* 唄 *
起きてて、と書かれたメールを目にして。
それから待つこと6時間。
夜中の12時、私は電話の前に居る。
『プルルルル』
音が鳴った瞬間に、受話器を持ち上げる。
「もしもし、シュウ?」
「もしもし。元気にしてたか?」
「当ったり前でしょ!」
久しぶりに聞いた、シュウの声。
本日、一番目に聞いた声。
「俺が起きてろって言った理由、分かってるだろ?」
「…うん」
「お誕生日、おめでとう」
「…ありがと」
電話越しに、シュウの優しい笑顔が見えた気がした。
優しい声と、優しい笑顔。
「そっちは今朝起きたぐらい?」
「もうすぐ出かけるところだよ」
「そっか」
少し、距離を感じたりすることもある。
だけど確実に繋がっているという、幸せ。
「さすがに…プレゼントとかは渡せないけど」
「そんなそんな!この電話だけでも…凄く嬉しい」
「それなら良かった。…でな」
「?」
シュウが何かを言い始めたので、私は首を傾げた。
すると、言われた。
「代わりと言っちゃあなんだけど……唄を、贈ります」
一瞬間が開く。
電話越しに、息を吸う音が聞こえる。
そして、紡ぎ出されていく音の羅列。
" Happy birthday to you... "
単調なメロディーが、不思議なほどに綺麗に感じられて。
言葉一つ一つが、驚くほどに鮮明に感じられて。
自分でもよく分からないうちに、
視界が滲んできていた。
「……と。どうだったかな。電話越しに歌うなんて、初めてだったけど…」
「し、シュウ…ありが、と……っ」
「…な、泣いてるのか?」
「だって、嬉しくって……!」
何でだろう。
世界には、沢山の唄があって。
世界には、沢山の歌手が居て。
それなのに、貴方の唄は、
ここまでも私の心に響く。
「とにかく…おめでとうな」
「うん、ありがと」
「それじゃあ、またな。お休み」
「ん。行ってらっしゃい」
受話器を置いた後は、暫の沈黙。
目を閉じて、貴方の唄を思い出した。
これは、すぐに眠れそうにないな。
そう思って、月の見えない空をそっと見上げた。
友人からのメールとバンドの演奏、感動しました。
2003/05/06