アナタが夏を背負う姿を見たい。


初めて話したそのときから、ずっとそう思ってたの。










  * See you at Happy Summer! *












「(2年8組…か)」


新学期初日、横長に張り出されたボードの中から自分の名前を見つける。
今度は視線を縦にスライドさせて、他の人物を探していく。


友達、みんな離れちゃった。

知ってる人は何人か居そう。

げっ、荒井くんいる…ちょっと苦手だなんだよな…。


そう思ってあらかた上から下まで見終えたとき。



「えーっと俺はーっと、8組か!」



後ろでそう大きな声を出した人がいた。

この人、見たことある。
いつもおっきなテニスバッグ背負って自転車で登校してる人だ。
どうやら同じクラスみたい。


「桃、今年うちら一緒だよ!よろしくー」

「おーマジか!よろしくな!」

「えー私も桃ちゃんと同じクラスなりたかったのにー残念」


そんな会話が後ろで繰り広げられていく。
すごい、人気者なんだな…。


桃って呼ばれてた。
名簿に、桃城くんって人がいる。これかな?

こうやって盛り上げてくれる人がいたら、
すごく明るくて楽しいクラスになりそうだな。
うん、楽しみ。

さーってと、じゃあ教室に移動しようっと。


「そこのお前は?何組だ?」


また別の人にも話しかけてるー、すごいなー、
と思いながら通り越し際、横顔をチラ見しようとしたら。


目が合ってる。


「…え、私!?」

「おう」

「は、8組です…」

「じゃあ一緒じゃん!よろしくな!」


そう言って、屈託のない笑顔で笑った。
逆光が眩しい。
なんて、太陽が似合う人だろうと思った。


早くもわかってしまった。
桃城くんが人気者な理由が。

そんな新学期初日。




それから一ヶ月。
期待していた通り、桃城くんが中心になって明るくて楽しいクラスになっている。

始めは出席番号順だったけど、
ゴールデンウィークも明けて席替えをすることになった。


くじ引きの通りに机を移動させると、
なんと、私の隣は桃城くん。


「あ、桃城くんよろしくね」

「おーよろしくな!新学期初日に話したっきりだったな」


あ、覚えててくれてるんだ。
いつも教室の隅の方で大人しくしてる私なんかのことも…。


「俺のことは桃ちゃんでいいぜぇ!」

「え、でも…」

「いーからいーから…って、いってぇ!誰だ!?」


背後から桃城くんは丸めた教科書で襲撃された。
犯人は…。


「おれだよおれ」

「おっマサやんか!よろしくなー」


池田雅也くんだ。
そうか、二人は同じテニス部だったよね。
楽しい班になりそう…。

そう思ってこれからの学校生活に期待を寄せていたら。


「は〜まだ5月か、早く1学期終わらねぇかな」


えっ。

思わずずっこけてしまった。
もう終わること期待してるの…。


「期末考査怖ぇ」

「まだ中間もやってないのに期末の心配…?」

「だって期末は夏休み中に補習があるだろ!?
 絶対受けたくねぇな受けたくねぇよ…去年は散々だったからな」

「そうなんだ」


桃城くん、お勉強はそんなに得意じゃないのかな?
あんまり笑っちゃ失礼かなと思いつつ、
こっそり小さく笑ってしまう。


「だって誕生日まで補習だったんだぜ?」

「へー桃城くん誕生日夏休み中なんだ」

「もーもーちゃん!」

「あ……桃ちゃん」

「そうそう」


私がそう呼ぶと満足げに笑って頷いた。
いいのかな…私ごときがそんな呼び方させてもらって…。

でも、なんだか呼び方を変えたら、それだけで距離が近づいたみたい。


「(こうやって誰にでも同じように接してくれるから、
 桃ちゃんは人気があるんだろうなぁ…)」


あまりに眩しい。
それは、私が日影にいるような存在だからそう思うのだろうか。


「夏休み中は大会もあるし、楽しみだなー」

「大会?」

「俺テニス部でレギュラーなんだけどさ、全国狙ってんだ。応援よろしくな」



そう言ってニカッと歯を見せて笑った。

その笑顔には見覚えがあった。



「(初めて話したときに見たあの笑顔だ)」



振り返れば、その瞬間からずっと思っていた気がする。

夏を背負うキミの姿を見てみたいって。


青を背景に、黄色に照らされる、その姿を思い描いてみる。
急に夏が待ち遠しくなってきた。


「うん。応援、行くね」

「よろしくぅ!」


さあ、夏よ来い。

晴れ舞台で笑う君の笑顔が早く見たいよ。



だけど、その日を迎えるまでの毎日も大切に過ごしたいな。
そう思いながら、初夏の教室の空気を思い切り吸い込んだ。
























桃ちゃん今年のサマバレおめでとう!!!
楽しみだよー!

大石が来なかったことはいじけてない。
いじけてないですとも。。。(←)


2020/05/14