* それはまるで夏の日の魔法 *












―――触れたい。


初めてそう思ったのは、ある暑い夏の日のことだった。




もしかしたらもっと前から思っていたかもしれない。
ただ、言葉として、その感情が明確に表れたのは初めてだった。


部活の帰り、暑くて暑くて、歩いてるだけで汗が滴ってくるくらい暑かった。
横を見たら大石の首筋にも汗が伝ってて、
それが見えるとなんとも言えない気持ちになって
視線を下に落として無防備に揺れてる腕を目で追ってるうちに、
はっきりと 触れたい と思った。


なんだそれ。俺、キモチワリ。



考えを掻き消そうとぶるぶると頭を振ったけど、
もし俺が女で、大石に告白とかして、
付き合うことになったら、手繋いだりとか、腕組んだりとか、
もしかしたらそれ以上のこととか、したりすんのかな?
なんて考えはどんどん発展してしまった。

え何?
付き合う?俺と大石が?
そもそも何その発想???


あー……。



「(俺、大石のこと、好きなんだ)」



“触れたい”という感情の根源はそこにあるのだと気付いてしまった。

俺、大石のこと、好きなんだ。



セミがミンミン。

日差しがジリジリ。

今日は悔しいくらいに、夏だ。



告白とかすんの?
でも男同士なのに気持ち悪いって思われちゃうかも?
大石は優しいからそんなことで俺のこと嫌いになったりはしないと思うけど、
今までみたいにダブルスのパートナーやっていける?

黙っていればいいのかな。
余計なことして関係が変になっちゃうよりは…。

だけど、ずっとこのまま隠しているのはムリだと思った。
俺は大石に隠し事ができないし、
大石は俺が変だとすぐに気付いちゃうし、
何より、この感情が、さっき形を手に入れたと思ったら
急に飛び出したがって内側から胸をドンドン叩いてくる。


さっきから、話をする横顔がキラキラ光ってる。
俺、大石、好きだ。


気持ちだけでも伝えたい。
別に今日じゃなくても、何か区切りの良いタイミング…
といっても大石の誕生日は結構前に過ぎちゃったし、俺のはずっと先だ。
バレンタインデー?それこそ一年の反対側だ。



「英二……エイジ」

「んにゃ!?」

「さっきから相槌が上の空だけど、何か考えごと?」



こっちの顔を覗き込みながら柔らかな困り顔を見せてくる大石。
いつもの見慣れた表情だけど、
「俺は大石が好きなんだ」
って思ったら急にその顔で見られるのが恥ずかしくなった。



「にゃ、にゃんでもにゃいっ!あ、見てひまわりあるよ!!」



早速隠し事がバレそうになってしまったのと
顔が真っ赤になってしまったのを誤魔化したくてその場を走り去る。

歩いていたところから5mほど先にあったひまわりに駆け寄ると、
それは太陽の光をさんさんと受けて立派な花を咲かせていた。



「俺とどっちが背高い?なんちって」



丁度170cmくらいだったそのひまわりの横に並んで見せて、
大石の方を振り返ると、大石はまた優しく笑った。


「英二って、ひまわりみたいだな」

「え?」

「ぱっと咲いた明るい笑顔が、満開のひまわりにそっくりだよ」


あ……嬉しい。


どうしよう。
俺、やっぱり大石、好きだ。


そう思ったら、もう我慢できなくなった。



「スキ」



………言っちゃった。


ドキンドキンと心臓が痛いくらい叩かれてて
なおさら汗が溢れてきた気がした。

大石は、なんて答える?



「ひまわりが?」

「違う。大石が」

「なんだ。俺も英二のこと好きだぞ」



拍子抜けするくらい明るい笑顔で大石はそう言った。
突然どうしたんだ、当たり前じゃないか。みたいな表情で。


違う。違うんだよ大石。



「そうじゃなくて……俺、大石のこと……本当にスキなんだ」



告白するときに花束渡す、みたいに
そのひまわりの茎を掴んで前に差し出した。

でもプレゼントっていうより、身代わりかも。なんて。



実際に俺はひまわりのその大きな花の影に隠れて大石の顔は見えなかった。

大石、今は、どんな顔してる?


大石……。



長い長い間があってから、
大石はようやく喋り出した。



「それは…真剣に受け止めた方がいいのかな」

「あっ、ごめん!困らせるようなこと言って…」

「そうじゃなくて」



ぎゅっと

大石は茎を掴む俺の手を上から握ると、

ぐいっと引っ張って顔を覗かせて。



「その方が俺も嬉しいってこと」



それは、ある暑い夏の日の、とびきりの魔法。
























ハッピーサマーバレンタインデー!!!
と、黄金の真ん中BDということで。
(遠い側繋いでるから裏側にあたるかなと思ってたんだけど、
 攻側〜受側の間で計算するとか、年も加味するとか、色々流派があるようでw)

いやサマバレじゃないけどさ、
暑さに当てられて脳みそうだると
本当に大胆になっちゃうんだよねwこれはガチw
愛の告白するなら雪国より南国がいいと思うよ。

めっちゃ菊→大だけど一応大菊です(と言い張る)


2019/08/14