* カモミールティ *











期末考査。
委員会の年度締め。
テニス部遠征。
新入部員の歓迎。
新入部員用の練習。
それを終えたらまもなくランキング戦……。


考えなければいけないことが多すぎて、頭が痛い。
いや、どちらかといえば胃が痛い。
比喩ではなくて文字通りの意味で。


心配性で考えすぎな性分であることは自分でもわかっている。
もう少し気楽に考えていいのだろうか、と思うこともあるが
事前に考えておかないとそれはそれで不安で落ち着かない。

こんな自分を情けないと思うこともある。
その場その場で臨機応変に対応できるタイプなんかには憧れる。
しかし今の俺はアドリブの利く男でもなく、
どうにも取り越し苦労をしすぎるし、先を案じてばかりいる。


眉間に皺が寄っているのに気付き、
これでは手塚のこと言えないな、
と思い人差し指でその部分をほぐした。

考えすぎ。気にしすぎ。
それはわかっているけども…。


そんな俺の悩みを余所に、なんだか賑やかな教室内。
見渡してみれば、クラスメイトの女子が小包を交換し合っている。

ああ、そうか、今日はバレンタインデー……と日付を思い返していたところ、
その輪の中の一人と目が合った。


「あ、大石くんも!あげるー!」

「あー私もあげるー!」

「えっ」


一気にその集団が押しかけてきて、俺の机の周りは大賑わいとなった。


「大石くんいつもお世話になってるからお礼!」

「いつもありがとねー」


あげるあげると言われながら直接渡されたり机の上に乗せられたり、
合わせて10近い小包を受け取ることになった。
それだけの用事が済むと、集団は嵐のように去っていった。

今、誰と誰にもらったっけ。
全員ちゃんと名前を書いてくれているかな…。
ホワイトデーは来月。
お返し、何をあげればいいだろう…。


「うっ…」


また、胃が……。

考えすぎ、気にしすぎなのはわかっている…。
だから周りを責めることはできないが。


「(優しさが重い…)」


腹部に手を当てながら鞄にしまわれた胃薬に手を伸ばした、そのとき。


「大石くん」

「――」


一人、さんが俺の机の前に立っていた。

俺は鞄に伸ばしかけた手を戻して顔を上げた。


「ん、どうした?」

「これ。今日バレンタインだから」


先ほどの流れで物をもらうことに抵抗がなくなっていた俺は、
すんなりとそれを受け取った。
透明の小包に、ティーバッグらしきものがいくつか入っている。


「紅茶かい?」

「ん、カモミールティ。ストレスや胃の疲れに良いんだって」


そう言って、さんは柔らかく笑った。


「大石くん、いつもみんなのために動いて心労抱えてくれちゃってるから」


いや、俺は…。
そんなつもりはなくて、ただ自分のことに精一杯で
心配しすぎてしまっているだけなのに…。

言おうと思った言葉は喉の奥で留まったままで、
何も言わない俺に対してさんはフフっと笑って
その場を後にしようとした。

と。


「あ」


声を出して足を止めると、振り返って。


「それは、いつものお礼だから。お返しとかいらないからね」

「でも…」

「いーの!もらって!」


そう言いながら歩き去ろうとする背中に
「ありがとう!」
と声を掛けると、
上半身だけ翻して手を振って、去っていった。



もしかしてさん、俺のことを…?

いやでも“みんなのために動いてくれるから”とも“お礼”とも言っていた。
だけど、こんなに気の利いたことを俺にだけしてくれるということは…?
他の人にもしているのか…?


「…フ……」


新たな悩みが増えた気がして、苦笑した。
だけど、何故だろう、それが心地好くさえ感じる。


もらったその外箱を空けて匂いを嗅いでみた。
いい香りだ。

家に帰って飲むのが楽しみだな。


それだけで、抱えていた胃の痛みも、いつの間にか和らいでいたことに気付いた。
























胃痛に悩む大石を救ってあげたいと思って書いた。
大石って実は優しさにプレッシャー受けてることあるだろなってw
だけどそれを言い出せない優しさもまた大石なんだ…泣ける。


2019/06/10