* 左利きで得すること言うほどないけど *












「おっと、ごめん」



肘と肘が、ぶつかった。

出た。左利きあるあるその6。


「あ、ごめんね」

「こちらこそ」


普通の距離感だ。でもぶつかる。
いつも通りのことだ。


書いた文字で手が汚れる。
ハサミでうまく切れない。
改札通るときに腕がクロスする。
左利きあるあるを挙げ始めたらきりがない。


これもその一つ。

ふとしたときに隣の人と肘がぶつかる。


始めから一番左の席を選ぶとちょっと落ち着いたりもするけど、
でも教室の指定された席配置ではそうもいかない。

だったら少し距離を離して座る、っていうのが定石で、
椅子を机のギリギリ右端まで寄せた。

そしたら横から、笑い声。


「そんなに気にしなくていいよ。座りづらいだろ」


な?と首を少し傾けて、大石くんは微笑む。

そりゃそうですけど。
椅子を真ん中に戻したらまたぶつかるんですけど?


、左利きだったんだな」

「うん」

「左利きって、こちらからすると憧れたりもするんだけど、
 実は不便なこと多いだろ。友達にもいるからわかるけど」


ほら、1組の手塚、あいつも左利きなんだ。と大石くんは言う。
だからぶつかるのは慣れてるよ、とどこか誇らしげに笑ってて、
友達思いな大石くんらしいな、と思った。
(生徒会長様と比べられるのはなんだか申し訳ない気持ちだけど…)


「俺の方こそ肘出しすぎてたな。ごめんな、俺も気をつけるから」


そう言ってくれた。

ありがと、
って言うのも変かなと思って、
「ううん」とだけ言って椅子を中央に戻した。


優しいな、大石くん。
生まれてこのかた15年ずっと左利きやってきてるけど
こんなに気遣いのある一言を掛けられたのは初めてかもしれない。

そう思って、ちらりとその横顔に目を向けた。


一度は離した、私たちの間のその距離。
少し腕を伸ばしたら届きそうな、今のこの距離。
そう、少しでも、腕を伸ばしたら。

ふと「触れたい」だなんて思って。


「(何、考えてるの、私)」


視線に気づかれる前にと顔を前に戻した。
そのとき丁度先生が教室に入ってきて、起立の号令で立ち上がる。


肘がぶつからないように、相手に迷惑を掛けないように、
少し距離を離す癖のついた左利きの私と、
「いつも通りでいいよ」「ぶつかるのにも慣れてるよ」と笑う隣の席の君。


なんだ、この、気持ちは。


はっきりさせたくなって、礼をしたあと着席するとき、
椅子を机の左端に思い切り寄せてみた。

何をせずとも腕同士が触れて、
大石くんは驚いた顔でこっちを見た。


「これも慣れてる?」

「これは…さすがに近すぎるかな」


呆れたように返してくるその笑みが
まるでこの春の陽気みたいに温かいのが嬉しくて、
笑い返す以上のことができなくて、
先ほどまで触れていた肘が
じわじわ、じわじわ熱を増してきて、
君を好きだと自覚した。


気付いてしまったら、
さっきまでは普通だった、いつも通りのはずのその距離が、
もどかしくってもっと近付きたいような、
気恥ずかしくってもっと離したいような。


結局椅子は真ん中に戻したけど、
ふとしたときにまた私の左肘と君の右肘は当たってしまうかもしれないな、
って考えるだけで胸が温かくなって、
ああ、左利きも捨てたもんじゃないな、なんて思った。
























元ネタはシュウフェスで泥酔状態で書いたものですwほぼ記憶がないw
そちらはクオリティひどすぎな上に未完成での投降()w
なんとか意図したかったものを汲み取って作品として仕上げました。ほぼ書き直しw

大石と隣の席って時点でもう勝ってるんだよな…(笑)

左利きの大石夢女子ちゃんに捧げます。
酔っぱらいが迷惑をお掛けしてごめんねw(陳謝)


2020/03/08