『ピリリリリ…』


「グガー…グガー……んが?」


電話の音で、目が覚めた。











  * おめっとサンバv *

 〜the second Sunday of May〜













…ったく、誰だよ。
折角のオレの休みの日の午前中を
電話によって妨げる奴は…!

「……あぁ?」

わざと不機嫌そうな声で出てやった。
その電話の向こう側に居たのは…。

「か、海堂薫サマ!?」

何故か様付けになってしまうほどの焦り具合。
ガバッと起き上がって、正座してるしよ。
受話器を両手で握って、妙に上擦った声でオレは返事していた。

「はい!はい!桃城武でゴザイマス!
 ところでお言葉ですがカオル様、
 何故にそのような不機嫌そうな声なんでございましょ……へ?」

頭の中で、一秒前に海堂が放った言葉がエコーする。
オレはベッドから飛び降りると、
4月のままだったカレンダーを捲った。
本日、5月11日の所には…。


 『海堂の誕生日』


母の日、と書いた赤い印刷の下。
オレがボールペンでそう書いていた。


「……ああ〜〜!!!」


思わず、思い切り叫ぶ。
電話の向こうからは、
「まさか忘れてたんじゃねぇだろな」とか
滅茶苦茶不機嫌そうな声が聞こえてくる。
そんなことはねぇ!
といいつつ妙に焦った声だったのが自分でも分かる。
右手に受話器を握ったまま、
オレはドタバタと着替え始めた。

「ちょっと、ほら、アレでよ?なんつぅの?
 あれよ、だから…そうだ!母の日でよ!
 ちょっと母ちゃんの手伝いしてたら…え、バレバレ?」

海堂の怒りの篭められた、でも呆れたような溜め息が
耳のすぐ横で聞こえる。

マズイマズイ、これはマジでかなりヤバイって!

オレは冷や汗が出てくるのを感じつつ急いで支度をした。
ある程度のところで電話を切ると、
朝飯(といっても、既に12時近かったんだけど)も食べずに
家をせわしく飛び出した。


さっきの口調からすると、かなり怒ってるぞ?
元々怒ってるみたいな話し方するけど、
今日はそれに更に磨きがかかっているというか…。
とにかく!ヤバイってことだよ。

誕生日。
今年は母の日とか、色々重なって、
家族はみんな出かけていないっていうから。
一日中一緒に居てやるって約束したんだ。
朝早くから夜遅くまで、お前んちで過ごしてやるって言ったんだ。

それが…既に一日も半分終わろうとしている!!

ダッシュしたって、どうしようもないほどの時間だけど。
だけどやっぱり、ダッシュするしかねー!!

と。

走ってる最中、とあるものが目に入った。
それでオレは、急いでいたけど店の中に入っていった。






「……クソ、バカ城が」
「かいどぉ〜!!」

海堂が怒りの言葉を発していたとも知らず、
オレは海堂の家に突っ込んだ。
幸い鍵は開いていて、オレは靴も揃えずに海堂の部屋まで駆け上がった。

「悪ぃ!マジゴメン!!」
「…許さねぇ」
「わー!マジ頼むって」

ドアを開けるなり平謝りするオレ。
海堂は、腕を組んで不機嫌そうだった。
これは謝っても、どうしようも無さそうだな…。

こうなったら、最後の手段。


「…これ、一応誕生日プレゼントだからよ」

一輪の花を、目の前に差し出した。
海堂は随分と面食らった顔をしていた。

「……俺にか?」
「他に誰が居るんだよ」

海堂はそれを手にすると、
少々頬を染めたそうな気がした。

礼の言葉を言ったりとか、歓喜の表情をしたりとか。
そんなことは、有り得ないけれど。


「…やっぱり最高だぜマイハニー!!」
「うわっ!お前、離せ!!!」


抵抗する海堂のことを、
これでもかというほどきつく抱き締めた。

やっぱり、幸せだと思うんだ。
なんて言ったって、オレは海堂のこと誰よりも大好きだしよ。
一緒に祝うことが出来て、本当に嬉しい。


『ボーン…ボーン…』

「ん?12時の鐘か」

考えていると、どこかの部屋から鐘が鳴った。
いつの間に半日過ぎちまったよ、とか思っていたら、
海堂は一回大きく息を吐いてから言ってきた。

「…俺の生まれた時間は」
「お?」
「……正午の、2分前だったんだ」


……。

それってのは、つまりよ?
海堂が生まれたのは11時58分ってことか?
オレが来たのは…3分以上前だったことは確か。

「…ギリギリセーフ、だったかな?」
「多分な」

おぉ、そうか。
オレ、間に合ったんだ!!
そう思うと、また更に嬉しさが込み上げてきた。

「嬉しいからプレゼント追加」
「コノヤロ…」

頬にキスをすると、海堂はまた照れたような表情をする。
本当に、愛しいと思う。


 「本当にお誕生日おめでとうな、薫」


言ったとき、頭の中で妙なフレーズが流れていた。



  終わりよければ全て良し

  おめっと、おめっとサ〜ン〜バっ






   -end?-







*おまけ*



「…ところで思ったんだけどよ、この花…」
「あ、花屋で沢山売ってて…綺麗だったからよ」

その花を見て、海堂は眉を顰めた。
…どうした?
気に食わなかったのか??

「なんかあるのか?」
「いや……この花って…」


 『カーネーションじゃねーか?』


言われて、オレは固まった。

「カーネーション…あ、あの母の日の!
 どうりで沢山あるなと!」
「お前は…」

海堂は苦笑していた。
そうか、母の日の贈り物の代表のカーネーションだったか!
これはやられたね…。
でもまあ、一応花なんだから母の日に関係なくても
贈り物としていいだろ、うん!

「それから…お前…この色」
「いや、赤ってなんかキザかなーと思って白にしてみたけど……!?」



  白いカーネーション。



「フシュゥ〜!!」
「悪い!マジ、知らなかったんだってー!!」


この分じゃ、暫く許してもらえそうにないな。
そんな、切ない恋人の誕生日。


頭の中に、また妙なフレーズが流れてきて、どっと疲れが来た。





  明日は明日の風が吹く

  お疲れ、お疲れサンバ〜






















薫ちゃんお誕生日記念です。
おめっとサンバvに沿ってやってみました。
あの歌に一番あってるカップルはこの二人だ!と思う。

母の日と重なったので利用してみた。
桃ちゃんも哀れですが、
薫ちゃんも相当切ないですね…この話。

あ、別に海堂の誕生時間なんて知りませんよ、私。(苦笑)

お幸せにあることを願いつつ、ハッピーバースデー。
桃海誕生祭様に贈ります。


2003/05/11