* ±0の愛 *












「あ〜〜息苦しいっ!!」
「……」

突然机に突っ伏して叫ぶオレ、
不思議そうな顔で見てくる不二。

「突然どうしたの?」
「不二…オレもうダメっ!呼吸困難で死んじゃうぅ!」

胸に手を当てて、反対側の手を前に伸ばして苦しんでる素振りを見せた。
お弁当を食べ終わったらしい不二は、
お弁当箱を鞄にしまってからオレの頭をコツンと叩いた。

「落ち着きなよ、英二」
「うぅ〜…」
「…あらかた、原因は大石、ってところかな?」
「なんで分かるの!?」

オレが思わずガバッと上半身を起こすと、
不二はやっぱりね、って言いながらふふって笑った。
不二の笑顔って、不思議。
女の子みたいに優しい笑顔。

「英二がそこまで悩むっていったら、大石のことかなって思って」
「ずばりその通り〜…」

オレはまた机に伏せた。
頭の上から声が降ってくる。

「最近大石が構ってくれないとか、他の人にも優しいから不安になるとか…
 そんなところでしょ?」
「にゃんで不二は全部分かっちゃうの〜…」
「英二が分かりやすいんだよ」
「ぶぅ…」

オレは顔だけ起こして不二の話を聞いた。
不二のセリフに対して口を尖らせると、
不二はまたふふって笑って言った。

「誰だって悩みぐらいあるよ。英二はいつもの勢いでさ、
 大石を振り向かせちゃうぞ〜!!ぐらいの勢いでいきなよ」
「うん…そうだね」

不二のその笑顔で言われると、頑張ろうって気になる。
そうと決めたら、前向き前向き!
オレはパシンとほっぺの両側を叩いて、大きく2回瞬きをした。

「よぉーし、頑張っちゃうぞ!!」
「その意気、その意気」

立ち上がって叫ぶオレ。
教室に残ってた数人が少し驚いた感じでこっちを見てきた。
あんまり気にしないけど。

「その為には、充電充電♪」
「英二、もう休み時間終わっちゃうよ」

昼休み開始から40分、オレは漸くお弁当の蓋を開けた。


オレと大石は、付き合い始めて3ヶ月。
切っ掛けは、オレの告白だったと思う。
っていうか、二人同時といってもいいかもしれない。

あれは、オレが大石の家で遊んでたとき。
なんか話題に詰まって、シーンとした。
その時オレ、言っちゃおうかな?って思ったんだ。
大石のことが好きだってコト。
それで口を開いたら、

「「あのさ」」

……セリフが重なっちゃったんだよね。

「ご、ごめん…」
「いいよ、大石先言って」
「いや、英二こそ…」

そんなしどろもどろした流れで、
結局こういうのは譲られやすいオレが喋ることになった。

「オレね、大石のこと好きだよって言おうと思ったんだ」

そう言うと、大石は固まってた。
そして数秒後、ははっと笑って言った。

「実は、俺も今それを言おうかと思ってたんだ」

って。
つまり、先に伝えたのはオレだけど、
告白し始めたのは、お互い一緒だったわけ。
あの時は、すっごく嬉しかった。
黄金ペアだしなんでもピッタリだね〜って。

でも……。


「なんで最近素っ気無いんじゃ〜!!」


叫びながら、オレはタコさんウィンナーにぐさっとフォークを差した。
それを口に放り込むと、数回噛んでごくんと飲み込んだ。
また視線が集まってる気がしたけど、気にしない、気にしない。

「英二、落ち着きなって。ここで言ってもどうにもならないんだから…」
「う…分かってるけどさぁ」

だって、前はもっとラブラブだったんだよ?
部活中は勿論一緒だし、登下校も必ず一緒だったし、
休みの日は必ず一緒に居たし、休み時間も一緒に居たし。
それが最近は…、
部活中は一緒だけど、登下校はたまーに一緒なだけ出し、
休みの日も3回に1回ぐらいしかあってくれないし、
休み時間もオレのほうから行かなきゃ絶対きてくれないし。

「マンネリ化した恋人生活に嫌気が差したのかも…」
「あははっ!」
「…笑い事じゃないよ、不二ぃ」
「ゴメンゴメン。英二の言うことがあまりに面白いから」

…もう、不二ってば。
オレは本気なのに……。
でも、ホントに大石ってばどうしたんだろ?
…あ〜あ。
ガラにも無く溜め息なんて吐いてみちゃったりして。

「英二もさ、一人でうじうじ悩んでないで、
 大石に直接訊いてみたら?」
「ああ…そう、だね。そうだよね!」

そうだ。なんでこんな簡単な答えが見つからなかったんだろう!
大石に理由を訊けばいいんだ!
よし、有言実行!
言ったことは必ず守る。
早速大石の教室に…!


『キーンコーンカーンコーン…』

「あ…」
「残念無念」
「また来週だにゃ〜…」

立ち上がった瞬間に、チャイムの音。
苦笑いしながら慰めの言葉を掛けてくれた不二に、
オレは自分の得意台詞を繋げると、
また机にへにゃりと突っ伏した。







…先生ごめんなさい。
オレ、授業に集中しないで、大石のことばかり考えてます。
…まあ、授業に集中して無いのはいつものことだけど。

どうしようかな。
とりあえず、今日の部活のとき一緒に帰ろうって言って、
その時に聞くか、そうしよう。

「じゃあ次の問題を…菊丸!」
「えぇ?あ、はいぃ!!」
「ちょっと解いてみろ」
「えー、あー、うー…」

横から不二に小声で答えを教えてもらって、
オレは難を凌いだのだった。
不二は、大石のことも重要かもしれないけど授業も集中しなきゃ駄目だよ、
と視線で訴えてきた。
オレは苦笑いを返事とした。



   **



部活。
オレは、いの一番に大石に跳び付いた。

「大石っ!」
「わっ、どうした英二」
「ね、今日一緒に帰ろう?」
「ああ、分かった」

大石はそう言って笑った。
だから、オレも笑い返した。
…別に、愛が消えたとは思わない。
でも、薄まってるような感じがするんだよにゃぁ。





  **



「じゃ、英二帰ろうか」
「うん!」

オレは大石が鍵締めを終えるまで一緒に残った。
好きな人を待つのって、苦じゃないってホント。
それどころか、日誌を書いてる間二人っきりだったし。

二人で歩く帰り道は、
いつもの10倍も100倍も楽しい感じがした。
少し時間が遅くなっちゃったけど、
夕日が出てて、ちょっぴりロマンチックだし。

歩きながらは、他愛のない話。
クラスでどんなことがあっただとか、
兄ちゃんの愚痴を聞いてもらったりだとか。
こうやってのんびり話をしているだけで、すっごく幸せ。

…ってちょっと待て!

「大石!」
「ん、どうした?突然意気込んで」
「ちょっと話したいことがあるんだよね」
「…なんだ?」

危うい×2。
もうちょっとで今日の本題を忘れるところだったよ!

「大石さ、最近…素っ気なくない?」
「はぁ!?」

オレの質問に対して、間の抜けた返事をしてきた。
にゃんだよ、その言い方…。
だって、絶対そうじゃんか!

「ね、どうして!?」
「ちょっと待て、英二。オレは別に素っ気なくしてるつもりは…」
「じゃあ、どうして登下校とか一緒にしてくれないの?
 休み時間も一緒に居てくれないの!?」

オレが叫び終わった後は、長い沈黙。
自分で、目の端に涙が浮かんでるのが分かった。
大石は、戸惑った顔をして目を点にしている。
分かってるよ…どうせ、返事に詰まってるんだろ?
図星だから、言い返す言葉がないんだ…。

と、思ったら。

「英二、その…何か勘違いをしてないか?」

大石は、おでこに手を当てると、困った顔をして言ってきた。

にゃに?オレが勘違い??
そんなことないよ!
だって、最近の大石の態度はおかしい!

「オレ勘違いなんてしてないよ!」
「だって、最近素っ気ないのは英二のほうだろう?」
「…はぁ!?」

一瞬固まった後、オレはさっきの大石以上に
間の抜けた返事を返してしまった。

オレが、素っ気ない!?
ちょっと待て、っていうか寧ろかなり待て!!

「どういうことだよ、それ!」
「だって、前は英二休み時間ごとにうちのクラス来てたし…」

……ん?

「毎日必ず、明日一緒に登校しようとか、一緒に帰ろうとか言ってたし…」

……んん?

「休みの日は、今から遊びに行っていい?とか、電話してきただろ?」

……んんん!?

な、なんだかオチが見えてきた気がするんですけど。
それってつまり、もしかして…。

「オレがあんまり、大石に引っ付かなくなったってこと?」
「まあ、簡単に言えばそうかな…」

…あれ?
変だなぁ。
オレは、大石が素っ気ないから最近控えめにしてたんだぞ?
じゃあ、大石が素っ気なくなったのが先のはず。
それっていつのことだ?

大石が休み時間に遊びに来なくなったのいつ?
大石がオレのこと登下校に誘わなくなったのいつ?
大石がオレに電話くれなくなったのいつ?

……っていうかそもそも、
オレって大石に誘われたこと、あったっけ…?

「あ、あれれ??」
「思い出したか?」
「じゃあ、つまり…」

オレが勝手に勘違いして、大石が素っ気なくなったって思いこんでたってこと?

「オレが素っ気なくなったのか!」
「自分で分かってなかったのか」

大石は、苦笑いに近い笑顔を向けてきた。

そうかそうか。オレだったのか。
やっと納得がいったぞ!

…そうだ。
付き合い始めてから、暫く経って。
いつも一緒に居るのが、一緒になった。
でもオレは、気付いてなかったんだ。
それは、“オレが大石を誘ったから”だということに。
気付かなかったから、オレが大石を誘わない日は、何も起こらなかった。
一緒に居るのが普通だったはずなのに、なんだか大石が素っ気ない!
って、勘違いしちゃったんだ!

「これはやられた…」
「俺もやられたよ」

二人で、微妙な笑顔を向け合ってしまった。
しかし、これで一つ分かったことがあるぞ?

「つまり…大石から誘ってくれたことってほとんどないってことか?」
「あ」

大石め、図星か…。
今度こそ本気でフリーズしていやがる。
やっぱり、オレの愛のほうが大石の愛より大きいってコトか!?

「どういうことだよ、大石ぃ!」
「いや、なんか…英二の負担になったら悪いなって」
「!」

はにゃ?
なんか、目が点って感じ…。
オレの、負担???

「それって、どういう意味?」
「だから…英二がその気でもないのに、オレが無理に誘ったら悪いかなって…」
「……」

なにさ?
なんじゃそれは!?
オレがその気でもないのにって、何で分かるんだよ!?
あ……。
そっか、大石は最近オレが素っ気ないって勘違いしてたんだよね…。
お互いがお互いで、
勝手に引け目感じあって距離を置いてたんだ…。

「にゃーんだ!そういうことか!あはははっ!!」
「はは、ははははっ」

オレ達は、二人で大笑いしてしまった。
バカみたい。二人で勘違いしてたなんて!
全く、笑っても笑いきれないや!

「大石」
「ん?」
「これからは…大石からもたまには誘ってね」
「分かった、そうするよ」

大石は、笑顔でそう言ってくれた。
幸せ。
これって、雨降って地固まるってやつかな?
ちょっと違う気もするけど…。
でも、オレ達前以上に近くなれた気がするんだ!

その後、オレ達は手を繋いで帰った。
しかも、オレからじゃなくて、大石から手を引いてくれた。
些細なことだけど、すっごく幸せに感じられてしまうのだった。


これからは、平等の愛を目指しましょ。






















ホモップル万歳!(号泣)
ここまでくると、逆に清々しいですね。(爽やかな汗)

なんだか、大菊というよりかは菊大風味になってしまった…。
まあ、我が家の大菊は常にこんな感じだしな!
菊が極端な誘い受なんだよ、コンチクショウ。

これは11111HITキリリクの
大菊小説(+不二友情出演)だったんですが。
樹奈さん、こんな感じで良かったでしょうか?
遅くなってすみませんでした;


2003/04/25