* 隣のひだまりの温度 *












席替えをした。
大石くんと隣の席になった。


教室の一番左後ろ、窓際が大石くんの席。私はその隣りだ。
先生から遠いし、窓際だし、恐らく一番人気のある席。
ついつい校庭の体育の様子を盗み見ちゃったり、
陽光のあたたかさでうとうとしてしまったり、そんな席。

だけど真面目な大石くんのこと、そんなこと関係ないんだろうなとも思う。
寧ろ授業中に手を上げて積極的に発言なんてしてて、
その度にクラス全員が振り返って視線がこちらの方に向いてくるのは、愉快だ。

今日は小テスト。
隣の席の人と交換して採点することになった。
大石くんの答案はいつも模範解答みたいで、非の付け所がない。
さすが学年主席だなぁと思う。

訂正する必要がないと丸付けも速いもんだ。
間違いがないことを確認して全てに丸を付けて返却する。


「はい、もちろん満点」

「はい、さんも」


同じく、全て丸がついた答案が返ってきた。
私も勉強は苦手な方じゃない。寧ろ得意っていうか、結構好き。

クラスの様子を見ると、黒板の解答と見比べて必死に答案に赤ペンを滑らせる人、
「先生これはどうですかー!?」なんて質問する人、
色々いて、まだ採点の時間は続きそう。

手持ち無沙汰だし大石くんに話しかけてみようか、
なんて思ったけど、今日取ったノートを見返して教科書と照らし合わせてる。

こういうところなんだよなー…。

話しかけるのはやめておこう。
そう思って私も教科書に目を落とした。


「相変わらず、ここの二人は余裕だな。今日も二人とも満点か?」

「あ、はい」

「今日もわかりやすい授業をありがとうございました」


なんという優等生…っ!

見回りにきた先生からの質問への回答に、痺れた。
本当に模範のような生徒だ。
これは先生にも気に入られるわけだよねー…。
しかも、猫被ってるわけじゃないっていうのは日頃の大石くんを見てればわかる。


真面目すぎてつまらないような、
でも、気になる存在でもある。
不思議な人だ。大石くんは。





  **





さあ午後一の授業は国語。
今日はこの授業を終えたらおしまいだ。
でもお昼の後の、しかも国語の授業って、
どうにも眠くなっちゃうんだよねー…。

先生まだ来ないかな…。

……ふわ。
小さくあくびが出た。

何か面白いことないかな、って考えて、
隣の席を見ると、教科書を開いていた。予習しているのだろうか。
しかもなんとなく笑顔で、楽しそう。
……。

机の中に入っている国語の教科書に私も手を掛けて、でも、
面白いことを思いついて、その手を離した。

………。

私の評価下がるかな?
でも、いいよねそれくらい。


「大石くん」


声を掛けると、大石くんはこっちに顔を向けて
教科書を閉じると「何だい」と聞いてきた。

私はできる限りの申し訳なさそうな顔をする。


「教科書忘れちゃったみたい…見せてくれない?」


手を合わせてお祈りポーズをする私を見て、
大石くんはきょとんとしてから、笑った。


「もちろん大丈夫だよ。でも、珍しいな」

「そうかな、たまにあるよ」


本当は、最後に忘れたのなんて記憶にないくらい昔だけど…。
実は忘れてないのに忘れたフリしてるなんていうわけにもいかず、
視線を合わせられないまま机をズラして近づけた。

大石くんは机の中心にあった教科書を右端、私の机との境目に寄せる。


「意外とおっちょこちょいなんだな」


春風でたなびくカーテンの手前、
昼下がりのあたたかい陽光を背負いながら、
机を付けたことでいつもより近いその距離で、
シャーペン掴んだままの手で頬杖ついた姿で微笑む。

「意外と」と言葉を付けるあたり、
私は大石くんからしっかり者として認識してもらってるんだなぁとか、
人に不快な思いをさせない言葉選びをするあたりさすがだなぁとか。

色々考えながら、心臓は、ドキドキしていた。


何故だろう、空気は穏やかなのに。

急に温度が上がったみたいだ。


もう一度横を見ると、大石くんは正面を見ていて、
でも私の視線に気付いてこっちを見てきて、
思わずぱっと逸らしてしまった。


どきんどきん。


さっきまでの眠気はどこへやら。

先生が教室に入ってきて、
大石くんが号令を掛けて、
急に、この距離が恥ずかしくなって、
礼をした後の着席はなんとなく右斜めを向いてしまった。


君の温度が、近い。

ある晴れた昼下がりの授業中のお話。
























> 大石と隣の席になって、教科書忘れたふりして机つけて見せてもらって、
> 「意外とおっちょこちょいなんだな」って微笑まれたい人生だったんだよなぁ…
↑ついったより。ホントこれ。

ガチで忘れたパターンでも良かったんだけど、
いたずらのようなつもりでわざと忘れたフリをしたら
予想外な襲撃を受ける感じを出したくてこうなったw


2019/06/26