* 触れていいのかわからなくなるなんて *












それは、いつも通りの部活でのワンシーンから。


「よっしゃ!」


新しいコンビネーションの練習中、
気持ちの良いショットが相手コートに決まって思わずガッツポーズ。


「うまくいったな」

「やったね、大石ぃ〜!」


コートの後ろから大石が駆け寄ってきた。
苦労も感動も一番に分かち合えるパートナーだ。
ハイタッチしようと片手を掲げているのを無視して、
思いっきりジャンプして抱き着いた。
大石はちょっとよろけて踏みとどまった。


「おっと、気をつけろよ」

「だって嬉しいじゃん!やーっとうまくいったんだよ〜」


長いこと練習してきたことがやっとうまくいったんだ。
これくらい喜んだっていいよね?

そうこうしているうちに、コートの向こうから
練習相手だった桃が歩いて来た。(海堂はどっか行った)


「やられたっスよーさすがっスね」

「サンキュ〜!」

「これなら次の試合もばっちりっスね」


大石から飛び降りて、オレは「へヘン」とピースサインを見せた。
大石は横で笑ってる。
その大石の、自分よりほんのちょびっと高い肩に腕を回す。


「なんたってゴールデンペアだもんね〜!
 んねっ、大石!」

「そうだな、英二」


その様子を見た桃は「はーーー…」と長いため息をついた。


「ホント息ぴったりっスよね〜…オレたちなんてどうなることか」


そう言うと、後ろを振り返ってコートの端で素振りをしている海堂に目を向けた。


「だいじょぶだよ!オレたちみたいに、めーっちゃ仲良しって感じじゃないけどさ、
 さすが宿命のライバル!って感じることたくさんあったし」

「俺もそう思うぞ。二人は苦手を補い合える良いペアだと思う。
 馴れ合うだけがコンビネーションではないしな」

「そういうもんスかねー…」


桃は「まあ、マムシとこれ以上仲良くしろって言われてもできねーしな…」
とか呟きながら肩を組んだまま話しているオレたちを交互に見比べた。


「ホント仲良いっスよねー…。
 先輩たちって二人のときもそんな感じなんスか?
 あ、すんません。んなわけないですよね」


おそらく、海堂との仲に悩んでいるからであろう飛んできた質問。
オレと大石は顔を見合わせる。


「二人のとき…」

「どうだったっけぇ?」


肩を組んだまま、至近距離で目が合う。

聞かれると、わかんない。
別に今までも考えてやってたわけじゃないから。


「普通にやってるんじゃないか?」

「うん…別に今『みんなの前だからやろー』とか思ってないしね」

「そんなもんですかねぇ」


頭の周りにハテナを浮かべる桃。
その後ろから、足音が近づいてきた。


「ちょっと二人、変な誤解を招く前にその発言撤回した方がいいよ」

「え」

「ほぁ?不二、なんで?」


そう言って現れたのは、不二、そして乾だった。


「中3男子が二人きりで抱き合っていたら異様ではあるな」

「今やってるけど?」

「みんなの前と二人きりでは違うだろう。なあ不二」

「うん。もし二人きりでもやってたら、
 そういう関係なのかなって考えちゃうけど」


そういう関係…。
って、つまり?


「それとも、“そういう関係”だっけ?」


不二の目が薄く開いて、キラッと光った気がした。


「にゃーに言ってんだよ不二!」

「別に俺たちはそんな…なぁ?」

「うん」


勝手に深読みしてるっぽい不二の背中をばんばんと叩いて、
否定する大石の言葉に同意して頷いた。


「っと、雑談している場合じゃないな、次の練習に移ろう」
と大石が言ったので、その会話はお開きとなった。





  **





なんやかんや、今日の部活の終了。
今日の練習、めっちゃ充実したって感じー!!

今日は大石の家に泊まりにいく約束をしてるんだー。
今までも週末に何回かやったことあったことで、そんなに特別なことではない。


「英二、帰らないの」

「あっ、今日オレ大石んち行くんだー」

「そうなんだ。じゃあ、またね」

「うん。おつかれ〜ぃ!」


帰って行く人たち見送って、
ケータイいじったりしながら待って…。
やっと、大石が手塚と一緒に部室から出てきた。

二人は挨拶をすると、手塚は職員室に向かって、大石は部室に鍵を締める。
いつもの流れだ。


「大石行こうぜー」

「ああ、おまたせ英二」


そうして、一緒の帰り道を歩き出す。


今日の練習がうまくいった話だとか、
次はどんなのに挑戦しようとか、
桃と海堂も手ごわかったよねとか、
話題は尽きることを知らなかった。

オレは大石と話してるのが楽しいし、
オレの言ったことで大石が笑ってくれるのが嬉しい。

色々話しながらの道のりはあっという間だった。


「ただいま」

「おじゃましまーす!」

「おかえりなさい。英二くん、いらっしゃい」


大石の家に着くと、おばさんに迎えてもらって、
オレたちは大石の部屋に移動した。
荷物を置くとすぐに大石は「お茶でいい?」と聞いてくれて、
飲み物を取りに一旦部屋から出ていった。
オレは勝手に冷房を付けて床に座った。
もう慣れてる。大石の部屋は。


「暑いな。冷房、入れてくれた?」

「うんにゃ」

「ありがとう」

「こちらこそ〜」


お茶の入ったコップを受け取った。
キンキンに冷えて汗をかいていた。
オレの隣、50cmほど空けて、大石も腰掛けた。

一口飲むとめちゃくちゃおいしくって、
一気にゴクゴクと飲み干した。

お茶を飲んでる間はもちろん会話はないわけで、
一瞬部屋がシンと静かになった。
のけぞりながら一気に飲み終えて、戻して、
無意味にコップの氷をカラカラと揺すった。

横をチラっと見ると、
大石も飲み干したコップを下ろすとこだった。
氷がカランと鳴る。

静か。
エアコンのファンの音だけだ。
部屋はいつの間にか少し涼しくなってきてる。


なんでだろう。
なんか、ヘンだ。
何か引っかかる。
いつもどんな風に話してたっけ。

ああそうか。
今日の練習中に、ヘンな話をしたせいだ。
普通って、意識すると途端にわからなくなる。


何か話題を振ろう、と思ったけど、
結局頭の中はそのことばっかでそれ以外のことが浮かばなかった。


「…今日のさ、桃の話さ」

「うん」

「さすがに抱き合ったりは…してなかったね」

「ああ、うん。そうだな」


思い返してみてもそんなことをした覚えはないし、
今そういうことをしようという雰囲気にもならない。

乾の言う通り、確かに異様だ。
ここで二人で抱き合ったりなどしていたら。
それは、なんというか…。


「(トモダチの域を超えた感じにならにゃい…?)」


意識すると、途端に難しい。
肩に手を置くとか、
肘で小突くとか、
何気なく腿を叩くとか。

やってたっけ?今まで。


「(どうしてたっけ…)」


考えれば考えるほど、わからなくなる。
今だって、腕を伸ばせば届く距離にいる。
だけど敢えてそうしてない、のか。
変に意識してるからそうできてない、のか。

なんだか、考えるほど、大石に触れたくなってきて。


「(…いや、何考えてるんだオレ!?)」


大石に…触れたい!?
何、考えちゃってんの、オレ。

いや、違うよね。
触ったりするのが普通で、
急に意識し始めたら、そのタイミングがわかんなくなって、
そしたらそのせいで触れなくなったから
いつも通りにしたいというか、
ん、何言ってんだ?結局触りたいの?
え、触りたいとか触りたくないとかそもそも何?


もしかして、オレ、大石のこと…。


「(いやいやいや!ナシ!何考えてんの!!!)」


とりあえず二人きりで抱き着いたりはしない、そこはわかった。

あーアホらし!
さっさと話題変えよう!


「ね、おおいし…」

「えっ、ん?」


声を掛けて、戸惑ったように首をギクシャクとこちらに向けた大石の顔は、
こともあろうに真っ赤に染まっていて、
そしてその表情が情けなく緩んだのは、
たぶん、オレの顔も同じ色をしていたからで。


ねぇ、俺たち、そんなところも息ぴったりなわけ?


相手の考えていることがわかる気がするオレたちは、
狭くはない、でも二人きりの、その部屋の中で、
どうしたら良いものか視線を離せないままで曖昧な笑みを浮かべあった。
























4/6ツイッターより
> 英二って軽率に大石に抱き着くじゃん、
> 「それ二人のときもやってんの?w」と茶化されて、
> どうだったっけな…と意識し始めたら普通がわからなくなって、
> 英二が大石の家に遊びに行ったときに触れていいのかいけないのか
> なんか妙な雰囲気になって、うわ〜!!みたいな大菊
たぶんルドルフ戦前にオーストなんとかができるようになったとき。

エアコン効き始めのうだる暑さ部屋の中で
麦茶で汗をかいたコップの中で氷がカランとする
BLのお約束の描写を入れられて私は満足した(笑)

私の書く大石はヘタレてることが多いので
片想いの段階だとどうにも菊→大っぽくなる笑


2020/04/17