* 目眩 *
国語の時間のことでした。
「この中で、気絶したことある人居ますか?」
物語の中で少年が目眩を起こして倒れたシーンを読んだとき。
先生のそんな質問で会話は始まった。
手を上げたのは、クラスの中のほんの数人。
先生が順に当てて、話を聞いていく。
「で、どんな感じ?」
「辺りが青白くなって…世界がグルっと回ったみたいな」
「私の場合は全体が暗くなってきて…」
授業中の談議は続く。
皆がそれぞれの体験談を述べていく。
「そういえば、ついこの間屋上で豪快にぶっ倒れたやつが居たよな」
「なー」
向かう視線は、全て私へ。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「面白そうですね。聞かせてください」
せ、先生まで…。
酷いです、みんな。
というか、いつの間にそんなに噂が広まってるのね。トホホ。
大石と付き合ってるということは、
まだあまり知られていないようだけど。
「なんていうか…世界がぐるっと回って…」
「回って?」
そのときのことを必死に思い起こそうとする。
大石の顔。
その口から出てきた言葉。
回転する世界。
そして――。
「…太陽が真上に見えた」
一瞬の、沈黙。
そして数秒後…大爆笑。
クラスは、笑いの渦に巻き込まれた。
「ちょ、ちょっと笑わないでよ!」
「だってその言い方…なぁ?」
「うんうん。頭打って可笑しくなったんじゃねぇの?」
その言葉で、また笑いの渦。
くそぅ、バカにしていやがる…!
まあ、ギャグだというのは分かってるけど。
このクラスのメンバー、好きだからさ。
「それで、原因はなんだったんですか?」
「えーっと…」
先生に訊かれて、冷静さを取り戻す私。
理由、は……。
はぅっ!
「わ、忘れました…」
隣の席から笑顔がきて。(嫌がらせだ!)
他にいい理由が思いつかなかった私は
そんな返答をするしかなかった。
「最近のことなのに?」
「だから先生、頭が可笑しくなったんですって!」
「五月蝿い!!」
そんなところで話は流れて、教科書に戻った。
教科書を顔の高さに持っていきながら隣の席を見る。
向こうもこっちを見てきて、視線が合った。
もう一度、嫌というほどに爽やかな笑みを向けられる。
目眩がしそうになった。
ゲット ディジー。
(『sunny-side up』の続編)
2003/05/20