、
それでは拭い切れないくらいにどんどん溢れる。



「昨日は幸せすぎておかしくなりそうだった」



ぐっと目を閉じる。
大粒の涙が、頬が冷たくなるくらい流れた。



「私、やっぱり秀のことが大好きだ」



わかっちゃったよ、私は。
この気持ちの理由が。




「………別れたくなかった」




この涙は、この10年間の気持ちだ。


久しぶりに会えて嬉しかったし、
秀は前以上に素敵な人になっていた。

その変化に、私が関わっていないのが悔しい。

本当は一緒に色んなことを見て感じて成長して来たかった。


どうして私はこの人と離れなきゃいけなかったんだろう。



「…俺も、一度だってを離したくなかったよ」



そう言うと秀は、私の体をぎゅっと包み込んでくれた。
大きい。温かい。
好き。大好き。



「でも、当時は当時で精一杯の選択をした結果だ」


声が胸越しに伝って聞こえてくる。

息が苦しい。
うまく息が吸えない。




「過ぎてしまったことより、今こうして一緒に居られることが幸せだよ」




うわあああぁぁぁぁぁぁぁ……と、
いつ最後にこんなに子どもみたいな泣き方をしただろう、
というくらい久しぶりに大声を張り上げて泣いた。

泣いても何も変わらない。
だけど涙も止まらない。


体に腕を回し返して、
尚更強い力を篭められる。

この感触は嘘じゃなくて、
それが何より幸せで、
幸せで幸せで苦しい。



秀。
私は秀のことが好きだ。
これからまた一緒の時間を過ごして、
一緒に「好き」を共有していけるのが嬉しい。
やっぱり私にはアナタしか居ないって思ってる。

だから、アナタと一緒に居る限り、
この苦しい気持ちもどこかには抱え続けなきゃいけないんだろうなとも思う。




――これは、ハジメテを失ったあの頃の私たちには、とても想像のつかなかった未来の話。
























タイトル過去最長になってしまった!
ちなみに仮タイトルは『童貞が進化してた』(笑)(割と気に入ってたがさすがにww)
ド童貞の大石相手に処女を失い、その後何人も経て大石に戻ってきたら
大石がとんでもないテクニシャンになってました妄想w(そしてドSだった)
わかるね、大石は童貞に限るけど非童貞大石も最高なんだ(笑)
つまり大石ならなんでもいい(笑)

(童貞x2言い過ぎでは…?)

なるべく大石を手慣れた風にすることに尽力したよ。
ラブフォに誘導するときの「ここ入るよ、大丈夫?」がイチオシ君。
(ほぼ決め打ちながらなんやかやちゃんと聞いてくるあたりが大石)

はーあ、大石と復縁したい人生だった。(元カノであること前提の発言)


2018/05/02-2020/05/20