* 完璧なんて。 *
今日は席替えをした。
今までは端を保ち続けてきたのに、
今回ついに教室のど真ん中。
ついてないなーなんて思って移動すると。
「(……ウソっ!?)」
目の前に座るのは私の片想いの相手、桃城君でした。
「(うわ、うわ、どうしよう…)」
なんて、意味もなくふためいてみる。
だって、これって、これって…。
後ろから 大きな背中を 独り占め ?
なんて意味もなく川柳を考えては、一人またふためくのでした。
だって、黒板を見ようとすると、居るし!
先生の顔を見ようと思っても、見えるのは頭だし!
…どうしよう。
正直、嬉しいぞう?
だって、これなら堂々と見れるし〜!
そんな上機嫌な私。
変ににまにましているうちに授業は進んだ。
先生にプリントを配られて、各自やることになった。
「(数学なんて、ちょろいもんさ)」
一応、得意分野だったりするし。
さっさと終わらせて後ろからまた観察しよー…とか思って解いてたら。
「…ねぇ」
「ん?」
「何してるのさ…」
そこに居たのは、席を後ろ向きにしている桃城君。
私の机に自分のプリントを乗せて、私の答えを写してる。
「ちょっと、なに写して…っ!」
「シー、黙っとけよ!!」
桃城君は口に人差し指を当てると、
教室の前の方で理解していない生徒に個人的に説明している先生が。
あっぶねあっぶね、とか言うとまた写し始める。
「……分からないんだったら教えてあげるけど」
「なに!?これでもオレは数学だけは得意なんだぞ」
「…それだけはいつでも平均以上、とか?」
「お、よく分かったな」
言うと、また飄々と写していく。
一体なんなの、コイツは…。
まあ、でも…嬉しいし……。
それ以上何も言わないことにして、私は続きを解いていった。
すると、一瞬固まった桃城君は言う。
「…ん?お前、これ間違ってねぇ?」
「え、どうして…」
「だって、ここが2倍だろ?だからここは…」
「…あ、ほんとだ!」
私としたことが、こんなぼんくらミスを…。
これはやられたよ。失敗×2。
「……なによ」
「べーつに」
解き直していると、ニヤニヤしながらこっちを見てくる桃城君。
近くにある顔に視線を合わせられなくて、少し伏せがちになる。
そんな私に、言ってきた。
「お前にも、間違いはあるんだなぁって」
「そりゃ、数学は得意だけど…私だって人間だよ!?」
誰にだって間違いはあるさー、と呟いていると、
桃城君は付け加えてきた。
「そうだよな!」
「――」
「完璧な人間なんて、どこにも居ないわけよ」
その言葉は、心に強く響いた。
そうだ、完璧なんて、有り得ないんだから。
いくら突っ張ったって、所詮は一人の人間。
もっと気楽に行こう、そう思った。
「…とかなんとかカッコいいこと言っちゃって、解答写してる自分を正当化してない?」
「あ、バレちゃった?」
そういって笑う桃城君。
この人には私より、もっと沢山のものを持っている気がした。
完璧な人なんて、どこにも居ないんだ。
「…ん、桃城っ!ちゃんと前を向いてやれ!!」
「げ、バレたー!!」
とうとう先生に見つかって、焦った表情で前を向き直した。
ざまあみろーと小声で言うと、
聞こえたらしく、ベーっと舌を出してきた。
胸は、微かな鼓動を築いていた。
この授業は脈拍が20は高かった気がする。
2003/05/04