* 正義と悪? *












「今日はクラスで討論会をします」


そんな先生の一言で始まった、

クラス全員でのディベート。

テーマは、人とは元々正義なのか悪なのか。


そんな…正義なのか悪なのかとか言われても、ねぇ?

良心と悪心でどっちが勝るか、とかそんなところかしら?


考える時間は数分で、ついに討論が始まった。

私の中では、考えは一応付いた。

意見は教室の端から言っていくことになった。

クラスの一番端の席に座っているのは、海堂君。

普段は口数は少なくて、ちょっと怖い印象もある。

でも、本当は凄く真面目で、強い信念を持ってるの、私は知ってる。


重々しい雰囲気の中、海堂君は口を開いた。



「人って言うのは…元々悪い心は持っていないと思う」

「―――」

「生まれたばかりの赤ん坊の時は、誰もが純粋で…」


その意見が、私の持っていた意見と全く同じで。

何も考えずに、目を大きく見開いて聴き入っていた。


「でも生きていく上では…悪に染まらなきゃいけないこともある」


少し重みの効いた、低い声。

気付けばクラス中がシーンとしている。


「人を良くするのも悪くするのも、周りの環境次第……だと、思いマス」


言うと、海堂君は席に腰を下ろした。

なんとも言えない沈黙が走る。


そんな中、私は思っていた。

この人の言葉には、考えさせられるものある。

そして心のどこかに、同じ価値観があるような気がした。

そう、価値観なんだ。


討論はどんどん進んで。

色々な意見が飛び交ったけど、

海堂君の言葉に、一番納得させられた。


すると、海堂君はもう一度手を上げた。


「もしかすると…人に正義も悪もないのかもしれない」

「それは、どういうこと?」


先生の言葉に対して、海堂君は低く言い放った。


「全部、価値観なんじゃないかって」

「―――」

「一つの行動に対し、良いことと受け取るのも悪いことと受け取るのも、全部人間だから」


低くて小さい声だったから、少し聞き取りにくかった。

それなのに、やはり心に響く。


「全部、価値観の違いなのかもしれない」

「……」



もしかすると、そもそもこの世に正義も悪も存在しないのかもしれない。

定めているのが人自身なのだから。

正義と悪があるのだったら、それは全てまやかしなのかもしれない。


そんなことを考えてしまった、今日の討論会。

立派な意見を言った海堂君。

振り返って横顔を見てみると、静かに息を吐いていた。























全て価値観なのかしら。


2003/05/01