*何が普通かわからない。 *












 「安心して、何もしないから」。

 宣言を守り、秀君は仰向けで寝始めた。私は、秀君が居ない側に横向きに寝た。本当は普段は逆向きの方が寝慣れてるけど、そっちを向くのはなんだか…緊張してしまって。眠りにつこうと試みるけど、気持ちが高ぶって寝付けそうにない。それでも、ゆっくりと深い呼吸にして、少しでも早く寝付けるように努力した。

 …どれくらい時が経っただろう。わずかな眠気すら感じない。ふぅ、とため息が出た。その音に気付いたのか、秀君は「まだ起きてる?」と聞いてきた。狸寝入りをしようか、一瞬のためらいはあったけど、結局「…うん」と答えた。「俺も」、と、話しかけられた時点でそんなのわかってるよ、と言い返したくなるようなことを伝えてきた。だけどそんなことを言う雰囲気でもない、それくらいわかる。

 こんなの、意識するなと言われても意識せざるを得ない。何かするとかしないとか、そういうのは置いといても、付き合いたての彼氏、この間まではただの憧れの先輩だった人、と、同じ布団で眠っているというこの状況。

 困惑する私の耳に「ごめん」と聞こえて、何が、と返すより先、「これ以上は、絶対に何もしないから」の言葉と同時に後ろからぎゅっと引き寄せられた。心臓がドキンと跳ね上がる。

 体の下を滑らせてもう一本の腕も伸びてきて両腕で体を抱え込まれるような体制になった。私たちの体の距離は極限まで近づいて、秀君の「ハァ…」と深いため息が耳にかかった。声になりきらない吐息があまりに甘くて背筋が震えた。向こうは居心地が悪いかのように、何度も腕をうごめかせる。そして体勢を変える度に腕に力がこめられる。

 「(わざと…かな。わからない)」

 腕が何度も体の前面を通過して、少し…ほんの少しだけ標高のある私の乳房がその都度揺すられる。向こうは意識していないかもしれないし、はたまたわざとかもしれないけど、どちらかわからないことで尚更胸が加速する。

 意識しているのが自分だけだったら恥ずかしいけど、わざとだとしたら、抵抗もせずにいることが、恥ずかしい。どちらにせよ恥ずかしい。大切な人に、自分の秘めてきた部位に触れられるのは。

 心音はどんどん高鳴って、意図してか否か押し付けられているその腕に、このどんどん叩くみたいな心拍は伝わっているのか。

 ああ。一生で心臓が脈打てる回数が決まっているというのなら、私はあなたに殺されるのだわ。

 「こっち向いて」

 言われるがままに体の向きを変えると、今度は後ろからではなく前から抱きしめられる。腰に腕が回されて、胸元、首のあたりから、秀君の匂いがわずかに香った。鼻息を立てないくらいそっと、深く長く深呼吸。落ち着く匂いだ。でも脈動は収まらない。

 「お願い」。
 「キスだけ、させて」。

 ささやくような掠れた声に誘われて、体勢を少し変えて、顔の高さを揃えた。頭の後ろに手が回されてきて、引き寄せられて、ついに唇同士が、そっと触れた。ふにっ と音すら立てずに重なったそれはあまりに柔らかくて、今までも何度か触れさせたことはあったけど、こんなにゆっくりと、じっくりと、感触を確かめるように時間をかけたのは初めてだと気づかされた。

 息を吸っていいのか吐いていいのかわからなくなった頃に、口はそっと離されて、もう一回……迫ってきたその唇は、先ほどとはズレた角度で合わさってきて、そのことに気づいた頃にはより深い部位で交わっていた。

 舌が触れる。唾液が混じり合う。更に深さを求めるみたいに、舌が奥へ奥へと侵入してくる。絡め取られていく。くちゅくちゅと、粘着質な音が耳からでなく直接頭蓋骨から響いてる。

 頭の中がその音で一杯になって、もう、何も考えられない……と思った時にそっと、顔と顔は離された。名残惜しそうに私たちの間を伝った唾液の糸も途切れた。

 「ごめん」

 そう謝ると秀君はごそりと背を向けた。途端に涼しくなった胸元が、背中が、寂して、その広い背中に額を当てて瞼を下ろした。

























書きたいとこだけ書いた。

これ以上何もしないと言いながらギリギリまで攻めた結果
オッキッキが収まらなくなって強制終了するの巻(あとがきで台無しにすな)
何もしない宣言を出してる時点で、何かしたいことで頭が一杯になってる大石ね(笑)

行為なしでどこまでエロさを出せるかチャレンジでした。
(ゆえの仮タイトル『アート』w)
エロさというか青春ラブなドキドキ感を優先してしまったが。楽しかった!


2020/04/06