* 購読開始でラッキーチャンス! *












「(このメルマガ結構オトクな情報多いなー。登録しよっと)」



さて、登録画面…。
氏名が必要、と。

メルマガだし、本名じゃなくても良いよね。



「………」



大石  っと。


…ぷくくっ。



好きな人の名字で登録してしまった!
もし結婚したらこんな感じかぁ。なーんて!
付き合ってすらいないのにー!!


こんなこと程度で喜んでるようじゃ彼女への道のりは遠いなー。
そう自覚しながらも、ちょっと愉快な気持ちでケータイをポケットにしまった。




  **







呼ばれて振り返る。
大石、だ。


「ん、なにー大石?」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


そう言って大石は、今度の文化祭について質問してきた。
そう、私はクラスの文化祭実行委員なのである。

こうやって大石と話せるのは、ラッキーだな。
委員会めんどうくさいけど、文化祭自体は楽しいし、立候補して良かった!
本当はめちゃくちゃ浮かれてるのに、平静を装って返事をする。


「それなら私、ケータイにメモってある。ちょっと待って」

「本当かい?助かるよ」


ポケットからケータイ出して、
大石に見える向きで開いた。

さてメモ帳、と。


お。


「ちょっと待ってねー変なタイミングでメルマガ来ちゃった」


メニューを開こうとした瞬間丁度メールが届いて、
そのままそのメールを開封してしまった。

数秒の間があって、表示されたそのメールは。



『大石様

 本メルマガをご購読頂きありがとうございます。
 おすすめの新商品がございます!』



「ん、大石?」

「!!!」



焦ってケータイを閉じたけど、
疑問を持った大石は既に本文を読み上げていた。

見られた!


「えっと…」

「………」

「何か見ちゃいけないもの見たかな、俺」


私は閉じたケータイを胸に抱き締めたままフリーズ。

大石は頭に手を当てて軽く首をかしげる。
ヤバイどうしようなんとかしないと!!


「ちちち、違うの!
 メルマガ本名で登録すんの微妙かなとか思って!
 そうそれ!別に大石って名字になりたいとかじゃなくて!」

「…え?」

「いや!だから違うの!偽名使おうと思って!
 名字ならなんでも良かったんだけど、大石の顔が浮かんで!」

「俺かい…?」

「え?あ!や、違う!そうじゃない!
 別の常に大石のこと考えてるとかじゃなくて!」

「………」

「あ!誰もそんなこと言ってないか!はは!アハハ!!」


テンパって訂正しようとすればするほど墓穴を堀りに掘って…自滅。
しまった大石なんて名字どこにでもあるし
偶然思いついたって嘘ついて流せばよかったのに!バカ!
っていうかそもそも、さらっと流せばいいのに
私がいかにも何かありますみたいな態度を取るから
大石も疑問に思った感じだったじゃん私のバカバカ!


「(恥ずかしい…穴があったら入りたい)」


絶対に今、顔が赤い。
なるべく顔を伏せたままメモ帳を開いて、
目も見れないままケータイを手渡した。


「…これ、聞かれたやつ」

「ああ、ありがとう」


そういって大石はメモを控えて「ありがとう」とケータイを返してきた。

それだけで終了で、さっきのには触れないでくれ…と思ったけど、
どんなこともきっちりやり遂げる大石が、見逃してくれるはずもなく。


「えーっと…さっきの」

「……はい」

「あまりよくわからなかったんだけど、とりあえず忘れるから」


大石はそうフォローしてくれた。
優しい。
優しすぎる。好き。無理しんどい。


…ああもう、乗りかかった船だ!


「忘れなくて、いいよ!」


去ろうとする大石にそう告げると。
足を止めて「えっ?」と振り返った。


「それは…どういう意味だい」

「意味、は……今は言えない」

「今は?」

「今度、ちゃんと説明する」


恥ずかしくって目が見れない。
これ、もはや告白じゃん。
こんな、何もない休み時間の教室で。


恥ずかしい。
恥ずかしすぎるけどちらりと大石の顔を盗み見ると、

「わかった。じゃあ、楽しみにしてるよ」

とだけ告げて、柔らかな笑顔を残して今後こそ去っていった。



はーーー……。



メルマガを好きな人の名前で登録するなんて余計なことするんじゃなかった。

頭から湯気が出るほど顔が熱くって、そのまま机に突っ伏した。


でも、これは、ある意味チャンスかもしれない。
そう思わないとやってられない。
こうなったら、プラスに変えてやる!


そう決心しながら、さっき受信した問題のメルマガを開き直してスクロールしていくと、

『購読開始してくれたアナタにラッキーチャンス!』

の広告が目に入って、一人で苦笑いしてしまった。
























ベームさんにアイディアを頂きましたwありがとう!


2020/05/16