* 終点目指して *












「みんなとは、今学期でお別れです」


別れの宣言は、二週間前の明日。



クラスでも人望が厚かった貴方。

休み時間と同時に人だかりが出来た。


みんなの質問に、少し困ったような笑顔で対応していた。

それを横目に、私はトイレに駆け込んだ。

チャイムが鳴るまで、個室で声を押し殺して泣いていた。



引っ越しちゃうんだね、大石君。


…好きだった。

ううん、ずっと好き。


でも、ついに別れの時。




引っ越し当日。

駅には大勢の人が押し掛けていた。


クラスの友達。

部活の仲間。

そして、ひっそりと大石君に想いを寄せていた人。


…私もその中の一人に過ぎない。

同じクラスでもあったけど、それだけ。

想いを寄せている大勢の中の一人にしか過ぎない。



『まもなく電車が参ります。白線の内側でお待ち下さい』


アナウンスが響いた。

大石君は、静かに笑った。


「それじゃあ」


その笑顔が、最高に最悪だった。

ぎこちないけど自然な笑顔だった。

…意味不明。


とにかく、いつもと変わらない優しい笑顔。

大好きな笑顔。


最後の、一回…?


私は泣きそうになった。

いや、泣いた。

涙が幾筋も頬を伝った。

遠くに電車が見えてくる。


来ないで。


なんて、いくら心の中で言っても、電車は近づいてくる。


「来ないで…」


なんて、思わず口に出してしまっても、電車は走り続ける。


周りにも泣いている人が居た。

声を張り上げる人も居た。

大石君に一番仲良かったテニス部の菊丸くん。

腕にしがみ付いて、男のくせに大泣きしてた。

こんな時に、男も何も無いのかもしれないけど。

大好きな人の別れは、誰にだって辛いものだ。


クラスの男子が、手紙送れよ、とか言ってる。

大石君は笑顔で対応していた。

少しだけぎこちない、愛想笑いで。

…この場面で満面の笑みって言うほうが、無理があるのかもしれないけど。



電車が、ホームに到着。

少しずつ速度を緩めていく。

そして、停車。


荷物を持ち上げると、大石君は皆に向き直って言った。


「今まで本当にありがとう。向こうに着いたら連絡します」


ドアが開いた。

大石君はゆっくりと足を踏み入れた。

みんなが一斉に叫び出す。


今まで有り難う。

たまには思い出してね。

向こうでも頑張れよ。

手紙出すからね。

絶対に忘れないから。


みんな、思い思いに声を張り上げる。

何十人もの人が、一箇所に詰め寄ってる。

そこで大声を上げるもんだから、

もう誰が誰の声だかわかったもんじゃない。


みんな大袈裟なくらい手を振る。

ガッツポーズを掲げる人も居る。



その騒ぎの中。

私は一人、泣いていた。


小さな存在だと思った。

応援の言葉すら掛けることが出来ない。


『まもなくドアが閉まります。駆け込み乗車は…』


聞き慣れたアナウンスが流れ始める。

みんな、更に声を大きくする。


バイバイ。

さようなら。

お元気で。


本当に五月蝿い中だった。

きっと自分の声なんて掻き消されると思った。

でもどうしても、最後に一言だけ言いたかった。



 「大石君…ずっと好きでした!」




眼がふと合った。


微笑まれた。




 「俺も、好きだったよ」




瞬間、ドアが締まった。


プルルル、とサイレンが鳴り、

電車は走り出した。

中で大石君は手を振っていた。

淋しげな笑顔で。

電車と共に走り出す男子も居た。

しかしホームの端まで行くと、

小さくなる電車を前にどうすることもできず、

ただ佇むだけだった。


周りの女子が、大石君の最後の言葉聞いた?とか話してる。

だけど、誰一人としてその言葉が誰に対してだったかは分かっていないようで。


私は、また更に強く泣いた。

その場に座り込んで。


同じスキ。

でも、貴方はどんなつもりだった?


私と同じ気持ちだった?

友達として?

最後の別れ、優しい貴方は口裏を合わせただけ…?


分からない。

確かなのは、別れ。

でもあの瞬間、貴方は大勢の中のたった一つの私の声を、見つけ出してくれた。

確かに、私だけに微笑みかけてくれた。


作り笑いじゃない。

いつも見てたから分かる。


最悪なほどに最高の笑顔…私だけに。

…嬉しかった。

でも、どこか満たされないのは何故?


言葉を聞いてくれたこと。

笑顔を向けてくれたこと。

返事をしてくれたこと。

優しくしてくれただけ、別れが辛いんだ…。



「行かないで…」


そんな言葉、思わず口から零れても、電車は止まらない。

駆け抜けていく。あの人を乗せて。

優しい笑顔のあの人を…。


止まらない。

電車も、時間も、人々も…。


いつも変わり続けて、回り続けて、動き続けている。

止まることなんて、知らない。


後戻りは聞かない。

あの優しい笑顔だって、

過去の思い出になってしまうんだ。



今頃あの列車は、

どこを走っているのだろう。

どこまで走り続けるのだろう。

止まった先には何があるのだろう。


この線路の向こうにある真実は、

遥か遠くの思い出のような気さえしてきた。



長く長く続いていく線路の先は、

いくら目を凝らしても、見えそうになかった。






















なんか暗い。(苦笑)
悲恋チックだよ。しかし表に放置プレイ。(何)
結局のところはっきりしたことは謎のまま。

色々と思い付きすぎて上手く纏められなかった。無念。

我ながら引っ越しネタ多い。
意外と好きなのかも、笑。
てか、『to my dearest partner』に似てるよね?

てか、素晴しいほどに青春キャラ化してるぞ!?
クラスメイトは電車に合わせて走り出しちゃうし…!(有り得ない)
ま、いっか。青春学園だしな!(解決)


2003/04/21