* 色のない世界 *












学校の帰り、二人で歩いていたときのこと。

雲がいくらか浮かんでいる空の下で。


「ねぇ、シュウ」

「ん?」

「色のない世界って考えたことある?」


私の突然の発言に、シュウは固まった。

そりゃあ、行き成りこんなこと訊かれたら困るだろうけど。


「色がない…ってことは、黒と白だけってことか?」

「まあそんな感じなのかなぁ」


質問をした割に曖昧な返事しかしない私。

シュウは不思議そうな顔をして覗き込んでくる。


「どうして突然そんなこと訊いたんだ?」

「うん…実はね」


この前、とある人の講演を聴いたときのこと。

インタビューの回答に、考えさせられたんだ。


全盲だという、その人。


「生まれたときから目の見えない人は」

「………」

「“色”っていう言葉を知らないんだって」

「―――」



だって、どうやって説明すればいいの?


リンゴは赤い、って言っても、リンゴを見たことがない。

空は青いって言っても、青空が何かを知らない。


暫く考えた後、シュウは顎に手を当てながら言った。


「そんなの、想像も付かないな…」

「だよね」


今自分の目に入っているもの全てが、

何一つ分からないとしたら。


自分の体験したことのない、世界。


「白か黒かも分からないんだろうな」

「なんか…寂しいよね」


その人は、生まれたときからそうだったから、

それが普通なんだと言っていたけれど。



「ごめんね、突然変なこと訊いちゃって」

「いや、そんなこと無いよ」


そう言って、シュウは笑った。

これも、色を失くしてしまったら無になってしまうのだろう。


色のない世界って、一体どんなものだろう。

そうと考えながら、目を閉じてみた。

でも、私には黒と言う色が認識できる。

目の前が赤くなるのも感じられる。


「あ…夕日だ」

「ほんとだ」


目を閉じたって、心を無にしたって。

どうしても、色というものを感じてしまう。


「綺麗…だね」

「ああ」


私達は、立ち止まって夕日を眺めた。

いつもより濃く見えた太陽に、涙が零れそうになった。



色のない世界。

それがどんなものなのか、

想像すら付かないのがなんだか悲しかった。

だけど、本当にこの世から色が消えてしまったら、

それ以上の寂しさで押し潰されてしまうんじゃないかと考えて、

もっと悲しくなってしまった。























色が無いってどんなでしょう。
(突飛な思いつきは大稲特有?)


2003/04/17