* ダブルス=愛? *












部室に来て、まず一番初めに目に入ったのは
ラケットを握っている大石だった。
「あれ、大石!今日から部活出るの?」
「ああ。腕の痛みも引いたことだし!」
「ホント!?やったー!!」
「大袈裟だなぁ、英二は」

オレが飛びつくと、大石は苦笑をしながらそう言った。
だって、本当に嬉しいんだもん!
大石と久しぶりの部活。
ああ、楽しみだにゃ♪






いつもと変わらないはずの部活。
なのにこんなに浮かれてるのはなんでだろう?

…ううん。理由なんて簡単。
そもそも、いつもと変わらないなんてことないんだ。
久しぶりに、大石が参加してる。
それだけで、凄く特別なものになるんだ!



「ナイッショー!」

「英二、今のショットは良かったぞ」
「うんにゃ、あんがと」

練習は、思いのほか上手くいった。
ショットはどんどん決まるし、
動きのキレもいい感じが自分でした。
どんなボールにもどんどん追い付ける。

体が軽い。

何でだろ?
やっぱり、大石と久しぶりにプレイできるって思うからかな?
今だったら、どんな強豪相手にも勝てそうな気がする!

ところで、こんなに調子がいいのって、久しぶり…?


「次、レギュラーは一対一でラリー対決」

お、いいところでラリーじゃん?
よぉっし、どんな相手だろうとコテンパンに叩きのめしてやる!

そして、くじを引いた結果…。

「お手柔らかにね」

不二が相手になった。
そして結果は、
コテンパンに叩きのめ…されたのだった。

「ぐにゃ〜!!」
「僕に勝つのは、まだ早いよ」
「またぁ、そういうこと言う〜…」

ちぇっ。
折角今日は絶好調だと思ったのに。
まだ不二には勝てない…か。あ〜あ。

でもでも、ダブルスだったら絶対負けないもんね!
オレと大石が力を合わせれば…。

「それでは、今日の練習はここまで!」
「あら」

こういうときに限って…ダブルスの練習がないのね。トホホ。




「いやぁ、久しぶりの部活は疲れたよ」
「うわ、大石じじくさっ!」
「そう言わないでくれよ」

着替えながら呟く大石。
その言葉が面白くって、オレは笑ってしまう。
オレが笑うと、向こうも笑い返してくれた。

いつもと変わらないはずなのに、
いつも以上に幸せな他愛の無い会話。

「…あ、そうだ!」
「どうした、英二?」
「今日さ、久しぶりにあそこ行こうよ!」
「あそこ?ああ、あそこな」

はっきりとした言葉は、必要ない。
暗号のような、ある意味合言葉のような。
そんなものばかりで構成されている、オレ達の会話。

大石が鍵締めを終えた後、
オレ達の足は躊躇うことなく一箇所に向かっていた。



そしてついた、コンテナ。
オレと大石のお気に入りの場所だ。
今日は試合に負けたわけでもなんでもないけど、
ここだと色んな話もしやすいし…ね。


「ここに来たのも久しぶりだにゃあ!」
「なんか、懐かしいよな」

オレはどかっと座ると、伸びをしながら言った。
大石も静かに横に座る。

二人肩を並べて、太陽が沈むの方向を見た。
昼間の太陽より、少し大きくて、少し濃い。
真っ赤な色で、燃えているみたい。

「それじゃあ大石君。今日久しぶりに部活をやっての感想は?」
「うーん。疲れたけど、やっぱりテニスは楽しかったよ」

オレがインタビューぶってマイクを持ってるふりをすると、
大石はそれに笑顔で対応して返事をしてくれた。

「そっかー。そうだよね!」

うんうん、と一人で納得するオレ。
大石は、眩しそうな目をして静かに夕日を見つめてた。
その横顔に、オレは話しかけた。

「ね、ところでさ、今日ダブルスの練習なかったじゃん?」
「ああ、そうだな」
「上手くいくと思う?明日やったとしたら」

覗き込むようにして訊くと、
大石は顎に手を当てて少し唸っていた。

「そうだなぁ。まずオレがテニス自体の勘を取り戻さなきゃいけないし、
 久しぶりだからコンビネーションも少し…」
「ダーメ!そんなんじゃ」

弱気な大石に、オレは大声で切り込んだ。
大石は驚いた顔をして、手が空中で固まってる。

オレは立ち上がって言った。

「大石、ダブルスってのは愛で制するんだよ!」
「…え?」

大石は、微妙に焦ったような表情だった。
そりゃ、行き成りこんなこと言われりゃ引くかもしれないけど。

「あ、愛…?」
「そう、愛!」

オレは踏ん反り返って言ってやった。
大石はオレのことを見上げて固まってる。

「今日さ、オレ久しぶりに調子良かったじゃん」
「ああ、そうだな…」
「これって、きっと愛だと思うんだよね!」
「はあ、愛…」

大石は分かってるんだか分かってないんだか、
下を向いてオレの言葉を復唱していた。

オレは大石の前にしゃがみ込んで、言ってやった。

「だから、オレにもっと愛をちょうだい!」
「あ、愛を…?」
「オレも、大石に沢山送るから!だから、大石もオレにちょうだい!」

大石はオレの気迫に押されたのか随分戸惑った表情だったけど、
暫くすると、笑顔になってくれた。

「分かったよ」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ、“オレはこれから毎日英二に愛を送ります”って宣言して?」
「え?」

大石はまた戸惑った表情になった。
なんだよ、これぐらいのセリフも言えないで、愛もクソもないだろー!

「…英二」
「ん?っ――」

呼ばれて返事をすると、
その一秒後、大石の顔はオレの顔と重なっていた。

「ぅ〜〜…ぷはっ!」
「今のが、宣言ってことで」
「にゃんだよ突然!大石ってば超恥ずかしいやつ!!」
「さっきのセリフも結構恥ずかしいと思うけどな」

自分の顔が真っ赤になってるのが分かる。
それを誤魔化すために、思いっきり叫び散らしてやった。
誤魔化せてるかどうかは、分からないけど。

「でも、約束したからな〜」
「はいはい」
「よっしゃ、この意気で全国大会優勝だー!」

オレは立ち上がると、夕日に向かって思い切り叫んだ。

大きな大きな夕日。
半分は地面に沈んでる。
明日の朝には、また反対側から顔を覗かせるんだ。

「頑張ろうな」
「うん!」

オレ達は、手の甲同士をコツンと合わせた。

その時丁度、
夕日の反対側からは、
月が顔を覗かせようとしていた。






















ついにやっちまったぜ!(ひぃ!)
このネタは昔から考えてて、
やっていいのかいけないのか考え続けて結局使ってしまった。(笑)
何故か知らないけど、アニメな雰囲気で乾が
「この試合、より愛の強い方が勝つ!」って言ってるのが頭を回って…。
(多分、手塚の「亜久津の意地と越前の勇気…(略)」から来てると思うんですが)

原作で大石がどのように復活するんだか知りませんが。
アニメと漫画で違うのかも良く分かってないんですが。
この話はきっと原作とは結びつかなくて幻に消えると思うんですが。(苦笑)
(まあ、そんなのこの小説に始まったものじゃないし)


2003/04/28