* 新しい *












唯今、30日の夜中。

私と秀ちゃんは、電話で繋がっている。

日常的な会話から始まって、

気付けばかれこれ一時間以上。


少し夜遅かったけど、勇気を出して受話器を握った。

3回目のコールで出来たのは、秀ちゃん本人だった。


寝る前に、もう一度でいいからおめでとうが言いたくて。


「秀ちゃん…今、何時?」

「時間?えっとな…あ、もう12時3分前だ」

「いつの間に…」


秀ちゃんと話してると、時が経つのが速いなぁなんて

しみじみと実感してみた。


「もうすぐ…終わりだね、誕生日」

「そうだな」


一瞬だけ、沈黙が走る。

顔が見えない電話越しでは、

その沈黙がやけに息苦しく感じられる。

私は急いで口を開いた。


「それじゃ、最後にもう一回…言わせてね」

「うん」


間を一瞬空けて、息を大きく吸ってから言った。


「お誕生日…おめでとう」

「ありがとう」


秀ちゃんの笑顔が、見えたような気がした。

ちらりと時計を見やると…

12時を越えていた。


「あ、明日になった」

「ほんとだ…2,3分なんて速いものだな」


そうか、終わっちゃったんだ…。

さっきからたった数分経っただけなのに、

妙なほどに気持ちが違う。

ああ、なんか……。


「誕生日、終わっちゃった…寂しいね」

「そうかな」

「――」


間髪入れず切り替えしてきた秀ちゃんに、私は無言になってしまった。

一瞬考えて、誕生日ってのは他人が思ってるより

本人はそんなに気にしてないものなのかな?と解釈すると。


 「だって、また新しくなったんだから」


秀ちゃんは、そう言った。


「新しく…なった?」

「そう」


一瞬意味が分からなくて、首を傾げてしまう。

そんな私の様子を悟ったように、秀ちゃんは言う。


「誕生日ってのは、生まれた日だろ?つまり、ゼロだ」

「……」

「今日は、一からスタート。また、新しく始めるんだ」


その言葉は、大きく心に響いた。

そうか、新しいスタートか。

また、ゼロから始まるんだ…。


「それじゃあ、今日からは新しい秀ちゃんになるんだね!」

「まあ、そういうことかな…」



 新しい始まり。

 何か特別変わるって訳でもないのかもしれないけど。

 だけど、どこか心が弾んでしまう。

 そんなスタートを切ったのだった。























終わるものがあれば、始まるものもあるんです。


2003/04/30