* 延長戦突入 *












年末は忙しい。
師走と呼ばれるその月の、更に最後の一週間。
やることが多すぎて落ち着いちゃいられない。
クリスマス気分に浮かれてそのまま冬休みに突入したかったけど、
きっちり月から金まで働いている。


「おはようございまーす」


はよーざいまーす、と覇気のない声が四方から聞こえてくる。
覇気がないのはいつも通りだけれど、更に音量も少ない。

今日は年内出勤最終日。
気の速い人はもう有休を取って冬休みに入っている。
ここに居るのは、私と同じく早めに仕事を終わらせることが出来なかった残念な人たちばかりだ。
(もしくは、根っからの社畜精神をお持ちの方か)


よし、せめて、なるべく早くに片付けて定時ダッシュするぞ!

そう心に誓って、僅かなやる気をなんとか奮い立たせてデスクに向かった。





―――――8時間後。




「(終!わ!ら!な!い!)」


定時のチャイムがなったとき、私はまだ積み上がった紙の束と戦っていた。げっそり。

何故こうなった。
もう少し早く終わるはずだった。

何に時間を取られたのか振り返ると、
今日休みの人宛の電話を取ったり、荷物を受け取ったり、
勝ち組と負け組の分かれ道のような気がして悲しくなった。



せめて、これで帰宅したらイケメンの彼氏が待ってくれてる!
とか言うことがあれば良いのにそれもない。

そう思ったら、急いで帰らなくてもいいか…という気もしてきた。はは…。

いやでも疲れたしなるべく早く帰りたいけども…。





―――――更に3時間後。




「やっと終わったー!」


もう既に誰もいなくなったオフィスで、
一人大声を出して伸びをする。

これで家に帰れる。
家に帰ったら日付も変わる間近だ。
今日はさっさとシャワー浴びて寝よう。
そして明日から念願の冬休みだー!


時計を見ると…げっ。もう10時回ってる!
終電を気にするレベルではないけれど、
最終日までがっつり働いてしまったなぁ…。

電気にガスに戸締まりを確認して、会社を出る。




建物を出ると、空気の冷たさに肺がキンとした。
もう冬至も数日前に過ぎた。
これから日は長くなっていくのに、
寒さはどんどん本格化していくんだなぁ…。




電車を乗り継いで、駅からの暗がりの道を歩いて。
お腹空いたしコンビニで何か買って帰るか…とも思ったけど
とにかく早く家に辿り着きたいと思ってそれもやめた。

帰宅したところで、そこは真っ暗で冷たい部屋なのだけど…と思うとテンション下がる。
誰か待っててくれてる人がいたらいいのにな。



そう思いながら早足で家付近まで戻ってきたら、
家の前に人影が。え……怖。
待ち人がいれば良いなとはいったけど違うそうじゃない。

しかし長身だしなんかイケメンオーラ放ってるな……
と思ったら、え?



「お前の帰宅が23時を回る確率…85%」

「…蓮二!?」



なんとそこには、幼なじみの姿が。
今日は気温も低いのに、いつからここに居たのだろう。


「何やってんの私の家の前で」

「お前の帰宅を待っていた」

「いやそれはわかるよ。なんでって聞いてるの」

「随分帰りが遅いんだな」

「…ねえ人の話聞いてる?」


私が何を言おうと動じずに、蓮二は淡々と話をする。


「まあ言わずともわかる。いつもギリギリにならないと物事を開始できないお前のこと、
 大方仕事納めの最終日まで仕事を多く残していたのだろう」

「う……正解」


蓮二は、いつだってお見通しだ。

私と蓮二は子どもの頃からずっと知り合いで、
それこそ何もわからないほど幼い頃に“将来結婚しようね”なんて口約束をしていたような間柄だ。
もちろんそんな子どもの頃の約束なんて実質無効のようなもので、
お互い成長して、別々の道を歩んできた。
中学校を卒業してからは進路も別れて、
年に数回会うか会わないかという当たり障りのない関係である。
まあ、それでも年数回会う程度には仲は良いということだけれど。


今も、私の帰りが遅くなったことも、その理由も、
見事に当ててみせた蓮二はニヤリと笑った。


「しかし良かった。日付が変わるまでに間に合ったからな」


ん?
なんのこと?



「今日は、お前の誕生日だろう」



…………あっ!


「『忘れてた!』…と、お前は言う」

「うぐ…!」

「その様子だと、今日は仕事を納めるために必死だったのだろう」


蓮二の言う通りだった。
毎年クリスマスを迎えると、もうすぐ自分の誕生日だなって意識するのに、
当日を迎えた今朝は仕事で頭が一杯だった。

そうだ。今日は私の誕生日だった。


「その様子だと、腹を空かせている確率…99%」

「まあ、図星ですけど…」

「そしてここには、弁当とケーキがある」

「!!! 神!」

「ちなみに、二人分あるわけだが」


……?
つまり?


「家に上げてくれるのか、どうだ?」


そう言って蓮二はビニール袋と紙袋を顔の高さに掲げた。
あ、そういうことね!


「いいよーあがって!ひゃーちょっと散らかってるかもしれないけど許してね」

「…すんなり上げてもらえるようでは、俺もまだまだだな」

「え、なんて?」

「何でもない」


私の右側に立ちながら左の肩をポンポンと叩いてきた。
なんか不思議な感じして顔を見上げたけど、なんてことないいつもの蓮二だった。

なんてことはないけど、腕長いな背高いな。
そういえばいつの間にこんなに身長差ついたっけ。
あの頃とは違うんだなと、ふと自覚した。

私は昨日より一つ年を取った。
蓮二も年を取ってる。
変わってきているんだ、私たちは。


「どうした」

「…なんも」


なんだか気恥ずかしく思えてしまって、
わずかに浮かんだこの感情は胸にしまっておくことにした。


「ほら寒いしあがってあがって!」

「それではお邪魔しよう」


真っ暗で冷たかったはずの部屋が、一気に違うものに変わったみたいだ。
なんだか、いつもの部屋が、蓮二が入ってきたら、特別な場所になったように思える。


蓮二は手に提げた袋をテーブルに下ろすと
私の頭にぽんと手を置いてきた。
心臓がドキンと撥ねた。


「お誕生日おめでとう」

「あ、ありがとー!」


急にドキドキ弾みだした心を隠して、いつもみたいに笑ってみせた。
蓮二のことだから、私が何を考えてるのかわかっちゃってるかもしれないけれど。

どぎまぎしてたら間が持たなくなって時計の方に視線を外すと、
まさに丁度0時になったところだった。


「あ、日付変わっちゃった」

「本当だな」

「それでも、誕生日会はやってくれるんでしょ?」


テーブルに置かれた袋を見、
蓮二の顔を見、
その口が開くと同時、私も口を開く。


「『いいだろう』…と、蓮二は言う」

「……やられたな」


そんなことを言って笑い合った。

一緒に居た期間が長いだけあって、
蓮二ほどじゃないけど、私にも相手の考えは少しはわかる。

だからわかるよ、この楽しい時間はもう少し続けられるって。
























柳ってこんなか?(久々すぎて迷子)

柳は間に合ったけど私は間に合わなかった(笑)すまない!
なおかつ柳あんまり書き慣れないので
解釈違い起こしてないか心配だけどあまみや氏に捧げました。
寝るまでが今日理論を適用しまくってお祝い!
ハッピーバースデー!!!


2019/12/27