* Today's Your Best Man's Birthday! *
今日は私の誕生日。
何か良いことが起きないかななんて期待してしまう。
それこそ、普段好きな人に勇気がなくて喋り掛けられない私に
今日は向こうから話しかけてきてくれる、とか。
だけど私の好きな人は、私以外に忙しそう。
「大石ぃ〜!一緒に昼食べよーぜいっ!」
「こら英二、引っ張るなよ!」
私の好きな人――大石くんは、
ダブルスパートナーの菊丸くんに腕を引かれて立ち上がった。
悔しいけど勝てない。
だって。
「今日は俺の誕生日だから、お弁当にふわふわオムライスと
ぷりぷり海老フライ入ってるんだぜ!」
そう。
どうやら今日は、私だけでなくて
大石くんのダブルスパートナーである菊丸くんの誕生日でもあるみたいだ。
元々、大石くんのことを引き留められるような関係ではない。
「大石くんを独り占めしないで!」なんて言う権利もないし、
そもそも恥ずかしくって言えるわけない。
二人は仲が良くていいなぁ…なんて羨ましく思うしかできない私。
「あ、英二今日誕生日なんでしょ?おめでとー」
「そうなんだ、おめでと!」
「サンキュー!」
色んな人に祝われてるし。
いいなぁ、菊丸くんは…。
ほぼ腕を組んでいるような状態で教室を出て行く二人を見送って、
一人溜め息を吐いてしまった。
せめて、視界の中にでも入りたいなぁ、と思ってしまう。
難しいのだろうけど…。
「、お昼いこ〜」
「あ、うん」
私も同じく、友人に呼ばれてお昼ご飯を食べに教室を出た。
**
屋上にやってきた私たち。
もしかしたら大石くんいないかな…と期待したけど空打ちだった。
食堂に行ったのかな。それ以外かな。
「はい、誕生日プレゼント!」
座るなり渡されたのは、大きめなラッピングに包まれた何か。
ぱちぱちと瞬きを繰り返してから、
閃いた。
…これだ!
「あ、ありがと!」
「うん?!開けて?」
「あ、そだね」
突然手を握り返してしまって不審な表情をされた。
でも、これだ、と思った。
こんな大きな包みがあったら、さすがに大石くんも気付いてくれるはず!
「わー可愛いノート!ありがとー!」
「是非使ってね〜」
「うん!」
使ってねに対して、うん、と言いながら、
よそよそとラッピングに戻す私。
案の定ツッコまれた。
「いや、なんでしまうの」
「あー、ほら、使う直前まで汚したくなくて」
本当のことを言うのは恥ずかしくて、ちょっと申し訳なくて。
でも、今日はチャンスなの。
私には話しかける勇気が無いけど、これなら。
「じゃ、食べよっか」
「うん!いただきまーす」
お弁当箱を開けると、中身は私の好物ばかり。
私だって祝われてる。
そう思えて嬉しかった。
**
食べ終わって教室の一番前の自分の席に着いて、
頂き物を机の上にあけっぴろげにする私。
大石くんは、自席に着くためには私の机の前を通り過ぎる。
気付いてくれないか。
気付いて、声をかけてくれないか。
ドキドキしていると、廊下の遠くから賑やかな声が聞こえてきた。
この声はもちろん、菊丸くん。
そしてそのダブルスパートナー。
二人一緒に教室に入ってきた。
「じゃあ決定ね!」
「ああ」
「やっりー!部活始まる前にうちに電話しとく」
いつも作りすぎるから大丈夫だと思うんだけど!と菊丸くん。
想像するに、大石くんが菊丸くんちに夕ご飯を食べに行くとかそういうこと?
話しながら、二人は、私の机の前を通り過ぎてしまうー…と思ったのに、
菊丸くんが足を止めてこっちを見た。
「何それ、プレゼント!?」
「あっ」
菊丸くんはビシッ!とこっちを指差してきた。
その流れを誘導したくせに焦りながら応対する私。
「あ、あの!私今日誕生日で。だから…」
「へ?今日誕生日なの?俺と一緒じゃん!」
「へえ」
へえ、って…!
大石くんが、私の誕生日を認識してくれた!!
「そうみたいだね。菊丸くんもお誕生日おめでと」
「おめでとあんがと〜それ何もらったの?」
「ノートだよ」
「そうなんだ!もしかしてオレ宛?とか期待しちった!
自意識カジョー!めんごめんご〜」
「全然大丈夫だよ」
人気者の菊丸くんとお話しできて、祝ってもらえた。
それは嬉しい。けど…。
大石くんは、私が菊丸くんと話してるうちに席に着いてしまった。
あー…。
「そんじゃ、お互い良い一日にしようねん!」
菊丸くんはそう言ってくれた。
そして「じゃあ大石また部活でな!」と元気よく声を掛けて教室から出て行った。
また他の人に声を掛けられたりしながら。
…うーん、現実はなかなかうまく行かない。
プレゼントの包みを掴んで、ロッカーにしまいに行く。
これのお陰でほんのちょびっとだけお話しできた。
良かった。
……満足?
普段は勇気がなくて喋り掛けられないけど。
今日、なら。
大石くんの机の横を通り過ぎ際、
ぎゅっと、
こぶしに力を込めた。
「お、大石くんも、菊丸くんにプレゼントあげたりしたの?」
しゃ、しゃべれた…!
それだけで心臓がバックンバックン。
そんな私の心境もきっと知らずに、
大石くんは柔らかく微笑む。
「いや、物をあげたりはしてないよ。男ってそんなもんだよ」
「そ、そうなんだ!」
そうなんだ…。
口ベタすぎて、あまり話が膨らませられなかった。
自分の会話力の低さを嘆きながら、
ロッカーに向かって、プレゼントをしまった。
でも。
会話はそんなに弾まなかったけど、
初めて自分から話しかけられた。
これは大きな一歩だ、そう思って
勇み足で自席に戻ろうとする私に
大石くんは「あ、さん」と声を掛けてきて。
え、本当に私?
と足を止めて振り返った後も疑ったけど、
大石くんの目線は完全に私を捉えていた。
さっきみたいに、柔らかく微笑んで。
「お誕生日おめでとう。もう半日過ぎちゃったけど、
良い一日になると良いな」
もうなったよ、今。
とまでは言える勇気は無くて。
「ありがとう大石くん」
そうやって笑顔で返した。
これが今の私の精一杯。
お誕生日おめでとう、私。
ちなみにこの裏で、
「ずっと大石くんが張り付いてるから菊丸くんに誕生日プレゼント渡せない!」
と嘆いている女子もいると思います笑笑
せとかさんお誕生日おめでとう!
2019/11/28