* Destiny is Always Random and Severe *












前回会えたのがクリスマス。

それから今日まで半年待った。


今日は昼に待ち合わせて終電まで11時間くらい、
一緒の時間をたくさん過ごせる…そう思ってたのに。


「え…『待ち合わせ時刻を遅らせたい。また連絡する』?」


家を出ようと思った瞬間に、その用件だけの簡素なメッセージが入っていて、
玄関の前で私は唖然とした。



医大を卒業した秀一郎は、お医者さんになった。
学生の頃もそんなに頻繁に敢えていたわけではなかったけど、
働きだしてからはなお忙しくなって会える頻度は更に減っていた。

淋しくないわけではないけど、不満はなかった。
秀一郎が忙しいのは仕方がないし、頑張ってる証拠だし、誇らしくもあった。
でもだからこそ会えるその貴重な時間は何より大切にしたかった。

それなのに。


1時間…2時間…連絡が入らないまま時が過ぎて、
どんどん不安だけが大きくなった。

もしかしてこのまま今日は会えなかったりして?
そもそも今日が会える日だってのが勘違いだったりして?

変な妄想まで出始めた頃。



「…あ!」



『ようやく落ち着いた。病院近くまで来たら連絡してくれ』。
その連絡を受けて、私は今度こそ家を出る。



連絡が取れて、不安な気持ちが緩和された。
早く会って、色々話したい。
お疲れ様って、労ってあげよう。
淋しかったよって、甘えてみよう。


結局、秀一郎に会えたのは予定から4時間遅れてのことだった。



予定よりも短くなっちゃったけど、
ここから巻き返したい。
短くなった分だけ、濃密な時間を過ごしたい。
なんなら終電逃したっていいんだよ?なんてね。

そんなことを考えながら病院近くのベンチで待ち合わせてみれば…。


「ごめん、1時間したら戻らなきゃいけない」

「は?何それ」


相手の忙しさを気遣う余裕もなく、苦言が口から零れてしまった。
秀一郎はきつく眉をしかめる。


「本当にごめんな…もう上がれるはずだったんだけど
 急患が増えてしまってまた仕事に戻らなきゃいけないんだ。
 昨晩から働きづくめだから1時間だけ休憩させてもらえることになったんだけど…」

「なんで?私は前から約束してたのに」


言いたいくない言葉が口から出てしまう。


いやだよこんな自分。
おかしいな本当は労ったり甘えたり
お互いを癒し合える時間にできたはず。
だけど口が勝手に動いて止められない。



でも…秀一郎だって悪いんだよ。

秀一郎にはわからないのかな。
私がこの日をどれだけ楽しみにして、
どれだけ準備を重ねてこの日を迎えているか。



秀一郎を困らせたいわけじゃない。
だけど私のこの気持ちもわかってもらいたい。
一緒にいたい。
いられない。

思いがぐちゃぐちゃになって、涙になって押し出されてきた。
胸が苦しい。



…」



私の名前を呼びはするけど、慰めるでもなく、
秀一郎はあからさまなため息を吐いた。


「悪いけど…俺も疲れてるし、こういう感じだったら今日はやめよう」

「………」

「俺は職場に戻るから。わざわざ来てもらったのにごめんな」


そう言って秀一郎は立ち上がる。
私は顔を見られない。

しゃくり上げがきつすぎて呼吸が苦しい。




結局、本当にその日は解散になってしまった。



どうしてこうなっちゃったのか…。
一人になってからも涙が止められなかった。


半年に一回しか会えなくて
それも満足のいく時間じゃない。

こんなの…付き合ってるなんて言えるのかな。



ぐずぐずの状態でいると、親友のから電話が掛かってきた。



『もしもしー?特に用はないんだけど暇だから電話しちゃった』

…」

『あれ、アンタ鼻声?』


私は、今日あったこを話した。



『なるほどねー、それは確かに凹むね…』

「ん…」


は私の言葉に耳を傾けてくれた。
そして次には、こう言った。



『でもさ、それでも会ってくれたんでしょ?』

「―――」



仕事で疲れてて。
なんだったら私との用事がなければさっさと帰って休んでるところ。

どんなに忙しくて疲れてても、私との時間を取ろうとしてくれた。
結局仕事に戻らなきゃいけなくなったのは結果論。

なのに私……。


『秀一郎の優しさに甘えすぎんなよ?』

「ちょっとが秀一郎って呼ぶのやめてよ」

『だってがいつもそう呼ぶじゃん』

「もー!」


そんな笑い話で会話は締められて、通話を終了した。



部屋がシンとして、ため息。

秀一郎、さすがに仕事終わったかな…。


まだ仕事が終わってなくて疲れてるのに働き続けてたら…とか、
終わってるのに、今日あんな別れ方したから出てくれなかったら…とか。

余計なことまで考えてしまう。
ドクンドクン。
心臓を震わせながら発信ボタンを押した。


秀一郎…!




『はい』




声を聴いた瞬間に、
全身の毛穴が開いた感じがして目からも涙が溢れていた。



「秀一郎…ごめん」

、泣くな。俺も悪かったよ』

「そんなこと、ない!しゅういちろうは、時間、
 作ってくれたのに…私、ワガママばっか…っ!」

「……とりあえず落ち着け」


普段話すよりも、低いトーン。
電話越しのせいもあるかな、
すごく大人に感じた。

私は深呼吸をしてから会話を始めた。



「今日…悲しくって、秀一郎にヒドイこと言っちゃった」

『…俺も、約束守れなくって悪かったって思ってる』

「仕方ないよ。お仕事頑張ってるもん」


首をぶんぶんと横に振った。

電話じゃ伝わってないかもしれないけど、
本当に正直な気持ちだから。



「今日、ちょっとしか会えなくて淋しかった」

『……うん』

「でも、会えないのはもっと淋しいよ…!」


涙がボロボロ。
前が見えない。

でもいいんだ、見えなくて。
声だけ聞こえていれば。



「今日は、疲れてて、ちょっとしか時間、ないのに、会ってくれ…て、ありがと…っ!」



言葉が途切れ途切れになった。
でも、きっと思いは伝わった、
そう確信できたのは、電話の向こうの秀一郎の声が格段と優しくなったから。


『俺も、今日余裕なくて…冷たい言い方しかできなかった…ごめん。
 少しの時間だったけど、の顔が見られて元気出たよ。ありがとな』


優しすぎるなぁ。
本当に大好き。


会いたいなぁ。


「また次、楽しみにしてるから」。
そう言おうと思って口をつぐんでしまったのは、
時計を見ると、本当ならまだ解散してなかったはずの時間だったから。

もしかして、秀一郎が「今から会おう」なんて、
言い出すはずないのに、言い出す可能性がないわけではないな、なんて、
考えてしまう自分は女々しすぎるなと思う。


だけど、いいの。
私の気持ちは決まってる。

覚悟を決めた。



「また次、楽しみにしてるから」



そう告げると、音しか聞こえないのに、秀一郎が笑顔になったのがわかった。






















MARINE DESTINYのピックアップなのにSR大石が
10連×12回して1枚しか手に入らなかった嘆きで書いた(笑)
いや、これはこれで何かのメッセージかと思って…w

タイトル、頭文字を取ると12を示すダースです(笑)


2019/06/14