* 空と海と君との秘密 *












―――水しぶきがはねる。


手を繋いで歩く、日が傾き掛けの浜辺。
波が足や岩に当たっては砕けてはね返る。


「静かだねぇ」

「そうだな」


口を開かなければ、聞こえるのは波の音だけ。
家や街中でのデートが多かった私たちだけど、
久しぶりに秀が海へ行こうと誘ってくれた。

時計を見れば、それなりに暮れ。
だけど夏至も近い今日、夕陽というにはまだあまりに早い。
黄色い太陽に照らされて歩く私たち。


「こんな穴場よく知ってるねーさすが頻繁に海で泳いでるだけあるわ!」

「そうかな」

「そうそう!私、静かな海も好き」

「そうだな」

「………」


なんか、秀がヘンな気がする。

一応返事はしてくれる、けど歯切れは悪いし、
ずっと足もとを見ながら歩いていて表情も浮かない。
なんか考え事でもしてんのかな…?


「ね、さっきから、そうだなとそうかなしか聞いてないけど」

「ん、そうだな」


上の空にも程がありませんかー…。
せっかくの久しぶりのデートでこんな良い雰囲気で。
もうちょっと目の前の私のことを考えれんのかーい!


繋いでいた手をふりほどいて、
波打ち際に走って、
両手で水を掬って秀にかけた。


「わ!」


濡れた前髪の雫を絞りながら秀が声を上げる。


「こら、冷たいだろ!」

「あはは」


本気で怒っていないのわかって、
笑いながら私は逃げる。

こういうときの秀は全力で追っかけてきたりはしなくって、
やれやれなんて顔をして、
私が立ち止まるまでゆっくり歩きながら着いてくる、

それが常だったのに。


「…待てっ!」

「わ!」


予想外れの全力疾走に、私は逃げるタイミングを失う。
後ろに向けていた首を前に戻す頃には
もう追いつかれて手首を掴まれていた。

更に。


「えっ」


もう片方の手で肩を掴まれ、
手首を掴んだ腕はいつの間にか頭の後ろに回され、
突進してきたそのままの勢いで、
私は砂浜に押し倒された。


………は???


らしくもない行動をアナタが取った事実と、
その行動の突飛さに、私はぱちくりと瞬きを繰り返すしかできず。

背中冷たい
顔近い
腕の力強い
耳元で波がピチャピチャ ザザァ



何何


「秀、何…」




秀は問いには答えずに、視線だけはまっすぐ当てたまま。

ポケットから出てきたのは、
貝殻をモチーフにしたリングケース。

それが開かれて。


「結婚しよう」


黄色くなり始めた西の空

白い雲

青い海





「…します」



なんの気の利いたことも言えないし
顔が熱くて熱くて
それを海水で濡れた手で冷やして
安堵した顔で笑っている様子がにくらしくって
また水を掛けてやった。

そのまま水の掛け合いになって、笑って笑って、
太陽がオレンジ色になる頃までずっと笑ってた。


私、大石秀一郎くんと結婚します。

まだ、この世で他には誰も知らない、
空と海とだけ分かち合った君との秘密。






















テニラビのMARINE DESTINYが最高すぎるので
覚醒前SR大石画像を夢変換したらこうなりました。
はーーー大石と結婚したい人生だった(そればっか)


2019/06/14