* 真偽の程は? *
新学期。
教室中を見回してみる。
知らない顔だらけで、少し緊張する。
勿論優しそうな人も居るんだけれど。
「(あの人…怖そー…)」
ぎらぎらとした視線を彷徨わせる人。
明らかに険悪なムードが漂っている。
「(このクラスで…一年間、かぁ)」
少し先が思いやられた、そんな瞬間。
「ねえ、海堂くんって怖くない?」
2年7組に入ってから一週間ほど経ったある日。
早速出来た友達に、そう言われた。
「海堂くんって…誰だっけ?」
「ほら、あの人だよ!なんか目がギロっとしてる」
「ああ……」
私は、即座に始業式の日に見た顔を思い出した。
そうか、あの人海堂くんって言うんだ…。
「もしかしたら不良だったりするのかな」
「でも授業中は真面目な雰囲気だったよね」
そんな話題が交差する。
怖い人…だよね、やっぱり。
でも、悪い人じゃない…何故かそんな気がした。
なんでだろ。
分からないけど。
「それじゃあ今日は委員会決めをします」
ホームルームは、先生のその一言で始まった。
そっか、委員会…。
何も考えてなかったけど、どうしよう。
美化委員か保健委員とかがいいな。
そういう地味なので…。
考えているうちに。
枠はどんどん埋まっていった。
美化委員もいつの間にか埋まってるし。
じゃあ、やっぱ保健委員にしよっと。
「保健委員はまだ男女とも空いてますよ。誰か…」
「はい!……え?」
勢い良く手を上げた瞬間、私は思わず固まった。
だって、私の斜め前に座る海堂君も、
同時に手をあげたんだもの…。
「それじゃあ保健委員はその二人ね」
うっそ〜〜〜!!
何故か、一瞬にして決定してしまった。
別に嫌って訳じゃないんだけど。
嫌って訳じゃないんだけれど…。
…怖いよぉ。
翌日。
第一回保健委員会。
私の隣に座るのは、勿論海堂くんで。
「(うっひゃぁ…)」
別に何でもないはずなのに、何故か緊張してしまう。
なんというか、独特のオーラが出てるよ…。
第一回の委員会ということで、軽く自己紹介をした。
その後は、今月の生活目標決め。
沢山の意見が飛び交い、それをメモしていく。
ちょっと待って、喋るの速いって!
…あ、間違えた。
消さなきゃ……あれ?
「……」
消しゴムが、ナイ。
え、あれれれ?
どこにいったんだろう!!
筆箱の中に、無い。
ポケットの中にも、無い。
床にも落ちて、無い。
冷静に思い返してみると、
今日一日消しゴムを一回も見てないことに気付く。
…もしかして、家に忘れてきた?
「(どうしよう〜!!)」
もう一度そこら中を見回してみる。
しかし落ちている筈も無く。
仕方ない…間違えはそのままでいいや。
てか、今まで話してた内容も聞き取り損ねたし、とほほ。
「オイ」
「――」
声が掛けられた瞬間、思わずフリーズ。
か、海堂くん…?
「は、なんだしょう!?」
「…使うなら使え」
「へ?」
焦りのあまりに変な言葉を発してしまった私に、
海堂くんは左手を差し出してくれた。
その手に掴まれていたのは、小さな消しゴム。
「あ、ありがと…」
妙なほどにドキドキしながら、文字を消した。
返すときに不意に触れた手に、もっとドキドキした。
どうして?
怖いと思ってたのに、優しかったから?
それだけの理由なの?
それでも、いいじゃない。
とっても、優しい人だった。
決して悪い人じゃなかった。
それだけで、十分の理由。
「(前から気になってたけど…私ってもしかして海堂君のこと…)」
「それでは、これで第一回保健委員会を終わります」
頭の中の考えは、委員長の言葉で掻き消された。
委員会が終わった瞬間、何故か私は笑顔になっていた。
海堂君がどんな人か。
私の想いはなんなのか。
それは、これからじっくり考えていこうと思うんだ。
第一印象は、怖い人だったことを思い出した。
2003/04/12