* skew position -part.1- *












…最近英二の様子がおかしい。
いつ話しかけても、上の空なんだ。

今までは、喧しいほど纏わり付いてきて
五月蝿いほどだったのに、
最近はまるで別人のように静かだ。

俺が話しかけると、たまに引き攣った笑いを見せる。
話の最中でも、笑いがどこかぎこちない。
そして、たまに泣きそうな顔をするんだ。

明らかに、おかしい。

部活中も、どこか集中力が欠けている気がする。
どうかしたのか?と訊いてみても、
「なんでもない」
いつもこれだ。

英二は俺を避けているような気がする。
と言っても、顔を見るだけで逃げるとか、そういうことはない。
話をしてくれないわけもない。
今までのが引っ付き過ぎなのだと言ったらその通りなのだが。
それでも、英二が向こうから話しかけてこない日など、今まではなかった。
それがこの一週間以上、
英二は一度も俺に話しかけてきていない。

休憩中は、ぼーっとどこかを見ていたり。
たまに桃たちと話している。



そして、とうとうわかったんだ。
英二の視線の先が。


いつも、海堂を見ているんだ。


休憩中の英二の視線を探ると、そこには彼がいた。
桃たちと話しているとき、
たまに海堂が入っていって桃と喧嘩になる、ということがあった。
その横で、英二は楽しそうに笑っていた。

他にも、ストレッチの時に海堂を誘ったり。
自分から話し掛けたりしていた。
海堂は自分から話すようなタイプではないけど、
お喋り好きの英二と一緒にいて、
少し楽しそうな表情をしているのが見えた。

その様子を見て、俺はなんというか…
嫉妬感のようなものを覚えた。


…俺と英二は、随分前から付き合っている。
それは他の部員なども公認だったし、
仲良く楽しくやっていた。


それが、何故突然こんなに素っ気無くなってしまったのか。

…考えられる理由は、今のところ一つだ。



英二の気が、海堂に向いてしまったのかもしれない。



これは、少し話を必要があるかもしれない。
俺としては別れる気はない。
何より、俺は英二のことが大好きだし…それに、
もし英二が本当に海堂のことが好きだとしても、
考えを改めてもらう必要がある。
何故なら…

海堂は乾と付き合っているんだ。


別に公認と言うわけではないが、
態度がそれとなくそういう感じだ。
二人が喋っているところを良く見る。
仲も良さそうだし。
乾の家から出て行く海堂を見たと2年の誰かが言っていた。
あからさまじゃないから、英二は気付いていないのかもしれないが。

…それでも…どうしても英二が俺とは付き合えないと言うなら、
考えなければいけないけどな……。

とりあえず、話だけでもする必要がありそうだ。



いつも部活が終わるとそそくさと帰ってしまう英二。
俺は今日もそうなってしまう前に、
駆け出そうとする英二に一言声を掛けた。

「英二」
「!」

英二は一瞬肩をビクッと震わせると、
恐る恐るこっちを向いた。

「…なに?」
「話がある…残っててくれないか」
「……わかった」

すると英二は部室へ向かって行った。



   **



「………」
「で、なんなの?話って」

今、部室内には俺と英二だけだ。
最後の一人の手塚も、
俺に鍵のことだけ一言声を掛けると帰っていった。

「ね、おおい…」
「英二」
「…なに」

俺は意を決して、声を出した。
英二は少し不機嫌なような顔をしてこっちを見てきた。
早く帰りたいのかもしれない。
…俺と二人でいるのが嫌なのかもしれない。
行き成り、本題に入ることにした。

「英二、最近俺のこと避けてないか」

英二の肩はピクっと震えた。
少し間を置くと、比較的落ち着いた声で言ってきた。

「…別にそんなことないよ」
「本当のことを言ってくれ」

否定の言葉を放つ英二に俺は
間髪入れず切り替えした。
すると英二は眉間に皺を寄せた。

「ほんとだよ」
「そうか?」
「うん」
「…わかった。じゃあ質問を変える」

本当に言うのか?と
自分で疑問に思ったけど、
もうここまで来たら訊くしかない。
小さく息を吐いてから、
もう一度吸い直して言った。

『海堂のことはどう思ってるんだ?』
「!」

明らかに、英二の表情が陰った。
感情を押し殺せなくなってきたのか、
少し怒りの篭もった口振りで言ってきた。

「そこでなんで海堂が出てくるのさ」
「いつも見てただろう?海堂のこと」
「…大石には関係ない」
「関係あるから訊いている」
「……」

英二はとうとう黙り込んでしまった。
二人の間に沈黙が走った。

俺は深呼吸してから話を再会した。

「…英二、本当のことを言ってくれ。
 俺たちは…付き合っている。俺はこれからもその関係を続けたい。
 でも…もし英二がもう俺のことを好きではないと言うのなら、話は別だ」
「オレ大石のこと好きだよ」
「じゃあ海堂は」
「ただの後輩だよ」

…どこまで英二の話を信じていいのかわからなくなった。
少し混乱していたのかもしれない。
必要以上に、英二に強く当たってしまった気がする。

「じゃあどうして俺のこと避けるんだ!」
「避けてないってば!!」

ベンチに座っていた英二もとうとう立ち上がった。
頭に血が上っているのか少し顔が赤かった。

ハァ、と小さく英二は溜め息を吐いた。
そして横に置いてあった鞄を持った。

「何かと思ったらこんな話?オレもう帰るよ」
「待ってくれ、英二…」
「バイバイ」

『バン!』

英二は明らかに不機嫌そうにオレの前を通過すると、
部室を出てすごい勢いでドアを閉めて行ってしまった。

「どうしてだ…英二」


俺は頭を抱えてロッカーに凭れ掛かった。


わからなかった。

英二も、海堂も、何もかも。
























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2002/09/15