* 日常の1ページ *












春休みも半ばを過ぎた。
今日もテニス部は変わらず練習日だ。


手塚部長たちが引退して、テニス部は変わった。
海堂が部長になって、アイツな寡黙な分を桃城がカバーしているというか、
各々が選びやすい方法を選ぶようになったというか。

俺も念願のレギュラー入りは果たして、
意識的に後輩にも指導するようにもなった。
ただ、追いつきたい、超えたい背中が前に居ない状態で、
どのように努力すれば良いかわからなくなるときもある。

あと数日すれば3年生。
自分たちが手本となれるような存在にならなければならない。
それはわかっている…だけどどうすればそうなれるかはまだわからない。


「(はー……疲れた)」


全体練習後の簡単なレギュラーのミーティングも終えて、部室に戻る。
ベンチに腰を下ろすと、足が更に重くなった気がして、
あまり長くこうしていたら立ち上がるのが尚億劫になりそうだ。
さっさと着替えて帰るか。

と思ったときに勢いよく部室のドアが空いた。


「荒井おつかれ〜!今日帰りカラオケ行かね?」

「駅前んとこ50%オフだってよ」


池田と林がジャージ姿で飛び込んできた。
自主トレでもしながら待っててくれたのだろうか。


「おう、行くわ」

「やりい!」


そうと決まって、ジャージを脱いで制服に着替えた俺たちは街に繰り出した。
よく行くカラオケ屋に入って、お決まりの機種のある部屋に入って、
慣れた流れで飲み物選んで歌う曲入れて。


「(出た、必ず一発目は池田のアニソン)」


一緒にカラオケに来るのも何回目だろう。
お互いの行動パターンも手に取るようにわかるようになった。

2年に上がったときは大して仲良くなかった。
(はっきりいって、馬が合わないと思ってた。)
同じクラスになって一年、いつの間につるむのが当たり前になったよな。

この一年も、色々なことがあった。





  **





「あー歌ったー」

「おれもう声ガラガラ」


建物を出ると、日の傾き始めた太陽が目に入った。
とはいえ、思ったよりも明るいな、と感じた。
もうとっくに夜になっていると思っていた。

そういえばこの前春分の日も過ぎた。
もう一年のうちで日が長い側には入っている。


「来週から新学期か」

「もっと春休み欲しー!」

「でも休みの方が練習キツくね?」

「わかる」


新学期…クラス替えか。

青学はクラス数も多い。
たぶん、ってかほぼ確実に、
俺ら3人はクラスはバラけるんだろうな、と思う。



「あ!」



クラス替えどうなると思う?なんて話題を提供しようかとを考えていたとき、
急に声を上げて池田が足を止めた。


「どうした」

「林、ちょっと!」


そう言うと、池田は林の腕を引いてどこかに消えた。

……何やってんだ?
俺、帰ってもいいかな…。


「(…さすがに待ってるか)」


ふぅ、と無意識にため息が漏れた。
まあ、こういうのも、慣れてる。
今回はどういったことだろうか。
俺には関係のないこと。

そう思っていると。



「荒井〜!!」



二人が小走りで戻ってきた。
思ったより早かったな。

駆け寄ってきた二人は、想像しなかったようなことを言う。


「今日お前誕生日だよな!」

「悪ぃ今まですっかり忘れてた」


……あ。
知ってたのかよ…。
つーか、俺も今まで忘れてた。


「そういえばそうだわ」

「俺ら奢るから、もう一軒行こうぜ!」

「いいよ気遣わなくて」


本音だった。
別に、誕生日だからどうこうとか、
今更喜ぶ年でもないっつーか。

しかし聞いてくれずに、ついに池田が俺の腕を引く。


「いいから行こうぜ!」

「つーか、もうちょい駄弁って行きたいだけ。
 もうすぐ春休みも終わりじゃん?」


林はそう言って、ニッと歯を見せて笑った。

まあ、そうなあ…。


「…わぁったよ」

「どうする?ワック?」

「タピってく?」

「どっちでもいい」

「お前が決めろ!」


なんで誕生日なのに怒られなきゃなんねんだ、
と思いながらも、結局笑い合ってて、
こんな日常も、悪くないと思った。
























2-8は3人セットというより、林&池田と荒井、という構図が好きで。
元々仲良かった二人に荒井が加わって一年掛けて仲良くなっていく仲で、
たまーに疎外感あっても気にした素振りは見せないし、
来年クラスが別れたらまたそれなりの距離感に戻るのかな
とか一歩引いて考えちゃう荒井様なんだけど
それよりも大切な今の日常、という感じ。

荒井先輩が2年の終わり頃にはマサやん呼びしてたら良いなとも思ったけど
やっぱり池田のままの方が荒井先輩ぽいと思ってやめた。

2-8好きだー。荒井先輩お誕生日おめでとう!


2020/03/29