* 悪戯 *












「え、今日誕生日なの?」


それは、放課後の部活が終わったとき。

プレゼントを抱えた私を見た英二を切っ掛けに、

話は一瞬にして部員全員に広がった。


「なになに、誕生日?」

「おめでとうな」


みんながガヤガヤ押し寄せてくる。

いつの間にか、周りは人だかり。


「みんな、これで腕にラクガキしちゃえ!」

「いいっスね、それ」


どこからかペンを持ち出してきた英二。

ノリのいい桃も加わって、いつの間にかみんなで

私の腕にラクガキを始めた。


「ちょ、ちょっと待ってよ!くすぐったいし!!」

「まあまあ、誕生日っスから」

「オレは先着替えてくるから、場所残しとけよー!」

「――」


みんなが私の腕にたかる中、

言い出しっぺの英二が一番に部室に消えた。


…変なの。


人だかりが薄まったのは、

それから10分ほどのこと。

自分の腕を見回していく。


「何これ…背伸ばせよ。一日牛乳を…これ乾だね!?」

「良く分かったな」

「うわ、達筆…筆ペン使っていやがる。手塚君っぽー…」

「……」

「お誕生日おめでとう。これからもよろしくな……絶対秀一郎だ」

「そんなに分かりやすいかな?」


予想はどんどん当たっていった。

読み難いのやら、誕生日に関係ないのやら、色々。

(荒井・池田・林なんて3人並べて名前が書いてあるだけだし!)

でも、何か物足りない気がして。


ああ、英二から何も書いてもらってないや…。


腕をぐるりと見回して、そう思った。

その時、みんなが部室に入っていくのとは逆で一人出て来る人が。

…英二だった。


「おわ、凄いことになってるんじゃん」

「この言い出しっぺ…」

「まあまあ。…って、オレの書く場所残ってないし!?」

「ほんとだ」


腕は、文字でメチャクチャに埋め尽くされている。

それはもう、誰が誰だか分からないくらいに。


「うわ、どこに書こー…。ちょっと、お邪魔ね」

「あっ、うん」


そういって、袖を捲られると二の腕に書かれた。

まだ誰にも書かれていない、大きなスペース。

こんなことで、緊張してみたり。


ペンが肌を這う感触が妙にリアル。

添えられている左手からは体温が伝わってくる。

私の鼓動も、バレちゃってるかしら…。


「…っと。でーきたっと!それ、消さないで家に帰れよ!」

「ん、分かった。…なんか、変なこと書いてないでしょうね?」

「書いてないよ!!…まあ、悪戯といえば悪戯みたいなものかな」

「…何それ」

「それは見てのお楽しみ!それじゃ、また明日ねん」


言うと、そそくさと英二は帰っていった。

何を書かれたのか見ようとすると、

腕の丁度裏側でどう捻っても見えなかった。

私は暫く固まっていた後、自分も家に向けて歩き出した。



 お誕生日おめでとう、自分。



帰り道、腕を見回しながら自分で思って微笑んだ。

とっても幸せな誕生日にしてくれたこと。

英二に、とても感謝してる。

何より、英二自身に書いてもらえたことが、嬉しかったのかな。






そして更なる驚きは、その日の夜。

お風呂に入ろうとして、鏡を見た。

その時思い出したんだ、まだ英二のメッセージを見てないこと。

腕を持ち上げて、鏡に反射させる。


映ったのは、左右反対になった貴方の癖のある字。

多少読みにくかったけれど、解読できた瞬間、

その場にしゃがみ込みたくなった。



 “お誕生日おめでとう!ずっと大好きだよ”



お風呂に入るのが、嫌にすらなってしまった。

消したくないな、貴方の気持ち。


悪戯という名の大切なメッセージ、ありがとう。





…そしてそれに更なる驚きが。

お風呂を上がって、鏡を見て。

一つだけ残っていた貴方の文字。


 消えないペンで、書いたな。


そんなさり気ない悪戯が、

嬉しくって嬉しくって私はずっと笑顔だった。



 お誕生日おめでとう、自分。

 お祝いの言葉、ありがとう。























沢山のありがとう、伝えたい。


2003/05/06