* 恋は過ぎれば尊し *












オーケーだったらすぐに返事くれるかな、
ダメでもそれはそれで早めに返事をしてこないかな。
そんなことを考えたまま、結局、一ヶ月という時が過ぎ去ってしまった。



もしかして今日何か言われるのでは、
と思っているうちは毎日が長く感じたけど…
過ぎてしまえば、一ヶ月あっという間だったなぁ。


「(明日、か)」


明日はついにホワイトデー。




一ヶ月前の今日を思い出す。

あの日は、明日はすごく早起きしなきゃいけないと思いながら、
胸がドキドキしてしまってなかなか寝付けなかった。

今日もそれに、似てるかな。



ドキドキ。


ドキドキ。



でもどこか、違う。




「(…苦しい)」




思い返せばあの日は、緊張によるドキドキもあったけど、
そのうちの一部はワクワクだったようにも思う。

うまくいくかな、大石くんはどんな反応をするかな、って。


だけど。



「(待つ側って…結構ツライ)」



もし明日、大石くんが何も言って来なかったら?
それはある意味“答え”だなって受け止めるしかないのかな。
自分の努力で何とかできるわけじゃないから、ある意味待つ側の方が、ツライ。


先月はそれはそれで大変だったけどね。
大石くんの机の中にチョコを入れようと思って必死で早起きしたりして。
結果的に、机の中は無理だったけど、二人きりで色々話せたし、チョコも渡せて良かったなー。
明日はどんな感じになるだろう。
本当に明日何かがあるのかなー…。

……ん、明日?


もしかして私、大石くんと二人きりになれるように早く登校した方がいいとかある?



「(いやそれは、期待しすぎでしょ)」



私が大石くんにバレンタインを渡したいと思っていたみたいに、
大石くんも私に何かを伝えたいと願うなんて…。

図太いにもほどがあるな、うん。


都合の良い妄想はこれくらいにしておくか。
夜も遅くなってきた。寝坊するわけにはいかないし。


もう寝よう。

おやすみ。

………。





  **





「……朝だ」



目覚ましを止めて、思わずひとり言。

実はね、心のどこかで
「偶然にも早起きできたら早めに登校しちゃおうかな」とか
思ってなかったとは言わないよ??
でもそんな習慣もないしお母さんに起こしてって頼んだわけでもないし
そんな体よく目覚めてくれる私の体でもなかった。

良くも悪くもいつも通りだ。


まあね。
別に早く登校できたら大石くんが何か言ってくれる保証があるわけでもないし。
寧ろ、何もないのに張り切って早く登校して待ち構えてるみたいにしたら
大石くんが何も言ってくる気なかったときに気まずくなるわ!


「おはよー」

「あ、おはよう

ちゃんおはよう!」


いつも通りの、活気のあるクラス。

大石くんは……
いつも通り、机で何かと向き合ってるみたいだった。

こっちを伺ってくる様子とかは、ない。



「(考えすぎ、期待しすぎ)」



そうやって自分に言い聞かせながらも、

休み時間おきにドキドキしながら、

だけど何もないまま、

放課後を迎えた。



「(こんなもんかー…)」



帰りの会も終わって下校の時間。
ふぅとため息が出た。


「帰ろ、

「あ、うん」


交換した友チョコたちでいっぱいになった鞄を持ち上げ、帰路に着く。

ちらりと大石くんの机の方を見たけど、
後ろ姿が見えただけだった。




と一緒に帰り道歩きながらも、意識は上の空。
空返事ばかり続けたその時間はいつの間にか通りすぎて分かれ道。
バイバイと大きく手を振って、それぞれの道に進んだ。

数秒くらい歩いてから振り返ったけど、もう誰の姿も見えなかった。


…だよね。


大石くんがこっちを伺ってる様子くらいあれば期待も持てた。
だけど今日は一日、視線すら合わなかった。

視線が合わないのが偶然だったのか、
それとも、大石くんは今日という日を認識していて、
だけど、良い返事なんてできないから
敢えて視線を合わせないように意識していたとしたら。

…辻褄が合う。
っていうか、たぶんそれが真実なんだろうな…。


期待しちゃいけない。

そう何回も自分に言い聞かせてたけど、
心の奥底では期待してたかもしれない。


「(そっか)」


情けないな。
こんなにも、心がぽっかりだ。


これ、失恋しちゃったのかな?

認めたくないけど、今日返事もらえなかったらそうだよね。

だけど、暗黙の了解でバレンタインデーの返事はホワイトデーだよねってのがあるだけで
実際にいつまでって期限を設けたわけではなく、
きっと、どこかで期待し続けてしまう自分がいる。
フラれたわけでもなく失恋って、ある意味一番ツライのでは…。


家、着いちゃったや。

門に手を掛けたとき…。



さん!」



………。

……えっ、ホントに?



「大石くん…」



ホントに?

ホントのホントに?


今日朝登校したときも
授業の合間の休み時間も
昼休みも
掃除の時間も
放課後も

なんの素振りも見せなかったのに。

どうして貴方は今ここに?



「ごめん、こんなところまで押しかけて…。
 一人になるタイミング見計らってたらこおまで来ちゃって…」



え。

嘘マジで。

早起きしなかった今朝の私何やってるの。


ホントに?



大石くんは一歩歩み寄ってきて、
「これ、先月のお礼。嬉しかった。ありがとう」
と言って小包を渡してくれた。

そして一歩離れた。


これ、は。
お礼?
だけ?


「えっとー…」


私の視線にはっと気付いたように大石くんは視線を逸らした。
しまった、ついじっと見つめてしまった…。

大石くんの視線が泳いで、定まらない。

この、動揺の仕方は。

もう、それしかないよね。


ドキドキドキドキドキ。


「その、もしさんさえ良ければ…」


そこまで言って、大石くんは手で口元を覆った。
何。何?


「ちょっと待ってくれ…」


するとみるみる顔が真っ赤になって、
口元を覆っていた手が今度は腕ごと目元を覆わせて。

え。

え。え。

何。


「ごめん、俺すごく盛り上がっちゃってたけど…
 この前のって、本命って受け止めて良かったのかな…?」


は。

何言ってるの今更!!


「そ、そうだよ!」

「あ、そうなのか!ありがとう!すごく嬉しかったよ」

「そっか!良かった!あ、これありがとうね!」


なんだか実のない会話になってしまった。
私もだけど、大石くんもどぎまぎしてるのが見て取れる。

これは、ここまで来たら、
期待しちゃってもいいかな?


先月は、あんなに早起きしてチョコ渡したんだ。
今日は、期待しすぎちゃダメだよねって、
一人になるのが不安だったり、
大石くんと積極的に関われなかったりしてた。

後ろ向きになってチャンス逃すより、いいよね。

あのときの努力と勇気を思い出せ!



「先月、大石くんとチョコを渡すチャンスを作りたくて早起きしたんだ」



努力と、勇気と、相手がつけ入る隙を作ること。

それが私の恋心。


「今日も、早起きした方が良かった?」


挑戦的な視線。

大石くんは、やられた、というな顔をしたように見えた。



「そうしてくれてたら、俺も今日一日もう少し楽に過ごせたんだけどな」



それはお互い様でしょ、とか
後の祭りだなぁ、とか
色々思うところはあるけれど
今、二人で笑えることが嬉しい。



「さっきの続きは?」

「え?……あ」



大石くんは顔が赤くなって
釣られて私も赤くなって。



「もし良ければ、というか……ぜひ、俺と付き合ってください」



いつか、片想いしていた頃が懐かしくなったりするのかな。

そんなことを考えながらの「よろしくお願いします」を返した。






















安定して、本命を受け取ったことに懐疑的な大石(笑)
(過去作でもそういうのあったよね…)
大石は敬語のときは僕になる派と信じてたのに
Go To the Topで夢破れたので最近は俺×敬語にするよう意識してる…
なんなら一回僕って書いてから消して直した。


2019/03/14