* 軽くなった後ろ髪、弾んで。 *












胸くらいまでの長さがあった髪を、先週切った。
さすがにシャンプーやドライヤーの度に感動してたのも慣れて普通になってきた。

髪切ったんだねって声を掛けてくる人もほとんど居なくなった。
たまーに、廊下で離れたクラスの子から言われるくらいで。
少なくとももうクラスメイトとはその話題は一通りし終わった。


今日も平和な一日が終わって、さて帰ろう、とげた箱に向かうと
そこにはテニスバッグを背負った大石くんの姿が。
私が靴を地面に下ろす音に気付いて
大石くんの方から声を掛けてきた。


さん、今帰りかい」

「あ、うん。大石くんはこれから部活?」

「ああ」


話しながら靴を履いて、上履きをしまおうとすると
やたら意気込んだ声がした。


「あの!」

「?」


凄んだ声とは裏腹に、目が合うと柔らかく微笑んだ。
大石くんって、本当に優しい目をしてるんだよなあ。


「髪切ったの、すごく似合ってるな」

「あ、ホントに?ありがとう」


もうその話題はなくなってきたなー、なんて丁度思ってたところ。
わざわざ直接伝えてくれるなんて優しいな。
男子からは「失恋か?」とかはやし立てられるばかりで
褒めてくれるような人はあんまりいなかったし。
そう思って素直にお礼を伝えた。

すると大石くんは、わずかに、意識しなければ見逃すくらいほんのり頬を染めて。


「みんなの前で言うの照れるからタイミング見計らってたら
 伝えるの遅くなっちゃって…ごめんな?」


いやいや。
そんな。
謝られるようなことじゃないし。

ていうか。

何だそれ可愛いな!?!?


「(落ち着け、同級生の男子に可愛いとか思ってたまるか)
 いやいやー、そんな謝られるようなことじゃないし。ありがとー」

「そ、それじゃあ。またな!」

「うん。部活がんばってー」

「ありがとう」


背中を見送って、私も校門に向かう。
歩きながら、今の会話を反芻する。

クラスメイトだし、一週間、毎日顔合わせてたのに。
……その間ずっとタイミング見計らってたの?


「(何それ。ごめんやっぱりカワイイ)」


こんなことがあったよって誰かに伝えたくなったけど、
それじゃあわざわざ二人きりのタイミングを狙ってくれた大石くんに悪い。

私の中だけの秘密だ。この気持ちは。


そう思うだけで足取りがやたら軽くなって、
スキップみたいな小走りに合わせて、一歩一歩髪が弾んだ。
























隣の部署の後輩ちゃん(♀)に、
髪を切って数日後に同じようなことを言われて萌えたので笑

大石はたぶん主人公ちゃんが好きなんだけど
主人公ちゃんは気付いてるような気付いてないような、
心のどこかでその可能性を感じつつも意識はしてないような段階。
はー青春だねぇ(遠い目)


2019/08/31