* テストの前に *
「うわーマジヤベェ!!」
それはチャイムが鳴った瞬間。
斜め後ろの席、桃はそう叫んでいた。
絶対そう言うと、予想はついてたけどね…。
「なーに、また勉強してないの?」
「部活で忙しかったんだよ」
くるりと体を反転して、そう問い掛けた。
桃は口を少し尖らせて、眉間に皺を寄せて言った。
そんな表情を見て、私は笑うだけ。
だって、面白いんだもん。
「毎日ちょっとの予習復習でいいのに」
「オレは多忙でそんな暇はねぇんだよ」
「ウソツキー」
桃は頭の後ろに手を当てて、
少し後ろに寄りかかるようにして言った。
こんな話してる時間があったら、勉強すればいいのに。
でも、そうするとこの会話が無くなっちゃうから、
言わないでいるけど。
…私も結構意地が悪いかな?
「お前は、自信あるの?今回のテスト」
「うーん。自信って程じゃないけど、結構勉強したから」
「いいよなー頭がいい奴は」
別に頭いいって訳じゃないよ、と否定したら、
それでもオレよりは100倍マシ!と桃は言った。
こんなやり取りが、大好きなの。
でも、貴方の気持ちは掴めない。
その笑顔の奥、私のことはどう思ってるの?
「…そうだ!いいこと思いついた」
「?」
「ちょっと、手貸してくれねぇか」
「え…うん」
言われるがままに、右手を差し出す。
すると、それは両側から包まれた。
ぎゅっと握られると、直に熱が伝わってくる。
突然のことに混乱して、私の口からは何も出てこなかった。
「…よし!これでなんかパワーを貰えた気がするんだよな」
「そ、それはどうも…」
手が離されると、私は焦って正面を向き直した。
赤い顔を、見られる訳にはいかなかったから。
でもやっぱり気になってしまって、
一瞬ちらりと後ろを見た。
すると桃は、にかりと笑うだけだった。
その頬が微かにピンク色だったのは、
焦っていた私の見間違えだったのだろうか…。
「それじゃあ、始めますよー」
教室に先生が入ってきて、皆がシンとなる。
その中で響いている私の鼓動が誰にも伝わらないように、
右手を胸の前に当てた。
これで私の成績が悪かったら、アンタの所為だからね。
中2の懐かしき思ひ出。結果は両者散々。
(『倒れて生まれた衝動』と同じ設定です)
2003/05/10