* その笑顔は変わっていなかった。 *












今日の私は気合が入っていた。
何故って?
今日は中学3年生のときのクラスの同窓会だから。


中学生の頃の記憶って、私にはとても大切なもの。
特に3年2組の記憶は、その中でも特に大切。
勉強も部活も恋愛も、頭空っぽにして一番全力打ち込めたのがあの頃だと思う。
それに比べたら、与えられた仕事を言われるがままに淡々とこなして
同じような毎日を繰り返している今は、なんと味気ないものだろうと思う。

なんといっても、3年2組には…。


「(来てるかな、秀一郎)」


そう。
同じクラスには、当時本当に大好きだった元カレがいた。

関係は良好だったと思う。
でも、お互い別の高校に上がると会う時間を作るのが難しくなって
中学3年生に始まった付き合いは1年間ほどで終了してしまった。

それから、7年ほどが時が流れている。


秀一郎と会うのは、別れて以来初めてだ。
今どうしてるんだろう…。
今日来てたら、色々話を聞きたいな。

それにもしかして…ワンチャン復縁できたりしないかな、なんて。

付き合い続けるのは難しかったけれど、
別に一度も好きじゃなくなったわけではない。
思い出を美化している一面もあるかもしれないけど、
私の頭の中は中学生の頃の秀一郎との楽しい記憶で一杯だった。


お店に着いた。
いよいよ、だ。

私は大きく深呼吸をしてから店内に足を踏み入れた。


「あ、ちゃん久しぶり〜」

「超久しぶりー!元気ー?」

「元気だよー!」


幹事をしてくれてるちゃんにお金を払って、
この奥の座敷が貸し切りだから、と案内される。

ドキドキしながら、中を覗く。
開始15分前、まだ空席が目立つ。
そんな中ぐるりと見渡すと……

………居た。


いつもこういうものには早めに来るタイプだったもんね。
奥の方に座っているその姿を目で捉えて、それだけで懐かしい気持ちになった。

髪型、前と違うな。
服装、スタイリッシュだし。

当時の秀一郎の、よく言えば個性的、悪く言えば宇宙…な髪型や服装を思い出す。
その頃の秀一郎のことも好きだったけど、
まあ、外見じゃなくて内面で好きになったんだけど…
と思いながらも、正直今の感じ。


「(……結構カッコいいじゃん)」


期待以上の久しぶりの再会に、不覚にも胸が躍った。

さてどこに座ろう、あわよくば隣とか空いてないか…と思ったけど、
秀一郎の周りには女子3人が囲んで4人テーブルが出来上がっていた。
(そういえばあの子たち仲良かったもんね、一緒に来たのかな。)


秀一郎は一度もこっちなんか見やしない。
まあ、時間はたっぷりあるしそのうち席替えとかもあるよね…。
そう思って、とりあえず別の席に腰掛けた。


「おひさ〜」

「あ、じゃん。おっす。一瞬わかんなかった」

「マジで?あまりにキレイになりすぎて?」

「いや…老けたくね?」

「コラ!」


そんなやり取りなんかもしながら、
男女2対2のいい感じのテーブルになった。
近況報告したり、中学校当時の思い出を語ったり…。

そんな中でも私の意識は。


「(なかなか席、動かないなー…)」


チラチラと、秀一郎がいるテーブルの様子を私は気にしていた。
さっき一瞬「前よりかっこよくなったね!」なんて言われてるのが聞こえてしまった。
秀一郎も満更でもなさそうだし。
前からキレイな顔立ちだとは思ってたけど、
さてはイケメンを自覚してしまったか…?

私は、爽やかで、でもちょっと照れ屋な、そしてとびきり温かい、
秀一郎のそんな雰囲気が好きだったけれど。


「(多少なりと変わってるのかな〜…)」


そんなことを考えていると、
「ちょっと俺トイレ」「あ、私も〜」「じゃあ俺別のやつらと話してこよ」と、
うちの宅が解散の雰囲気になった。
秀一郎のテーブルを見ると、偶然にも、丁度秀一郎の隣の席は空席になっていた。

そして、目が合った。



「しゅ……っ!」



立ち上がりながら呼び止めかけて、口を噤んだ。

何故って、秀一郎は私と一瞬目が合ったのを、あからさまに逸した。
直後に、また別の女の子たちが秀一郎のことを囲んだ。
秀一郎はそれを笑顔で迎え入れた。

…はいそうですか!!!


ちゃん〜久しぶり!」

「あ、久しぶり!」


また別の子と楽しく会話を始めながらも、
私の頭の中は他のことで一杯になっていた。


何?
そんなに私のこと嫌ですか?
もしかして秀一郎とか呼ばない方が良かった?
付き合う前みたいに大石クンって呼べば良かったですか???

確かにちょっと(いやかなり)前よりカッコよくなってるけど!
ずっと女の子たちとばっか喋ってて楽しいですか!
そうですか!
別に私のこと特別扱いしてくれとは言えないけど
元クラスメイトとして楽しくおしゃべりするくらいいいじゃん!!!


「(…萎えた。もういいや、普通に楽しも)」


やめた。
秀一郎と話したいとか考えるのは。

私はバカだった。
来る前、変な期待なんかして。
私は中学生の頃の思い出を美化しまくってたけど、
秀一郎にとっては私なんか思い出のほんの一部なのかもしれない。


その後の時間は、秀一郎のことなんか忘れて同窓会を楽しんだ。
…と言いながらも、視界の端ではずっと気にしてて、
目線をやるたびに違う子に囲まれてる様子にムカムカしたりなんかはした。正直。


長かったような、終わってみれば短かったような、
3時間の同窓会は終了の運びとなった。




お店を出ると、みんななんとなく道に溜まっていた。
このままここにいたら、きっと「二次会行こー!」ってなるんだろうな。

…もういい。帰りたい。

帰るフリして実は呼び止められたいとかじゃない。
心底疲れた。
二次会に無理矢理連れて行かれるとかは絶対に避けたい。

このまま、誰にも気づかれないままそっとフェードアウトしよう…と、
輪に加わらずそのまま駅の方角へ体を向ける。

じゃあねみんな、また会えたら会いましょう。

声に出さずに挨拶をして一歩を踏み出した。
瞬間。



!」



え。


腕を掴んできた主を振り返ると。


「……秀一郎」


そこには、焦った様子の秀一郎の姿が。


「え、何…」

「帰るのか?」

「あ、うん。そうしようと思ってたんだけど…」


何、何何何。
さっき思いっきり私のこと無視したじゃん。
今更何?
もしかしてなんか文句でも言いたい?
えなんなの怖いやめて。


「そっか…できれば少し話したいと思ってたんだけど」


秀一郎はそんなことを言う。
はい?


「だったら話しかけてくれれば良かったじゃん」

「そうなんだけど…」


ずっと女子はべらせてたくせによく言うよ!

私が腕を引くと、ゆっくり手は離された。
目線も外された。

何?私もう帰るよ?

逃げ腰になる私に対し、
目の前の伏せがちなその顔は、ほんのり赤く染まって。


「…あんまりキレイになってるから誰かわからなかったんだ」


え、

えええええええ!?


「どうなのそれは、元カノジョのことわからないとか!」

「本当にごめん!」


照れ隠しで思わずついてしまった悪態に、
秀一郎は素直に頭を下げた。

あまりのことに胸がドキドキした。
このドキドキは、なんだか懐かしい。

そう、中学生の頃、アナタに初めて恋をしていたときみたいに…。


「もし、さえ良ければなんだけど…」


こそっと耳元に顔が寄せられて。


「このあと、二人でどこか行かないか?」


そんな申し入れに対して、
私は「別にいいけど」なんて可愛くない返事をしてしまったのに
「良かった」と秀一郎は柔らかく笑って。



「(どうしよう、やっぱり……好きかも)」



以前から変わったその姿と、
今も変わらない温かさに、
私の胸は当時の記憶以上に大きく揺れてしまうのだった。
























大石くん(仮)のポジションに
リアル大石(※夢)(※妄想)がいたら…というお話でした!
設定をお借りしつつだいぶ想像でだいぶ補完させて頂きましたw

いつも大石くん(仮)ネタで楽しませてくれる
のえちゃんに捧げますよ。おたおめ!
その後の展開はご想像にお任せいたします!


2020/05/09