* 俺は俺で、お前は誰より大切な奴。 *












明日から大学生、か。

試験も問題なく突破し、晴れて青春学園大学に入学できるわけだ。
外部受験したやつらもいたけど、俺には真似できねーわ。
試験組と受験組では、クラスの雰囲気もだいぶ違った。
受験組ピリピリしてたもんなー…。

そんなことを考えていると…ふと、とある人物の顔が浮かんだ。
高校の外部受験をして、中学を卒業して以来一度も顔を合わせていないアイツ。
中3のとき、ある事件を境に、まともに会話できることもなくなってしまったアイツ…。


、おまたせ!」

「おう、行こうぜ」


こんな俺にも彼女は居る。
高校の間に二人付き合って、この前童貞も捨てた。
コイツも…別に、そんなめちゃくちゃ好きかって聞かれるとわかんねーけど、
一緒に居てラクだし、まあ楽しーし、胸デカいしなんかいい匂いすっし柔らけーし。
女ってなんか存在自体がズルイんだよなー…。


手を取られるがままに歩き出して、飯食って、
どこで何をしたいかと話したけど、寒いし結局俺んちに行くことになった。

あー…ゴムまだあったっけな…多分ある。

とか考えながら喋ってるのも知らずに、笑顔で喋ってる姿を見て申し訳なかったりそうでもなかったり。
俺も悪い男だな。

その時。


「(……お)」


今日は寒いというのに少し薄着で、
清楚感のある黒い短髪が似合う爽やかそうな野郎が通りかかった。
腰細ぇー…。

すれ違いざま、無意識に凝視している俺がいた。
そしてその俺を凝視する人も。


「…?」

「あ、わり。いや、あのパンツ俺が欲しかったやつだと思って」

「そうなんだー」


…何嘘ついてんだ。
でも、「タイプの男の下半身を無意識に目で追ってた」と言えるはずもない。

っつーか、タイプの男ってなんだ。

………。

あの経験以来、自分がおかしくなり始めていたのは、気付いてる。


全部アイツが悪い。




でも大丈夫だ。
俺はちゃんと女が好きだし。
女を抱くことだってできてる。

10代男子なんて性欲の塊だ。
家に入って、鍵を締めて、どうやってその流れに持ってくかしか考えてない。


「先週来たときより散らかってない?」

「うっせー」


大学に入って、一人暮らしをすることになって先週引っ越した。
こいつが前回来たのは荷解きしたてのタイミングだった。
前からお世辞にもキレイという方ではなかったが、
親の手が入ることがなくなった部屋は一瞬にしてめちゃくちゃになった。
散らかってたお陰で、床に座る隙間が少ない。


「よいしょっと」


ベッドに腰掛けた。
狙ってたわけじゃないけど、ラッキー。


隣に腰掛けて目を合わせて、キス。
もう一回キス。
今度は角度を変えて、深さを変えて。

そのまま服越しに胸を揉む。
あーやらけぇ。


「するの?」

「おお。お前だって好きだろ」


これまでに都合3回したけども、俺よりよほど気持ち良さそうにしてた。
俺も、気持ちよくないわけじゃないけど。

ベッドに押し倒して、両方の胸を揉む。
そして片手は、服の内側に滑り込ませた。


「んっ………待って」

「待てない」

「違うの、話をしたいの…」


ん?
話をしたくてうちに来たってこと?
ヤりたかったわけでなく?

まあ、そういうこともあるかと服の内側から手を抜いた。
もう俺半勃ちなんだけど。この状態で話すんか。


そんな不埒なことを考えていたら、
提案された話は想像よりも遥かにヘビーだった。


「私たちさ…別れない?」


………え。


「……は?」

「だって、一緒に居ても上の空だし、私と居ても楽しくなさそう」


じわ、と目元に涙が浮かぶのが見えた。
おいおい泣くなそれはずるいぞ。


「お互い別の大学になったしさ、タイミング的に今なんじゃないかな…って」

「は?別に大した距離じゃないじゃん」

「距離の問題じゃないよ。わかるでしょ」

「わかんねーから聞いてんだけど」


俺の問いかけに答えようともせず、声を張り上げてきた。


「とにかく、私は別れたいって思ったの!」


は?
勝手すぎ。
意味ワカンネー。

俺は背を向けた。


「冷めた。わかったよ別れよーぜ。帰れよ」

「…あっそ!」


背中の後ろで雑に荷物をまとめる音がする。

…まあ、指摘されて気付いたけど、
一緒に居て楽しいと思えること、最近減ってたな。
セックスは気持ちよかったけど…。
……そんなことばっか考えてるのが悪かったのかな。かもな。


「じゃあ、私もう行くよ?」

「おう。今まであんがとな」


体をそっちに向けないままヒラヒラと手を振った。
直後、雷のような怒号が。


「引き留めてくんないんだね!のバカ!!!サヨナラ!!!」


バン!

扉が壊れそうなほど大きな音を立てて閉めたあとに、
カツカツカツと足音が遠ざかっていくのが聞こえた。
部屋は一気に静かになった。


…言い出したのアイツだし。
俺が悪いの?

マジ、女めんどくせー…。


何考えてるかわかんねー。
言いたいことがあったなら別れ話になる前に言えばよかったのに。 

……ま、明日から大学だし。
外部から入ってくるやつもいっぱい居る。
「春休み最終日に彼女と別れました。なので絶賛恋人募集中です」。
これで新学期の自己紹介でのつかみもオッケーだ。

……クソ。
イライラする。
つか、ムラムラする。

…抜こ。
中途半端に盛っちまったからな。


適当に、オカズ…。
まあいいや妄想でなんとかする。
シンプルに俺好みの女ハメるやつでいいか。

やっぱ、胸はデカイほうがいいな。
ケツもデカイと尚いい。
そういう女にしゃぶられて搾り取られてー…。

そんなことを考えながらしごいていたら、
意識がぼやぼやしてきて……
胸…ケツ…
どうでもいい。どっちでもいい。
あー…クソ、イク。


「……ッ!」


ドクドクとザーメンが注がれていく、
思い切りぶっかけられながら、
最後の一滴まで口で受け止めているのが……

大石…!?


「!!!」


焦って目を開けた。
もちろんそこには誰も居ない。
あるのは自分の手と、精液が放たれたティッシュだけだ。


「ハァ…ハァ…ハァ……」


まだ、こういうことがある。
なんなら最近特に多い。

俺が初めて性行為…というほどのものでもないが、
他人相手で射精させられたのが、大石だった。
その影響があるのか、妄想の相手が大石に置き換わっていることが度々ある。

……認めたくないが、大石相手で夢精したことも数知れない。


…性欲は収まったけど、イライラが治らねぇ。
クソ。


忘れよう。明日から、丸っきり違う生活が始まるんだから。






  **





なんの問題もなく大学初日、入学式は終わった。
知ってるやつもいれば知らないやつも居て、まあ、楽しそうかな。

とりあえず、早く彼女作らねーとな…。


そんなことを考えながら帰り道を一人歩いていたら、斜め後ろから名を呼ばれた。


…か?」


声を掛けられた方を見て、誰かと理解するのに時間が掛かったが、
理解した瞬間、毛穴が逆立つような感覚になった。



「……大石?」



そこに居た人物は、俺の記憶よりも遥かに、大人で、
でも確かに面影は残っていた。

大石だ。


「めっちゃ久しぶりじゃん!え、ずっとこのへんいんの?」

「ああ、家は引っ越していないよ。近況といえば、医大に通い始めたよ」

「そっか。俺は今日入学式だった」

「ああ、俺もだ。は青学なのか?」

「おお」


意外と、会話は自然と弾んだ。
気まずかったのも、今思えば3年半も前だもんな…。


「変わりはないか」

「良くも悪くもな。3−2のメンバーも元気にしてるぜ!
 俺は、最近変わったことといえば、昨日彼女と別れたくらいかなー」


ウケ狙いのつもりでそう言うと、大石の表情が固まった。
アレ、まずったか。
俺、大石に告白されてたんだもんな…でも3年前だぜ?


「大石は、どう?」


聞くと、目を伏せて「特には」と呟くように言った。憂い気な表情で。
だよな、コイツ、男が好きなんだもんな…。
しかも進学校だっただろ、色々難しそう。

………。


「時間ある?せっかくだしちょっと話さねー?」

「ああ、そうだな」


そうして俺達はチェーンのカフェに入った。
変わったもんだな、俺らも。
あの頃はさ、ファミレスかファストフードか。
つか店に入るだけで贅沢で、もっぱらコンビニで買い食いしたり、
自販機で飲みモンだけ買って公園で駄弁ったり。
懐かしいな。


大石は…ブラックコーヒー。
これまた胃が痛くなりそうなものを…。
俺はアイスのカフェラテを頼んだ。


「その後どうしてんの?」

「勉強がとにかく忙しいかな。テニスもほとんどやれてないよ」

「そっかー。あんなにテニス漬けだったのにな。もったいねー」


俺は大した選手じゃなかったから、って大石は言ったけど俺はそうは思わなかった。
前に試合を見に行ったとき、大石は全体を見渡して的確に指示を出していた。
大石がコートを支配してるみたいだ、とさえ思ったのを憶えてる。


「俺は、高校も帰宅部。バイトばっかしてた。んで、先週から一人暮らし始めた」

「へー。ご家族の方針か何かかい?」

「んー、どっちかってと俺の希望かな、そんなに反対もされなかったけど」

「そうか」


柔らかく笑うとコーヒーを一口飲んだ。
大石のその表情、変わんねー…懐かしいな。
姿さえ大人になったと感じるものの。
月日の流れ、ってか。

…そうだ!


「うちさ、すぐ近くなんだよ。良かったら寄ってくか?」

「えっ、いいのか」

「全然いいよ。これ飲んだら行こうぜ」


半分ちょいまで飲んでたカフェラテの、飲む速度を少し速めた。
でも大石の表情はなんとなく曇っていて、
飲みスピードも速くはならない。
まあ、大石飲んでるのホットだし。
落ち着いて飲みたいとか、そういうこと?




なんやかや飲みきって、俺たちは店を出た。
「こっち」と進むべき方を促すと大石は何も言わずに着いてきた。
だけど足取りが重いような。
どうしたー?


数分ほど歩いて、もうすぐ着くぞっていうタイミングで
大石はピタッと足を止めた。なんだ?


「本当に嫌じゃないか」


嫌?
俺が自ら提案したのに何を気にして…。

………ああ。
これ、中3の、あのときと、似た状況なのか。


「全然気にしてねーから。お前も気にすんなよ」

「そうか…」

「何年前の話してんだよ」


時間にして3年半くらい前のこと。

中学生だった俺たちは、もう大学生になった。
もう、充分時間は経った。


「それとも何、また俺のこと襲いたいとか思ってんの」


ニヤッと笑って言った俺のその発言はもちろん冗談のつもりだったし、
もうあの頃のことは時効で大して気にしてない、って態度を示したつもりだった。


しかし大石は…。


「わからない…ただ、意識はしてしまうかもしれない」


おいおいおいおいおい。
どういうことだ。


「それはどういう…」

「あっ、誤解しないでくれよ!あんなことはしない、絶対に!
 ただ…もう憶えてないかも知れないけど、俺はあの頃から…お前のことが、好きで。
 今日偶然再会できて、また前みたいに話せて…少し舞い上がってる」


大石は、明らかにテンパってるのがわかる早口で捲し立てた。
そして、ふう、と深いため息をついた。


「やっぱり、行くのやめるよ。変な期待をしてしまいそうだ」


変な期待、とは。
えーっと…。

めっちゃ噛み砕くと、俺といい感じになれないかなーとか、そういうこと?

何、お前。

俺のこと、まだ好きなの?

まあ、再会して昔の気持ちが蘇ってるって感じかもしれないけど。
でも、3年半だぜ?会いもせずに。

…そういう俺も、昨日、意図せずコイツにぶっかける妄想とかしてたけど…。


………。


「それ、どういう意味?」

「え?」

「その、変な期待、って」


当然聞き返す俺。
大石は目線を逸らして、さっきより少し小声で返事をした。


「前みたいに、色々話せる友達に戻れたら、って…」

「本当にそれだけ?」


問い正すと、観念したのか、振り絞ったような声で本当の気持ちが聞けた。



「俺は、本当は……と、友達以上の関係になりたいと思っている」



俺、ズルかったかな、ここまで言わすなんて。
本当は、俺の気持ちは、言われる前からほぼ決まってた。



「じゃあ、付き合ってみねぇ?」



俺の言葉に、顔を上げた大石は、
理解できない、という風に何も言わずに瞬きを繰り返した。


「丁度俺、彼女と別れたばっかだし」

「でも、彼女だろ?俺は、男で…」

「それがさ、これ俺の直近の悩みなんだけどさ…俺、
 なんか両方いけるんじゃって気がしてて…確認したいのもあんだよね」

「嘘、だろ…」

「マジだって」


俺は本当の気持ちしか言ってないのに、
信じられないのか大石はあたふたするばかり。
肩をコツンと小突いた。


「っつーか、多分お前のせいだし。寧ろ責任取れ」


ごめん!と焦った風に言うから、
怒ってねーって、と返した。

すると大石は、気の抜けた呆けた顔になった。



「夢みたいだ…」



ハハ、なんだそれ。


「なんだそれ、お前」


中3のあのときは、とにかくびっくりして気持ちを受け止めるどころじゃなかった。

でも、好きになってもらえるって嬉しいな。
なんつーか…心があったけー感じする。


「やっぱり、今日は家に行くのはやめておくよ…気持ちを落ち着けたい」

「そっか。まあ、いつでも来いよ」

「いいのか?」

「だって…俺ら付き合ってるんだろ?」 


その言葉を聞くと、大石は目を細めて柔らかく笑った。

わっ、めっちゃ懐かしいその顔。

ドキドキする。
大石が変だから、俺もおかしい。

周囲をぐるりと見渡す。誰も居ない。


「ちょっと、来い」

「え?」


まだるっこしい。

ぐいと腕を引いて、
頬にキスをして、
ぱっと腕を離した。


何やってんだ俺。恥ずっ。


「じゃあ、またな」

「あ、ああ!また連絡する」

「あ、待って俺メアド変わってるわ」


改めて連絡先を交換することになった。
こっ恥ずかしくてさっさと退散しようとしたのにとんだ誤算。
俺も結構テンパってんな…。

浮かれてる。
でも、悪い気はしない。


「じゃあ、今度こそまたな」

「ああ、また」


手を振って見送って、俺も家に向かった。

大石、なんかすげー遠慮してる風だったな…。
まあ、俺は女が好きだと思ってて自分は軽蔑されたと思ってて、
それが数年ぶりの再会で突然付き合うにまで発展したら動揺するわな。

…なんなら俺も動揺してる。





  **




こうして俺たちの付き合いは始まった。

といっても大石の毎日は勉強漬けの日々で、
断りきれなくてテニスのサークルにも入ったらしく
二人で会える時間が限られていた。

俺も大学のあとに新しいバイトも始めたし、
友達作るにはサークル入んなきゃダメか…と
考えた末に俺もテニサーに入った。
テニスだぜ、俺が。
中学からこの方ずっと帰宅部だった俺が。
大石の影響受けてんのかな。

まあ、テニサーとはいえいわゆる“飲みサー”ってやつだ。
大石はちゃんとテニスしてるんだろな…。
もちろん勉強もしっかりしている。
必要最低限の単位を取得して残りは飲み会とバイトに明け暮れているような俺とは
だいぶ違う大学生活になっているんだろうな。



メールでのやり取りはあったものの、
大石と“デート”することになったのは、
付き合い始めてから2ヶ月後のことだった。



暇過ぎて、待ち合わせ時刻より30分ほど早く着くように家を出てしまった。
ま、家に居るよりはマシだし。散歩でもすっか。

しかし、念のために待ち合わせ場所を覗くと大石はもう既にそこにいた。
そういえばコイツ、そういうやつだったっけ。忘れてた。


「おー」


声をかけると、大石は本に落としていた目線を上げて、嬉しそうに笑った。


「早いな」

「そっちこそ。もう居ると思わなかった」

「ついな」


ついってなんだよ。
変なやつ。
思わず笑った。


「…久しぶり、だな」

「んー、だな。ま、その前が3年会ってなかったこと考えりゃ短ぇか」

「そうだな」


大石は、ハハッ、と声を出して笑った。
本当に嬉しそうな顔で。
俺に会うこと、そんなに嬉しいのか?
変わったやつ。

…だけど、認めるのも悔しいけど、
俺も顔に出していないだけで結構浮かれている。
言ってしまえば待ち合わせの30分前なんかにここにいるのも、その証拠だ。


「とりあえず、行こうぜ」

「ああ」


同じ方向を向いて歩き始める。
「俺もテニサー入ったんだぜ」とか、
「医学部って必修何単位あんの?」とか、
日常の何気ない話する。
大石が相槌を打つのがうまいもんだから
話しやすくって俺ばっかりが喋ってしまう。
そういうところは、変わらないな。


話しながら、ちらりと肩の高さを確認した。

大石、背高いな。
俺より10cm近くあるか?
この前は…そうか、
大石が俺の後ろを着いてくるような歩き方だったから感じなかったのか。

身長差は中学の頃からほとんど変わっていなさそうだ。
俺も高校でほんの少し伸びたけど、大石も同じくらい伸びてたのかな。
それもそうか、3年間、まったく顔を合わさなかったのだから。
こういう表面的なこと以外でも、変わっている面は色々あるのだろう。


見上げるの、なんか慣れない。
今まで横に連れてた元カノたちは、俺より背が低かったわけだから。
でも、ダチと歩くときは俺より背が高いやついくらでもいるけど
そんなに感じたことがないな。
何が違うんだろうな…。

考えながら大石の顔を見ていると、
視線に気づかれて目が合って、
「どうした」
と柔らかな笑顔で聞かれて。

ああ……こういうところだ、と思った。

顔が熱くなった気がして「なんでもねぇ」と首を背けた。
 

男友達と横並びで歩いてて、
肩と肩がぶつかりそうな距離で
お互いの顔を見合うとか、多分、あんまない。
もう少し間を空けた距離で同じ方向向いてゲラゲラ笑ってる。

そう考えると、無意識にだけど、自然と、付き合ってるんだ俺たち。ちゃんと。

自覚すると急にその距離感がくすぐったく感じられてきたれど、
悪い気はしなかった。


「(俺が感じるってことは、傍から見てもそう見えるんかな、どうだろ…まあいいか)」


周りからの視線が気にならなくはなかったが、
そんなことのために、今のこの距離感を変えたくないと、そう思った。


なんだ、これ。
俺、自分で思ってる以上に大石のこと、好きだな。


当時も疑問に思ったけど、
どうして大石は、俺なんかを好きになったんだろう。
勉強もスポーツも平凡、
どっちかっつったら陰キャだし、
自分をイケメンと思ったこともない。

それに対して大石は、
勉強がトップレベルにできてスポーツでも活躍してて
何より人からの信頼が厚くて、
みんなをまとめることが出来るスーパー優等生だ。

何故大石は、俺を…。
……色々に恵まれすぎると平凡に憧れるとか、そういうことか?

わかんねぇな。
今度機会があったら聞いてみるか。



「………」



顔を見上げるのはやめて、ちらりと下を見る。

手…繋げそうだな。

俺たちの手は、ぶつかっていないのが不思議なくらいな距離で行き交っていた。
掴む、か?

いやいや落ち着け。休日の昼間の街中だぞ。
男同士で手ぇ繋げるかっつの。


まあつまり、
俺の感情としては、繋ぎたいのか。
………。

手を繋げるか否かでやきもきするとか
何やってんだ俺。ダセェ。

一旦そのことは忘れることにした。


3年間疎遠で、3年半以上まともに口を利いていなかった大石と、
付き合うことになって、休日に二人でデートしている。
それはすごく妙な感じもしたけれど、
大石の隣はとても居心地が良かった。

そりゃそうだ。
テニス部除いたら、中学で大石と一番仲良かったのは俺だ。
元々はいつも一緒に喋って笑い合っていたんだ。
あの事件があるまでは、な。



その日は一緒に映画を見て、
ゲーセン行って(ほとんど俺ばっかやってたけど)、
飯食って解散することになった。


「じゃ、今日ありがとな」

「こちらこそ」

「また連絡する。てか、大石が暇な日わかったら教えてくれな」

「わかった」


じゃ、と去ろうとすると、
大石が「あ」と小さく呟くから、
何かと思って体は返さずにいたら
大石は顔を伏せがちにもじもじし出した。


「その、この前みたいに…」

「?」

「えっと…」


なんだ?大石らしくない。
顔めっちゃ赤いし。


「なに?」

「………」


決心したような大石は俺に一歩近づいてきて、
右左後ろを確認すると、
俺の両肩掴んで、
思い切り唇を押し当てて、
数秒したらバッと離して、
「じゃあ!」と背を向けた。


「お、おお!またな!」


俺は背中に投げかけて手を振ったけど
大石はこちらは振り返らずに、手だけを上げて応えた。


なんだ、今の。

…したかったんだ、キス。



ぷは、と笑ってしまった。

や、違う。
バカにしてるとかそういうんじゃなくて。
なんか、大石可愛くね?ってのと、
たぶん…幸せになっている自分がいた。

街中では手すら繋げないものの、
一日デートして、
何度も笑顔で目が合って、
人気の少ない路地でこっそりキスをして、
いずれは…。

………いずれは?


てか、そういうこと?

いずれ俺たち、そういうことする可能性、あるってわけ……?



「………」



妄想しかけて、首を大きく横に振ってかき消した。

いや確かにしゃぶられたりとかぶっかけたりとか、
そういった妄想が浮かぶことはあった。それは認める。
でもそこまでだ。


しかし俺たちは仮にも付き合っているわけで。

「体を合わせる」。

そういうことが、いずれあるのか。


………。




悶々とした俺は、その日、大石にしゃぶられる妄想で抜いた。





  **




その後も一ヶ月に一回会えるか否か程度のペースでデートした。
なんだかんだ、付き合い始めて半年ほど経っていた。

会っていない間の時間を取り戻しているように、
会うたびに距離が近づいていくのを感じた。
友達としてだけでなく、恋人としても。

そして、更に近づきたいという衝動はどんどん膨らんだ。



大石、俺はお前ともっと恋人らしくなりたいと思ってる。

お前は?


この前とはまた少し違う、ましてや3年前とは全く異なる感情で、大石を誘った。


「大石、次会うときうち来いよ」


言うと、大石は固まった。
解凍されるのに5秒くらいかかった気がした。


「い、いいのか」

「いいっつってんじゃん。つかこの前も断ったの大石の方だし」

「そうか、そうだったっけ…そうだったな」


大石は途端にあたふたし出した。
意識しすぎじゃね?

でも、そんだけ意識するっていうことは…
大石も“そういうこと”する気、あんのかな?


まあしかし、その前提で誘ってると思われてたら向こうもハイと言いにくいのかな。
…ちょっと誘い方を工夫してみる。


「街中だと、まともに手も繋げねぇじゃん?」


やべ、何言ってんだ、恥ず。

でも大石の顔があまりに真っ赤になったから、
自分の恥ずかしさなんてどうでもいいような気になった。


「じゃあ、次会うときは…の家で」

「おー、なるべく片付けとくわ。でもあんま期待しないで」


はは、と笑って一旦その話題から離れた。





その日の別れも、いつの間にか習慣みたいになってた、
人目を盗んでのキスで締められた。

次会うときは、うちで、こんな触れさせるだけのキスじゃなくて。
………。


「(あぶねー…勃つ勃つ)」


わずかに前屈みになりながら、俺は帰路についた。





  **






――一ヶ月後。


「お邪魔します」

「どーぞー」


大石が、ついにうちに遊びに来た。
部屋は必死に片付けた。俺なりには。


「…足の踏み場は、あるな」

「的確な表現をどーも」


最低限の生活スペースは確保されているものの、
端に色んなものを積み上げた城が形成されていた。
お世辞にも片付いているとは言いがたい部屋だ。

いや!これでも!
大石が来るからっつーんでカップ麺のゴミとか
転がってたティッシュとかすんげー捨てたんだぜ!
掃除機もいつぶりかわかんないくらいに掛けたし!


「苦手なんだろ、片付け。良かったら手伝おうか?」

「おー、神!」


願ってもない申し出だった。
大石の部屋は、前に一度行ったことあったけどすんげーきれいだったもんな。
几帳面な大石の性格を表してるなと思った憶えがある。


さっそく城を切り崩し始めた大石は
しわくちゃの服を畳んだり
書類を同じ向きに揃えたりとテキパキと作業をし始めた。

さすがだなー。
…とか感心してる場合じゃないか。
やらせてばっかで悪いな。俺もやろう。


さてさて、と大石の隣に立つと。
雑誌を持って固まっていた。

エロ本。


「わりわり、全然隠そうって意思すらなかった。
 表紙のネーチャンがボインで好みだからつい買っちまったやつだわ」


大石から応答はなかったけど俺は気にせず続けた。


「俺、どんだけネット普及してもやっぱ紙好きなんだよなー。
 お前は紙派、電子派?やっぱ対象は男なの?」


俺たちも付き合うようになって半年以上経って、
なんでもざっくばらんに話せるような関係になっていた、
と俺は思って興味半分で質問攻めにした。
だけど大石の反応は、ちょっと予想外だった。


「…色々だよ」

「その色々が知りたいんじゃん」

「知ってどうするんだ?」

「…あ、いや、言いたくないんならいいけど」


この話題に関してはすごく居心地悪そうだな、と思った。
まあ、そうか。
もしかしてバイかも、なんて最近気付き始めた俺とは違って、
大石はずっと、自分がゲイであることを気にして、隠して、生きてきたんだ。
この手の話題は、苦手なのかもしれない。


「面白がってるわけじゃないだ、でも興味本位だったかも。ごめんな」


そう伝えると、大石はその手に掴んだ雑誌の表紙を見つめたまま固まった。

ん?どうした?
お前でもやっぱり可愛いと思う?


しかし大石の口から出てきた言葉は、俺の想像していたものと違って。


は……やっぱり、本当は、女性の方がいいと思うのか…?」


……あ、そういうこと?
それでちょっと不機嫌なってた?
もしかして。

正直にいうと、巨乳が好きだ。
尻もデカいと尚良い。
そう思ってた。

でも最近はそうじゃない。
女?男?よくわかんねぇ。

とりあえず最近は大石でばっか抜いてる。それだけだ。


「あのな、大石。俺はお前に教えてやらなきゃならないことがある」

「…なんだ」

「あのな。ボインなおっぱいはな、女性が好きとか男性が好きとか、
 そういう域を超えた素晴らしい物体なんだよ」

「………は」

「あれはな、性的な意味を抜きにして、物として触り心地が良いんだよ」

「………」


大石の口数はどんどん減っていった。
あれ、これ、墓穴か?
いやここまで来たら貫き通すしかねぇ!


「仲間でいうところのほら、低反発枕とか、毛並みの良い猫チャンとか、そういうの」


そんな俺の必死の弁明に対し。


「何言ってるんだ、お前」


笑った。
ほっとした。


「だからな、お前ももし女がセックスしたいって寄ってきたら、
 本番はしないにしてもおっぱいだけは揉ませてもらった方がいいぞ」

「それはその女性に対して失礼じゃないか?」

「…ほんっと真面目だなー、お前」


そんなバカみたいな雑談しながら、片付けを進めた。
本当に大石は、色んなことに気付いて、気にして、考えて。
俺なんかの何倍も心労背負って生きてるんだろうなって思った。

俺も大石に何かしてやりたい。
どうしたらいいんだろう…。


そんなことを考えながらも部屋を片付けて、
大石の手伝いのお陰で綺麗になったと言えるレベルになった。


「ふーめっちゃ助かったわ」

「また定期的に片付けに来ようか」

「それマジでめっちゃ助かるわ」


話しながら二人どちらからともなくソファに腰掛ける。
そういえば二人掛けだったなこのソファ。
久しぶりに思い出したわ。
ずっと物置だったもんな…。


……。
肩でも抱いてみる?

俺、女しか相手したことないけど、
男でも同じような行動取っていいんかな?


考えるより、やってみるか、振り払われることはないだろう、と
ソファの背もたれの後ろから腕を回して肩を抱こうとした、ら。


「悪い、トイレ借りるな」

「あ、おっけー。部屋出てすぐ右」


平然と答えながら、
俺は焦って腕を背もたれの後ろに隠した。

びっくりした。
タイミング完璧過ぎて避けられたかと思った。
たぶん気付かれてないだけだけど。

つか肩抱こうとしてミスるとかダサすぎだろ俺。
大石が気付いてないのが不幸中の幸いだわ。


トイレに向かいかけた大石は、ドアノブに手を掛けると

「…少し時間かかるかも」

と言った。
ん?


「へ?」

「その、ちょっとお腹痛くて」

「あ、そゆこと。わかった」


そういうとそそくさと大石はトイレに向かった。
どうぞごゆっくり〜。



……そして言葉通り、本当に全然帰ってこない。

まさか、ヌイてたりしてないよな…。
性欲が暴走してあんなになってしまった前科があるわけだし、
気にしいの大石のことだしやりかねない…。

おいおい。
俺はヤる気満々だぞ。

昨晩はオナニーも我慢したっていうのに。
(明日は…と思うと妄想がどんどん膨らみそうになるのに耐えるの苦労したんだぞ。)



20分くらいして、大石は戻ってきた。


「大丈夫か?」

「ああ、悪い」

「いや俺は別にいいんだけど。キツかったら休む?」

「いや、そんな大したことないから」

「…そうか」


そういえば、中学んときも胃痛持ちだったよな。今でもそうなんかな。
休み時間に鞄から胃薬取り出して飲んでるのみたときはドン引きしたもんだわ。
聞いたんだけど、胃痛って、9割が精神的なものが原因らしい…。


「あんまり、無理すんなよ」

「無理はしていないよ」

「お前、色々頑張りすぎるから…たまにちょっと心配」


再び横に腰掛けた大石の顔を覗き込む。

向こうもこっち見た。

至近距離で目が合う。


あ。


なんか今、そーゆー雰囲気になった。

気がした。



キス。


もっかいキス。

唇をそっと舐める。

そして間に舌を割り入れる。



「(やべ……キモチイ)」



舌同士を触れさせるだけでは満足がいかなくなってきて、
一度口を離して、
より深く交われよう角度を変えて、
頭を抱えるように貪った。


舌を奥に差し込むと
大石の舌も応えるように絡んできた。
粘着質な音が部屋に響く。


ヤバイ。
溜めてたから…キツイ。
キスだけで勃っちまった。

大石は…?


ちらりと視線を下半身に落とすと、
大石のズボンもテントを張っているように見えた。
……拒否されない、よな?


ベルトの金具に手をかける。
ベルトの先を抜き去る。
…抵抗はされない。


そのままベルトを外してチャックを下ろすと、
下着を苦しそうに押し上げている立派なイチモツの存在が手に感じられた。


「(なんだよガチガチじゃん、大石。……結構デケーし)」


下着越しに擦りながら、自分もしごきてぇな、
と思うや否や、大石の方から俺の股間に手を伸ばしてきた。
お互いがお互いの性器を下着越しにこすっている状態になった。
人にされると、自分でするのとちょっと違う。
気持ちよくて、どこかもどかしい。


下着の縁に指を掛け、そのまま手を差し入れた。
驚くほどの熱と湿気を帯びたそれに手が届いた。
更に熱くなった気がして興奮した。

俺の息子も更に熱を帯びたのが自分でわかった。
完全にフル勃起状態だ。

下着を下にズラして肉棒を取り出して、膝立ちになった。
大石も同じにするように促した。

腰を突き出す。
性器と性器を、合わせる。

先端同士が触れた瞬間、脳に電気が走った。
腰を前後させてこすり合わせながら、
手でお互いの亀頭を握るようにして更に強く刺激を与えた。

ヤベェ、めちゃくちゃ気持ちいい…!

我慢汁が出まくって、
掌の中でぬちゃぬちゃと音が響き始めた。
すげぇ…。

気付けば、その音だけじゃなくて
俺たちの荒い息も部屋に響いていた。


もう、ここまできて止められるわけがない。
俺もだし、たぶん大石も、これより先の行為が頭に浮かび始めているはず。


「(大石と……男と、セックス)」


俺は元々女にしか興味なかった。これは間違いない。
今でこそ、大石のことは好きだって思えてるけど、
それは大石が特別なのかもしれないし、
あんなことがあったから…性欲と恋愛感情がごっちゃになってるってやつかもしれない。

どちらにせよ。



「(これをケツにツッコまれる……うん、無理!!!)」



でもさ、男同士でやるからにはどっちかが女役をやらなきゃイケネーわけじゃん?
普通に考えたらイヤだろ…だってケツだぜ?
そこは物を出すところであって入れるところではない!

…でもヤリたいんだけどさ。
となるとどっちかが我慢しないといけないよなー…。


………。

大石、こういうとき気ぃ遣うからなぁ。

自分がどうとか差し置いて、俺の気持ちがどうか先に考えるじゃん?
…いっつもそんな大石に甘えてるわけにはいかないよなぁ。

しゃーねぇ、俺が一肌脱いでやっか。


「あのさ、大石」


こするのをやめて、手を離した。
腰を落として正座になる。
同じように大石も正座になった。
下半身露出したまま向き合って正座。
なんとも滑稽な状態だ。

でもここはハッキリしておかねーと。


「俺は正直この前まで女にしか興味なかったし、
 今でもチンコはツッコまれるもんでなくてツッコむもんだと思ってる。ただ…」

「挿れてくれるのか?!」


俺はお前に感謝してるし、いつでも人にばっか気を遣って
今も自分が下の方でいいとか言うようなそんなお前を俺は………


………え?

さっきなんつった?


「大石、なんつった…?」

「あっ、そうだよな!イヤだよな!ハハ!
 そう言うと思って、実は一応キレイにしてあるんだけど!なんてな!!」


………ハ?


「大石…お前何言ってんの?」

「あっ、いやその!キレイなものでもないけど!
 一応汚くないようにはしておいたから…」

「……待って、意味ワカンネ」

「え……あっ、その……」



大石は困った素振りで視線を泳がせて、しょんと眉毛を下げた。
ちょっと待てちょっと待て。

つまり?
こいつは?
キレイにしてた?
前もって?
……俺に挿れてほしくて?


「大石…お前……」

「ごめん!引いたよな!というか、怒ったよな…
 勝手に盛り上がって…。ごめん、忘れてくれ!」

「忘れてくれ?」


大石。
俺、今回ばかりはそれは許せないぞ。


体を正面向かせて、
腕を持ち上げると、
身を強張らせる大石が見えた。

その体を、

思いっきり、

強く強く抱き締めた。


…」

「ホンっト馬鹿だなお前…」


こんな焦ったりして。
俺以上に色々考えて、悩んでたんだろうな…。
だって、大石だもんなぁ。


体を一度離して、ベッドまで連れて行って座らせて、
トンっと軽く肩を押すと、
人形みたいにそのままぱさりとベッドに倒れ込んだ。

俺はその顔の両側に手をついた。
女相手にはやったことはあるけど、
まさか目の前にいるのは男だ。
それなのに、びっくりするくらい色気があるように見えてるのは、俺の色眼鏡か?


「本当にそっちでいいの?」

「いいも何も…」


俺の腕の下に居て、逃げられやしないのに、
その赤い頬は隠せやしないのに、
なるべく顔を横に背けさせて、
聞き取れるギリギリくらいの音量で大石はこう言った。



「中学の頃からずっと、俺はお前に抱かれたいと思ってたんだ」



……限界だわ。


強引にキスをして、奥の奥まで舌で攻めると
大石の喉の奥から「んっ!」と声が聞こえて、
それは、俺が今までに聞いた大石のどの声よりも高くて、
信じがたいくらいに俺の欲情を誘った。

舌を絡ませ合って、唾液がぐちょぐちょと混ざり合う音が響いた。
うまく息継ぎをできないらしい大石は苦しそうなうめき声を上げて背中を叩いてきたのでようやく口を離した。


「ぷはっ!ハァ…ハァ……!」

「大石…」


ようやく口を離して、真っ赤に染まった顔と潤んだ瞳、
そこに向かって、俺も想いを告げた。



「俺は、まさかお前とこんなことになるなんてこの前まで全く考えもしなかった。
 でも今……とんでもなくお前を抱きたい」



俺は抱きたくて、お前は抱かれたい。

なんも問題ねーじゃん。

2分の1の確率でうまく噛み合った、それだけなんだけど…
相性いいかもな、俺ら。なんつってな。


「ほ…ほんとか?」

「お前こそ、本当にいいの?」

「もちろんさ!」


あまりに大石がまっすぐで、照れくさくなった。

んでもって…なんだ、俺、
初めて女とヤったときよりよほど緊張してる。

これから抱くんだ。大石を。


大石をうつぶせにさせて、俺はその横に寝転んで、
ケツの側面のあたりにチンコをぐりぐりと押し当てた。
オラ。お前ん中に入りたくてこんなバッキバキになってんぞ。

ズボンを更に下ろしてケツ丸出しの状態にさせた。
なんかマヌケだな…。
でも、それと同時にエロイなって思ってしまうあたり、俺も毒されてる。
そのケツの中心に沿うように手を添えると、体をピクンと震わせた。


「ここ、準備してたの?いつ?どこで?」

「さっき、トイレで…」

「…お腹痛いから時間かかるとか言ってたのそれかー」


なんか様子がおかしいと思ってたんだよな…納得。
つまり、大石はとっくにその気だったってわけじゃん。


「めっちゃ期待してんじゃん」

「それは…!」

「いいよ。嬉しいから」


焦って言い訳しようとする大石の頭を撫でた。
なんか、妙な気持ちだ。
さっきから、やたら大石が可愛く見える。


「カンチョーとかすんの?」

「まあ、そうだな…」

「へー、モノ入れんのに慣れてんだ」


恥ずかしそうに尻の筋肉に少し力が入った気がした。
それを両手でこじあける。
さすが元運動部という感じ、程よい肉感の弾力が返ってきた。


「でもコレは、初めてだろ?」


そのすぼんだ門に、俺の肉棒の先端をピタッとをあてがった。
なんだかんだ言って俺もめちゃめちゃ興奮してて、
擦り付けるたびに先走り汁でその部分がどんどん濡れて、
そこは誘惑するように妖艶に光った。

ヤッベ。
挿れるんだな、これから、ココに。
超興奮する。


「慣らした方がいいの?」

「いや、もう済んでるから…」

「やば。大石すげぇ」


どんなことにも用意周到。
大石らしいな。


「お前らしくていいと思うよ」

「そうか…」

「じゃあ、いいか…いくぞ?」

「ああ」


後ろから、大石の腰を抱え込んで、
少しずつ、少しずつ、その中心部に自分の中心を埋めていった。


「(きっつ…搾り取られそ…)」


あまり激しく動かせそうにはなくて、
先端部分を浅く出し入れするような形になった。
それでも、充分キモチイイ。

俺は気持ちいい、けど、大石は大丈夫かな…。


「大石、大丈夫か?」

「ん……」


パタタッ、

と何かがシーツに垂れる音がした。
汗…?
じゃない、とわかったのは、次に聞こえた ズズッ という音。


「お前、もしかして泣いてる?!」


焦ってイチモツを抜いて大石の体を反転させた。
想像以上にボロボロに泣き崩れた顔がそこにあった。


「悪い、痛かったか!?」

「ち、が……そうじゃなくて」


大石は腕で目元を拭った。
しかし、拭っても拭っても涙は溢れてきていた。

やべぇ。女でもここまで泣かれたことねーぞ。

テンパっていると、
大石は息を整えて喋り始めた。


「俺たち、同性で…俺が一方的にあんなことしたせいで、
 話せもしなくなってしまったのに…今、まさかこんな風になれるなんて…」

「大石…」

「嬉しくて……っ」


おいおい、泣かすじゃねーか。


「ごめんな、中3の頃、無視するようなことして」


あの事件以降、俺は大石とどう接して良いかわからなくなって、
大石を避けるようになってしまった。
大石が外部受験をすると聞いたときは、ショックだったけれど、どこかほっとしていた。
それでも罪悪感はあって。
だけど自分も穢されたような感情はあって。
暗黒時代だ、中3後期は。

そんな俺の今更過ぎる謝罪を受けて、
大石は大きく首を横に振った。


「俺も自然にできなかったから…
 そもそもあんな風になったのも俺のせいだし…だから」


手首で涙を拭うと、大石は弱々しく笑って言った。


「今、こうできていることが嬉しい。…ありがとう」


気付いたら、大石のことを強く抱き締めていた。
まさか、こんなにも愛おしい存在になるだなんて、
あの頃の俺には想像できなかった。
仲が良い友達で、一歩超えて気まずい関係になって…
それが3年以上の時を経て、今、肌と肌を重ね合わせるような関係になっている。


「そんな言い方しなくていいよ…。
 大石こそ、勉強もスポーツもできて教師からも信頼されてて…
 なんでも出来る大石がどうして俺なんかのことを好きになってくれたのか…」

こそ、そんな言い方しないでくれよ」


赤くなった目を細めて、大石は柔らかく笑った。
昔から変わらない、優しい視線。


「俺はずっと支えられてたよ」


そして話してくれた。
テニス部副部長としての立場が大変だったこと。
ダブルスでうまくいかない時期があったこと。
委員会の仕事が負担になっていたこと。
外部受験の勉強が忙しかったこと。
様々なことがプレッシャーとなっていた日々のこと。


「色んなことが積み重なって、自分をコントロールできなくなって…あんなことをしてしまったこと、ずっと後悔してた。
 俺はずっと、助けてもらってばかりだったのに」

「……もう、それ以上喋るな」


なんだか、俺は自分が情けない。
何も知らずに大石の一友達として呑気に過ごしてたこと。
その裏で、大石は人に言えない悩みを抱えながらも生きていたこと…。

その心ごと、抱き締めてやりたいと思った。


「大石、後ろ向いて。早くまた挿れてぇ」

「ちょっと待って」


大石は俺の股間に顔を埋めると、
柔らかくなり始めていた俺のチンコを手に取り口に含んだ。

ヤベっ……きもちいい……。

そのとき、初めて大石に…人に、しゃぶられたときのことを思い出した。
事の発端となったあの日。あのときも俺の部屋だった。
あのときと同じくらい、脳が蕩けそうなほど気持ちいい。

でも、あのときとは違う。全然違う。


「大石…それくらいでいいよ。これ以上やられると出そう」


頭をそっと撫でて、口を離させた。

好きだ。
大石が好きだ。
愛おしい。


俺の直近の悩み。
男も女も両方いけるんじゃねって気づいたこと。
結局答えはまだよくわかってない。

でも、俺は大石が好きだ。
それだけは自信を持って言える。





俺の名を呼ぶと、大石は仰向けで大きく足を開いて持ち上げた。

なんだこれ。
なんてマヌケで無防備な体勢だ。
そんな姿を見せてくれるくらい、大石は俺を信頼してくれてるって思っていいってことか。


「体勢キツイかもしれないけど…こっち向きで挿れてくれないか」

「いいけど、なんで」

「顔が見たいんだ」

「……そっか。そうだな」


その方が挿れやすいと思って後ろ向きにしてたけど、
確かに、俺も大石の顔、見たいかもな。

その足を持ち上げて体を割り入れた。
でも、結構足高く持ち上げないと入らないぞ…。


「どちらかというとキツイのお前じゃね、大丈夫か?」

「大丈夫」


至極無理のある体制ながら、
足の間から顔を覗かせた大石は不敵に笑った。


「早く奥まで突いてくれよ」

「…了解」


大石、煽るのうまいじゃん。
そこまで言われてやらないわけにはいかねぇ。

やっぱり、狭くてきつい……けど、体重をかけ続けると
ずぶずぶとチンコは埋まっていって、ついに奥まで入りきった。

ヤベェ、かなりイイ……ハマりそう…。
挿れてるだけで気持ちいいけどこのままでいるわけにもいかない。
少し、動くか。


「(……あっ!)」


…っぶねー……。
今マジでイキそうだった…。

大石ン中、あったかくてめちゃめちゃキモチイイ…。


フゥー……。


肺の中身を出し切るくらい大きく深呼吸をして、目を開けると、
下には頬を高揚させてうっとりとした目でこっちを見てくる大石が居た。

そういえば、俺はしてもらってばっかりだったり、さっき挿れたのは後ろからだったり、
初めて大石のこんな恍惚とした顔を見た。

ゆーっくりと腰を前後させながら、声を掛ける。


「大石…どう?きもちいいの、俺の」

「ああ…おかしくなりそうだ」

「そっか」


俺のにわか知識だけども、女側で初めてでそんな気持ちいいとかなかなかないんじゃないか?

でも、気持ち良いというのも嘘ではないと思う。
それはわかる。


「あと…」

「ん?」

「お前の気持ちよさそうな顔が見られるのが嬉しい」


大石、お前は、こんなときも自分よりも人なんだな。

敵わねぇよ、お前には。


「ああ。すぐキちゃいそうで結構我慢してる」

「そうなのか」

「ゆっくり動いてんの、気遣ってるのもあるけど、実は俺自身イキそうなの耐えてる」

「ハハ…そっか、良かった」


一旦止まる。
そして目を合わせて意思確認。


「もうちょい動くぞ。大丈夫?」

「ああ。ありがとな」

「なんでお前が礼言うんだよ」


思わず笑ってしまった。
ホント、大石は大石なんだよな。


宣言した通り腰を前後にカクカクと揺すったら、
それだけで一気に快感がこみ上げてきた。
正直ヤバイ。


「…っ、ヤバイ、あんま持たねぇかも」


大石は何も言わずに首を上下に振った。
それは快感に耐えてるのか、痛みに耐えてるのか、わかんねぇ。
だけど申し訳ないけどこれ以上気遣う余裕も俺にもない。
気抜いたらイキそうだ。


「大石、もうイクかも、いい?」


荒い息と一緒に問いかけると、
大石は腕を伸ばして、俺の顔に手を伸ばしてきた。

そして、掠れた声で、呼び掛けてきたその言葉は。



…ッ」



驚いた。
何お前、どこまでも可愛い奴だな。



「好きだよ、秀一郎」



告げた途端。


うわ、すげぇ締まるじゃん。

嘘だろ。



「ワリ、出…ッ!」



うっ…わー………。












……


………超出た。




人生で一番出たんじゃねってくらい出てた気がした。

若干賢者だし。


「(ヤっちまったな、男と。大石と)」


賢者モードすぎて性欲がゼロどころかマイナスだ…。
どこいっちまったさっきまでの俺。

でも。



「(大石…俺、お前のことが、好きだ)」



その思いに変わりはなくて、確信が得られて、安心した。


俺、バイってやつなんかな…。
もともと素質あったんかな、大石に目覚めさせられたんかな。
よくわかんねーけど、たぶん原因はコイツで、
そんなやつが、何年も時を経て、ここに来てくれた。


「大石、俺を好きになってくれて、ありがとう」
























半年ほど前に、大石にアンアン言わせたいブームが起こり(笑)
大石にツッコんでアンアン言わせたいんだったら男主人公物を書けばいいじゃない!
ということで。主人公が予定以上にド攻になってしまった。超楽しかった(笑)
そして反比例するかのように大石がド受に…大石が可愛い(号泣)

男主人公、口悪くしたり直接的な単語使えるのが楽しかった(笑)


2019/07/15