* あのときああしていたならば。 *
「……」
「わー、あれも美味しそうだよ!」
夏祭り。
いくつも並ぶ屋台の前を通り過ぎていく。
友人に浴衣の裾を引かれる私は、
本日何度後ろを振り返っただろう。
来ない、のかな…。
期待と不安が、さっきからグルグルしている。
町でも随分有名なこのお祭りには、
知り合いも沢山訪れる。
現に、既に何人もクラスメイトと擦れ違っている。
「お、お前ら浴衣じゃん!」
「へへ、似合う?」
「うんうん。綺麗だぜ、浴衣がな」
「あー、そこ強調しないでよ!」
桃城武、話し易くていい人。
確か隣のクラスのテニス部だと思われる人が横に居る。
「それじゃーな」
「バイバイ」
手を振った後、もう一度振り返ったけど誰も居なかった。
屋台で並んでいると、またクラスメイトに合う。
クラスの問題児とも言える二人組だ。
「林と池田じゃん」
「お、お前らも来てたんだ」
「そりゃ、これに来なきゃって感じでしょ!」
話してる間、私は随分とキョロキョロとしていた。
それは自分でも知っている。
二人の後ろを覗くけど、影は見えない。
「ね、今日は荒井は一緒じゃないんだ。珍しいね」
「あぁ、アイツは来ないんじゃねぇの?人込み嫌いだし」
……そっか。
今日、来ないんだ…。
なんだか胸に穴が開いたような気持ちがした。
「じゃな」
「うん。また学校でね」
そうして、二人は歩いていった。
もう無意味だと分かった私は、振り返るのをやめた。
浴衣の袖の裾を掴んで、ぷらぷらと振った。
ちょっとぐらい話出来ないかなとか。
浴衣姿見て欲しかったなとか。
上手いこと一緒に行動できないかなとか。
色々期待してたんだけど、どうやら無理のようです。
「(そっかー、来ないんだ…)」
学校に居る貴方を、思い出す。
たまにする何気ない会話。
『夏祭り、来るよね?』
それだけの言葉、言っておけば良かった。
誘えば、かったるそうな顔しながらでも来てくれる人だから。
「おぁー…ミスった」
「何が?」
「いや、こっちの話」
胸の内で深く後悔して、一つ溜め息を吐いた。
最後にもう一度後ろを振り返ったけど、
あるのは溢れかえった人の波だけで、
探し物はどこにも見当たらなかった。
我がクラスの2名におくる。
2003/05/18