* 世界の何処かで *












「でーきた!」


チョコソースの中にスプーンを戻す。

目の前にあるのは、クレープ生地を重ねたケーキ。

シュウの大好きな、梨を沢山入れて。

本当は、洋梨のヨーグルトなんだけど。

こっちじゃあ、本物も手に入らないし。


「あーあ、今頃丁度30日になった頃かな」


時計を見ながら、呟いた。

5時を6分過ぎた時計。

日本では、真夜中なんだなぁ、なんて。


「ところでこれ…自分で食べるワケ?」


一人で食べるには大きすぎる、自分で作ったケーキを見る。

二人で分けて食べれたら、良かったかもしれないけど。


「仕方ない、よね…」


こっちでは何をしたって、本人に直接伝えることは出来ないんだから。

電子機器を使ったり、郵便の手を借りることになる。


直接伝えることなんて、絶対出来ないんだから。


それでも、世界の何処かでその日を迎えている限りは、

祝わずには居られないから。



 「…ハッピーバースデー」



小さく呟いた言葉は、本人には絶対に届かないと分かりながら。

食べるのは、こっちも向こうも30日の時にしよう、と決めた。

冷蔵庫にケーキを仕舞いながら、

世界の何処かで明日を迎えている愛しい人のことを思った。























こっちじゃまだだけどハピバ。
(大稲設定ですね、モロに)


2003/04/29