* 幸せ配達人 *












私は今、薫の部屋に居る。
滅多にない、テニス部が休みの日。


私達が付き合い始めたのは、一年の終業式だ。
同じクラスだった私達。
私は、ずっと薫のことを見てた。
みんなは怖いとか近寄りがたいとか言うけど、
私はそうは思えなかった。

学校の帰り、偶然見てしまったんだ。
猫と楽しそうに遊ぶ姿。
一瞬イメージ狂ったけど、
根は優しい人なのかもな、なんて思った。
それから、何故か気になって。
目で追っているうちに色々気付いたんだ。

何気に気配りさんだし。
(それ以上に口下手だからみんなと打ち解けられないけど)
かなり努力家だし。
結構真面目だし。

気付けば、すっごい好きになってた。
どうしようもないくらい。
毎日目で追ってた。

そして、終業式のとき。
とうとうクラス替えだ、と思って。
こんなに近くに居られるのは最後だ、と思って告白した。
結果は見事OK。
それどころか、向こうは遥か昔からこっちの視線に気付いていたらしい。


そんな訳で、晴れて両想いの私達。
今日も薫の部屋でラブラブデートだし。

デートっていっても、何もするでもなく
寄り添って座って、他愛もない話をしたり、それだけ。
ほとんどは私が話題を提供して、
薫が頷いてるだけなんだけど。

そして私の話のネタが尽きると、突然シンとなる。

横を見ると勿論薫が居るわけだけれど、
何故か同時にお互いのほうを振り返ってみちゃったりして。
とてつもなく近くにある顔に、
今更ながら二人して赤面しちゃったりして。
焦って私が再び話題を掘り起こすんだ。

二人きりの沈黙って、なんか駄目だ。




   **




一週間後、日曜日。
今日は母の日ということで、再び部活が休みだったらしい。
私は再び薫の家に来た。

「お邪魔しまーす」
「……」

いつもと何ら変わりはない。


「あれ、ご家族の皆さんは?」
「お袋は親父と出かけた。葉末も友達の家に出かけた」
「そっか…じゃあ……」


  二 人 き り ?


頭の中に不意に浮かんだ言葉を、焦って掻き消した。
妙に意識しちゃ駄目!自分!!
と思うけど、一人で勝手に赤面しちゃったりして。

何やってんだろ…私。



「適当に座ってろ」
「ん、ありがと」

いつも通り薫の部屋に来て、ソファに腰掛ける。
わざと中心に寄って座るのは、最早私の癖。

出来るだけ、近くに居たいと思うから。

それなのに、それなのに。
妙に意識して避けてるのは、いけない…かな?



いつも通りに話をして。
貴重なことに薫の笑顔も見れちゃったりして。
それなのに…薫の様子が何か可笑しいことに気付く。

「…薫?」
「ン、」
「なんか…今日可笑しくない?」
「……」

薫は無言になった。
そして、フシューと息を吐く。
私はその横顔を見つめるだけ。

「…今日は」
「うん」
「俺の誕生日なんだ」
「……へっ!?」

優に5秒は固まった後、私は叫んだ。

「ちょ、ちょっと待ってよ!聞いてないよ!?」
「教えてなかったからだ」
「うわー、おめでとう薫!」

パチパチと拍手をすると、
薫は「やめろ」と私の手を止めた。
…やっぱり、なんか可笑しい?

「薫、どうしたの?」
「……お前にこのことを教えなかったのは」
「…うん」
「決心が、付かなかったからだ」

言われたことの意味が分からなかった。
誕生日教えるのに、決心が付かない??
やっぱり、なんか変だ。

「それってどういうこと…?」
「…欲しいものは、一つだけだから」
「え、……んっ!」
「………それを言い出す勇気が、なかったんだ…」


肩の両側を掴まれると、
突然奪われた唇。
今更に、私達はキスしたことがなかったことに気付いた。

ううん、出来ないようにしていたのかもしれない。


「お前は…嫌か?」
「え?」
「なんか…いつも避けられているような気がした」
「――」

そうだ、私はいつも拒否してた。

二人きりで居るとき、静かになる度。
近くに視線を見つける度。
ずっと、目を背けてきた。

どうして?

怖かったんだ。
もしも自分が受け入れてもらえなかったらって。
薫のこと大好きだけど、信用してるけど。
だけど…ううん、だからこそ、
もしもという小さな可能性が怖かったの。


「……っ」
「?!」
「私…薫のこと大好き!」

目の端に涙が浮かぶのを感じながら、
私は薫の胸に飛び込んだ。

大好き。大好き。大好き。

いくら言っても溢れてくる。
想いは繰り返される。
これでもかってぐらいに一杯ある。


「イヤだって言われても押し付ける!私が誕生日プレゼント!」
「……遠慮なく受け取る」


もう一度、唇が重なった。
その後は、ただ熱いばかりの時間。







「…本当にいいのか?」
「当たり前です。煮るなり焼くなり好きにしてください」
「……文句は言わせねぇぞ」
「どうぞ」

そんな自身満面なセリフを吐く私。
でも、本当は凄くドキドキしてる。
これでもかってくらい緊張してる。
顔はなんとんく赤いの分かるし、
口から心臓出てきそう。

だってこれ、展開的に私…、
脱がされる、よね?


と思っている間に、既に服に手が掛けられる。
意外と手が早いです、薫さん。
抵抗することなく、私の肌が露になる。
上は下着だけにされたし、下はスカートだし。

ああ…恥ずかしいな。
私、女の癖に滑らかな肌なんてしてないし。
(たまに薫が羨ましくなるほどだよ)
胸は小さいし。
その割にはくびれてないし。
というか正直寸胴だし。


「きれいだな…」
「え?」
「綺麗な、身体してるな…」

そういうと、海堂は私の太股の内側を、
下から上へ撫で上げた。

「ふわぁっ……」

瞬間、背筋に寒気が走るように、
ゾクッとするほどの快感が走った。
自分ではそんなつもりはないのに、声が出てしまう。

「ココ、弱いのか?」
「かお…る……」

目からは涙が出た。
苦しみの涙でも、悲しみの涙でもない。
何故か分からないのに、涙が出る。

壊れてしまうのが、怖い。
自分を失ってしまうのが。
でも、次の快感を求めてしまう。
彼からの愛撫だけで、身も心も蕩けそうになってしまうのだから…。


「薫…私、どうしたらいい…の?」
「…お前はそうしていればいい」
「でも…」
「いいから」

妙なほどに男らしい薫に、リードされていく。
少し強引なような気もするけど、
この男前な態度、結構好きだしドキドキする。

「ぁ、やっ……」

胸も揉まれて。
予想外の快感に身を捩る。


 全身に、貴方を感じて。

 幸せだと、思うんだ。

 貴方にも、伝わってる?

 私の幸せ。

 私は貴方の、幸せに貢献できているでしょうか――?


「かお、る…スキ」
…」


 「ただいまー!」


「――」


予定外の展開に、私達は同時に固まった。

「今の声…穂摘様?」
「予想より帰宅が早い…」
「とにかく…マズイ?」
「…ああ」

私達は焦って身なりを整えて。
不自然なほど気取った態度でソファに座り直した。

その瞬間、穂摘さん来襲。


「あら、ちゃん、いらっしゃい」
「どうも、お邪魔してますー…ふふふ」
「……」

微妙に不自然な態度だったけど、
とりあえず怪しまれずに済んだ。
心の中はバクバクだったけれど。



こうして、薫の誕生日は、
私達の初体験…未遂で終わったのでした。


「なんか…微妙なことしか出来ないでゴメンね」
「…こんなことになるとは思わなかった」


ショックを受けていたのは、
寧ろ薫のほうだったみたいですが。
でも……。

「だけど、私幸せだったよ?」
「……」

薫は無言だったけど、おでこにキスしてくれた。
…これって、伝わってるってことだよね?



 とりあえず、幸せだから。

 お誕生日おめでとう、薫。






















恒例の裏々ドリーム海堂BD記念!
おめでとう!フィーバー!!

なんか、穂摘さんって海堂の初体験に
水を差しそうな印象があります。
差さなかったにしても、影で実は知ってそうな気がします。

そんな訳で…祝えてるか微妙ですがハピバ!!


2003/05/11