まあ、それほど珍しい名字でもないしさ、
いつかそういうこともあるかなーと思ってたんだけど。

人生15年目にして、初めて、同じ名字の人と同じクラスになった。



大石秀一郎くん、ね。










  * How can I call you? *












クラス替え初日、まずは出席番号通りに着席させられた。
私の隣は、私と同じく出席番号3番の、例の彼。


「よろしくな。えっと…大石さん、でいいのかな」

「うんよろしくね。えーっと…大石、くん」


ははは、と笑って会話は終了。
なんかすごく良い人そうな感じはする。

しかし、被ってしまったのは初めてだからなぁ。
今まで佐藤さんとか鈴木くんとか見て思ってきたけど、
なんとなく不便なこともありそうな気がするなぁ…。




その予想は的中した。


「じゃあ次の問題を…大石」

「「はい!」」


先生に当てられて同時に立ち上がる大石くんと私。
横を見て、ぱちぱちと瞬きをする。
目が合った相手を、そうだこの人も大石だ、
とお互い認識してから、先生の方を見る。


「すまんすまん、男の大石の方を当てたつもりだったが…
 そのやる気を買おう。大石!答えてみろ!」

「いやいやおかしいでしょ!」


クラスは笑いの渦に包まれる。
大石くんは苦笑いしながら腰を下ろした。
マジで私が答えるやつじゃん…。(いいけどわかるし)
そういえば鈴木くん、「鈴木1、鈴木2」とか名付けられてたりしたなぁ。
私もそのうち大石2とかになるのか…。(いやぁ〜!!)


授業が終わると大石くんが話しかけてきた。


「さっきは、ごめんな。俺のせいで」

「いや、大石くん悪くないっしょ。なんで私になったのか意味わかんないし」


怒ってる私に対して、大石くんはハハハと柔らかく笑った。
優しくて、爽やかな人だなぁ…。

まだ新学期が始まって一週間も経ってないけど、
親密度が上がってきた気のする私はある提案をする。


「なんかさ、大石クンと大石サンって呼ぶ合うの微妙じゃない?」

「まあ、少し自分を呼んでいるみたいな気持ちになるよな」

「よし、じゃあ決定!今日から君は秀一郎くんだ!」

「え!じゃあ君は……ちゃん?」


ちゃん!!!
仲の良い友達にはって呼び捨てとかあだ名で呼ばれることが多いから、
ちゃん付けで呼んでくるのって、名字にさん付けよりは近いけど
友達ってほどじゃない微妙な距離感の人だけだから新鮮。
そうやって呼んでくる人誰がいたかなぁ。そうだなぁ…例えばいとことか。


「その呼び方してくるの、いとこくらいだよ」

「そうなのか?」

「もしかして本当に遠い親戚だったりしてね」


大石なんて名字たくさん居るしただの偶然かなとも思いながら。
そんな私の考えに気付かずか、わかりながら敢えてか、
大石くんは「そうだったら面白いな」と、また柔らかく笑った。

冗談真に受けるなんて素直な人だな。そんで、優しい人だな。





それから暫く時が過ぎ。


「あの…ちゃん」

「どうしたの秀一郎くん」


戸惑いながらも私を呼んでくれるようになった秀一郎くんと、
平気な顔して呼び返す私。
別に男子のこと下の名前で呼ぶとか結構あるし。
そう考えると、男子が女子を下の名前で呼ぶことの方が少ないかな?
真面目な秀一郎くんが戸惑うのもわかる。
でもちょっとずつ、その呼び方も板に付いてきたようなそんな気がする。
しかしもちろん、ほっとかないのがクラスメイト。


「は?大石って大石のこと下の名前で呼んでんの?」

「それどっちが主語だよ」

「だから大石だろ」

「それはどっちだって」


そんなことをいってゲラゲラ笑ってるクラスの男子たち。
私たちの名前関連のいじりは、クラスが始まってから毎度耐えない。


「俺たちだって困っているんだよ。
 試行錯誤した結果こうなったんだから、あまり冷やかさないでくれよ」

「さすが秀一郎クン、まっじめ〜!」

「乗っからないでくれよ…」


同じように「秀一郎くん」と呼び出したソイツに、
秀一郎くんは冷ややかな目線を送った。
そうだそうだー!私たちは面白がってるわけじゃないんだ!

でも…なんだろ、今。
他の人が秀一郎くんって呼んだら…
私だけ特別だったものが、なくなっちゃう気がして、
ちょっと寂しかった…なんて、ね。


「(何考えてんだ、私は)」

「でも、クラスのみんなも俺たちの呼び方を区別してくれると
 ありがたいのは本当だよ。な、ちゃん」

「う、うん。そうだね!」


頭の中を読まれたかのような気がして、ドキっとして焦って返事をした。
そうだよ、ただ、呼びづらいから変えただけで。
別に私は、秀一郎くんの特別になったわけじゃないんだし。



結局その二人は、秀一郎くんとちゃんは仲が良いでちゅね〜
とかなんとか言いながら居なくなった。
想像しなかったわけじゃないけど、冷やかされるなあ…。


「なんか、ごめんね?下の名前で呼ぶの辞めた方が良かったかな」

「いや…でもなんとか区別したいのは本当だよな」

「うん。なんかめんどくさいねー。
 逆に名字被ってて得なことって何かないかなー…」


ちょっと考えてみる。
名字が一緒だと得なこと、楽なこと、何か…。

あ!


「わかった!もしさ、私が秀一郎くんと結婚しても
 名字変えなくていいから楽だよねー!なんちゃって!」

「えっ!?」

「…えっ」


えっ!?て、えっ!?

ただの雑談として言ったつもりだった私は、
目の前で秀一郎くんが顔真っ赤なことに驚いて。
冗談が冗談と受け止められていないことによって、
私はとんでもなく大胆なことを言った人になってしまったようだ。


「違う違う!深い意味とかなくて!」

「そ、そうだよな!ごめんな!!」


否定しながら、私も顔真っ赤で説得力ナシ。
だってまさか予測してなかったから…。


そしたら隣の席の秀一郎くんは、私の席に肩を寄せて。


「あの…ちゃん。別に、今の話に
 そそのかされたとかじゃないんだけど…」

「ん、何?」

「俺は、名字が被ってるとか関係なく、
 ちゃんと…下の名前で呼び合えるような
 関係になりたいと思ってるんだけど」


え?


秀一郎くんの顔は、さっきより更に真っ赤で、
私も、さっきより更に真っ赤になってしまった。


「本気で?」

「本気さ」

「冗談じゃないの?」

「冗談じゃないさ」


秀一郎くんは、いつも、
私のくだらない冗談を真に受けて、
爽やかに笑って、
優しくて。
そして、ドキドキをくれる。


クラスのみんなは、私たちがこんなことを話してるなんて知らずに騒いでる。
まさかこんなときに、こんな場所で、こんなことになるなんて。

でも、私たちらしいかな。
出会いも、呼び方を変えたのも、関係が変わったのも、全部ここから。


「じ、じゃあ……よろしくお願いします、でいいのかな」


そう答えると、秀一郎くんはいつもの笑顔になった。


「改めてよろしく、ちゃん」

「よろしく、秀一郎くん」


そう言って顔を合わせて笑った頃に、チャイムが鳴った。


「とりあえず、みんなには内緒な」


そう言って秀一郎くんは口元に人差し指を寄せた。

内緒なのに堂々と下の名前で呼べるなんて、
同じ名字ってお得だね、なんちゃって。






















もし自分が大石という名字で大石と出会っていたらなんと呼ぶのだろう妄想より。
普通に大石って呼びそうなのがリアルな私なんだけど、
ドリーム的においしくしようと思って下の名前呼びにしてみたw
秀一郎くん呼びの夢は初めてだなw

冗談を真に受ける秀一郎。
逆手にとってうまいことやる秀一郎。
奥手なのにド攻な大石は良いよね(何)


2019/04/30