* 毎朝見かけるあの人に恋してた。 *












毎日通る通学路、ここは私のお気に入りだ。
川沿いの桜並木。
春はもちろんのこと、夏の青葉も秋の紅葉も、冬の枝葉も全部好きで、
景色を眺めながら歩くのが好きだ。

そんな私に最近、気になるものが。


「(そろそろかな…?)」


なんとなく横を気にしながら歩いていると、足音が聞こえてくる。
来た。


足音が大きくなってきて、
ヒュッと風が動いた。

そして私は、遠ざかっていく背中を見つめる。
どこの誰かもわからない、黒色のタンクトップのその彼の背中を。


吹奏楽部の朝練をすることが決まり、
早い電車に乗れるよう家を早く出発するようになって、毎日見かけるようになった。

何かのスポーツに取り組んでいる人かな、と考え出したら気になって、
中学生か高校生か、何年生なのか。
どんな顔をしていて、どんな声で喋って、
何の食べ物が好きで何の教科が好きで、
どんなことに笑うのか。

考えていたら、いつのまにか恋してた。


なんとか関われないかときっかけを探るけど、
私たちにはここしかない。共通点が。
早朝、この桜並木を通るということしか。



ある朝、私は決意する。


顔を見てみよう。
願わくば、声も掛けてみよう。


やると決めたら止まらない派の私、
今日にでも実行しようと決意した。



いつもの通学路が、ドキドキする。
同じ道なのに、違う道みたい。
景色が違って見える。
これが恋をするっていうことで、あの人がくれた感情なのだと思い知る。


ドキドキ。
ドキドキ。

もし、現れなかったらがっかりするけど、
どこかホッとする私も居るんだろうなと、
って思うくらい緊張していた。


顔、見る。
できれば声、掛ける。


これからやるべきことを呪文のように
頭の中で復唱した、そのとき。


カッカッカッ

と、足音が近づいてくるのが聞こえた。
今こそ…!


……しかし、振り返ると通過していったのはスーツを着たサラリーマン。
違う。この人じゃない。

今の一瞬で体中が熱くなって手に汗を握っていることを感じながらまた前を向いた。


いつもなら大体、そろそろ…。


そう思った、次の瞬間。



タッタッタッ


と、聞き慣れた足跡が。
間違いない、今度こそ…!



『あの…』

『はい』

『突然声を掛けてしまってすみません。
 実はずっとアナタのことが気になっていて…』

『えっ…?』

『良かったら、連絡先とか交換できませんか?』



ここ数日頭を巡らせていた妄想が再度舞い降りた。
さあ、現実はどうなるか。


振り返ると、そこにはいつもの黒色のタンクトップを来たその人が居て、
顔は…しかめっ面だけど、たくさん走ってきて苦しいのかな。

通り過ぎる直前…さあ、
声を掛けるのよ、ちひろ…!



「あの……」

「アア!?」

「!!!」



想像以上の低い声と、
その剣幕に、
予定していた言葉が何も出なくなってしまった。


「あ、えっと…」

「………」


スッ

と、
横を通り過ぎられた。

……え?


振り返ると、走り去った背中はとうに遠くなっていた。

無視………?


不審者とでも思われたのかな…
何かの勧誘とか?
ナンパとか?
…っていうか、私がしようとしてたことってナンパ??
もしかして逆ナンってやつ!?


とりあえず確実なのは、足を止めてもらえなかったということだけ。



………。

ちょっと変わった人、かな。


冷静に考えれば、私も変だよね。

何のために走っているのか、
何歳くらいで
何が好きで
どんな風に喋って笑うのか。

それすらわからずに、恋してしまうなんて。


変なのは私の方だった。

これはただの恋で憧れで、本当の意味での“好き”ではないんだ、きっと。







翌日。


いつも通り、通学路を歩く私。
でも今日は、昨日みたいに、振り返ろうとか考えない。

失恋、かなぁ…。
告白したわけでもないけど。
希望がないのはなんとなくわかってしまったし。

そもそも、本当に好きだったのかもわからない。
ただ、勝手に、毎日見かけるその背中に憧れていただけで。



考えていると、
足音が近付いてきて、
風と共に通り過ぎていった。
いつも通りに。


ドキン、と胸が鳴った。

そしてギュッとなった。


私が彼に関して知っているのは。

日課としてこの辺を走ってて。
同い年くらいで。
彫りの深い顔立ちをしていて。
声が低くて。
ぶっきらぼう。
そして、走る姿がカッコイイ。


……それだけじゃ、ダメ?



充分じゃないの、

恋をするには。


本当の意味での“好き”かなんてわからないけど、
明日も明後日もその次も、毎朝アナタも見ていたい。


だってきっと恋の始まりなんてそんなもの。




でもまだ足りない。


少しだけ知れた君のこと、
やっぱりもっともっと知りたいって思ってしまったから。



「(また、明日)」



心の中で投げかけて、遠ざかっていく背中を見えなくなるまで見送った。


また、明日。
























ついったでフォロワさんの描いた海堂夢絵と添えた文が素敵だったので
インスピレーション沸いてバババと勢いで書いた。 (スペサンひまわりさん!)

そのまま関係が発展して…というドリームな展開に持ち込むのもありだけど
海堂だったらきっとこんなんじゃないかなーと思ってこうした。
後々どうかはわからないけどね!
(と匂わせてみるテスト)(特に書く予定はない)


2019/07/15