* 独り占めしたくないとは言っていない *












「最近、手塚の話ばっかでつまんない」


居残りでダブルス練習をしていた帰り道。
英二はそう言ってあからさまに頬をむくれさせた。


「……え?」

「自覚ないの!?最近大石ってば口開くと手塚手塚って手塚のことばっかりー!」


確かに今は、手塚の日誌の書き方が丁寧だという話から派生して、
自分もマメな方だとは思っているが手塚は俺とは違う観点で物事を見ていて
手塚は言葉数が少ないがみんなが想像以上にみんなのことを見ているから感心するよ、
というようなことを話していた。

その前は、手塚の好物のうな茶を最近初めて食べたらおいしかった話とか…
確かに、手塚のことを多く話題に上げている。
まさか、自覚なくそうしていたとはな。


実は手塚と俺は最近恋人同士となったのだ。

すっかり部の中で噂になってしまったので
てっきりみんな知っていると思ったが…。
誰よりもその手の情報に敏感な英二が知らないはずはないと思っていたけれど。


「あの、英二。実は俺、その……少し前から手塚と…」

「知ってるよ二人が付き合ってるのは!」


あ、そうなのか。
だったら、自然と話題に多く上がることにも
理解を示してもらえないものか…と思ったが。
英二はしかめ面のまま声を張り上げる。

 
「それはそれでいいとして、俺と一緒にいるときに
 手塚の話ばっかり喋ってるのはつまんないって言ってんの!」


英二はズビッと俺の眼前に指を伸ばしてきてそう言った。
とはいえ、どうしても話題というと共通の知人のことを話しやすい。
英二と手塚は特別仲が良い方ではないのは見ていればわかるが、
話題になるべくあげないでほしいというのは。


「…ヤキモチか?」


俺の言葉に対し、英二は大きく息を吸い込み、
直後には通学路に怒号が響き渡った。


「ちげーよ!大石のバカ!ホモ!手塚とイチャイチャしてろー!!」


そう叫んで、英二は先に走って帰ってしまった。
こりゃ大変…。


参ったな、明日謝るか…と言っても謝るほどのことでもないか。
とはいえ、違うと本人は主張していたが、英二がヤキモチ焼きなのは間違いない。
友人関係にしろ、英二相手にそのへんは気をつけた方が良いな…。


ふぅ、と一つため息が漏れて、
なぜか一人になってしまった帰り道を歩いた。





  **





その夜、手塚と電話をした。
付き合うことが決まって、毎日ではないが、
度々寝る前に通話することがある。

といっても恋人らしい会話があるわけでもなく、
明日の練習メニューとか、
次の大会のオーダーとか、
話題は部活のことがほとんどだ。


そんな話題に狭間に、俺は思い出したように今日の英二との会話のことを告げた。



「そういえば今日、参ったことがあったんだよ。
 英二と話しているときに、俺が手塚のことばかり話していたみたいでさ。
 『手塚のことばかり話すな』って怒られてしまったよ」

『そうか』

「英二はヤキモチ焼きだからな。俺が気をつけるようにしないと。
 深いところで二人の信頼関係がテニスのプレイにも影響するからな。
 特に俺たちみたいなシンクロするようなダブルスペアにとってはな」


そこまで一息で話して手塚の返事を待ったが、何も聞こえてこなかった。
元々寡黙なタイプの手塚ではあるが、相槌すらないのはおかしい。


「……手塚?」

『大石』


呼ぶと、改まったような声で名前を呼ばれてドキッとした。
電話越しに聞く手塚の声は、いつも以上に厳格に聞こえる。


『今考えていたのだが、俺はたとえお前が菊丸のことばかり
 話していたとしても不快になることはない』

「そうか」


それはある意味、予想通りであった。
手塚は英二とはタイプが違う。
構ってもらえないとヘソを曲げるようなところは想像ができない。
人によって考え方や感じ方は異なるものだ。
手塚は、変にヤキモチを焼いたりしない。

そう考えていると、手塚の言葉にはまだ言葉には続きがあった。


『だからといって、俺がお前のことを好きではないという理由にはならない』

「…そうか」


よくそんな歯の浮くような台詞を、さらっと言えるものだ。
手塚には恥じらいという感情はないのだろうか…。

そのままの流れで「それに」と続ける。


『菊丸の気持ちも、少しわからないでもない』

「そうなのか?」

『つまり、それは菊丸がお前のことを「独り占めしたい」と思っているということだろう?』


独り占めしたい…。
末っ子で甘えん坊気質の英二のこと、そうかもしれない。

しかし。
手塚、それをお前が言うというのは…。


「手塚、それって……」


手塚のことだから、余計な駆け引きなんてしない。
だとすると、これこそ、無自覚だろう。

その言葉、平たく言い直したら。


『俺にだって、お前を独り占めしたいという感情はある』。



「(そういうことじゃないか…?)」

『どうかしたか、大石』

「いやっ、なんでもないよ!」


電話越しだから、この顔が見られることはない。
それだけが救いだと思いながら、俺は手で顔を覆ったままその会話を続けた。
























ド天然攻手塚。
簡単に赤面させられちゃう受大石も可愛いよ受大石。

大菊で大石が手塚x2言いまくってたら英二はめっちゃ嫉妬するけど、
塚石で大石が英二x2言いまくっても手塚は動じないんだろうな、という話。

英二といるときと手塚といるときで
大石の性格がちょっと違うように変わるようにしたかったけど表現できてるかしら。


2020/04/26