* 足跡をたどって *
付いてくるな、という命令を無視して、
私は今強引にも薫と一緒に走ってる。
毎日、必ずマラソンをする薫。
トレーニングで忙しいんだ。
お陰で、休みの日もなかなか構ってもらえない。
そこで私が考えた作戦というのは、
一緒にマラソンしちゃおう、というものだった。
一回ぐらい、我が侭聞いてくれたっていいじゃない?
そんな訳で、無理矢理にも私は一緒に走り始めた。
へぇ。毎日こんなことしてるんだ。
体を動かすのって、結構気持ち良い。
風を切って走るのは爽快だし。
しかし……。
「(速いな!この人は!!)」
そこまで来て、漸く薫が「付いてくるな」と言った理由が分かった。
私には、この人には到底付いていけない…!
だって、明らかに体格から鍛えから何もかもが違うもの!!
うぁ…足元ふら付いてきた。
呼吸も苦しいし。
やっぱり無理言わなきゃ良かったのかな…。
「オイ」
「――」
「…生きてるか?」
「当ったり前、でしょ!」
後ろを振り向きながら走る薫。
私は悔しくて、反発的な口調になってしまったけど。
…本当は死にそうです。
やっぱり貴方に付いていくなど、無謀だったのでしょうか。
「…フン」
薫はまた背中を向けて走り出した。
ああ…こりゃ駄目だ。
置いていかれるしかないな…と思ってスピードを緩めた。
自分の足元だけを見て。
ちょっとずつ進んでいく地面を見て。
下を見たまま走っていた。
もしかして随分遠くに言っちゃったかな?
と思って顔を上げる。すると、
――目の前に見えた広い背中。
「(…ありゃ?)」
明らかに薫のペースなら、
100m離されてて可笑しくないのに…。
私に合わせてくれてるの、かな?
申し訳ない気持ちもあったけど、それ以上に嬉しくて。
たまに後ろ姿を確認しながら、
貴方の足跡をたどって走った。
貴方とならどこまでも。
2003/05/11