* 明日はどうだろ。 *












「あーあ……」


小さく呟いた言葉は、白い曇りへと変わった。


どうしてこんなにも寒いんだろう。

もう4月だっていうのに。

ほとんど溶けてしまっているけれど、

午前中に降った雪が所々に残ってる。


「もう春なのにな。なんでこんなに寒いんだろ」


冷たい風の中では、濡れた目はもっと冷たく感じられた。



思えば、ことの始まりは授業中。

隣の席の子に、優しく笑いかける貴方。


分かってたけど。分かっていたはずだけど。

貴方が誰にでも優しいってこと。

でも、目の前に突き付けられるのは、

想像以上に辛くて。


「今日機嫌悪くないか?」と訊かれた私は、

「そんなことない」と答えるしか出来なくて。

そんな態度しか取れない自分に、

それ以上に苛立って。

そんなことない割には不機嫌な声だった私に、

貴方は眉を顰めて。


「それならいいけど」と背中を向ける貴方に

再び声を掛けることは出来なかった。


心の中に灰色のものが積もっていく。

苛立ちを隠せない。


 苛々。いらいら。イライラ。



結局、それ以降は一度も話せなかった。

今までに何度も後ろを振り返ったけど、

貴方の顔を見ることすら出来なかった。


せめてもう一目だけでも見れたなら、

正面から笑いかけられた気がするのに。

顔を見るどころか、背中を見つけることすら出来なかった。


寂しいな。

淋しいな。

軽く降り注ぐ春の雪。



「え……?」



あれ、いつの間に、

また雪が……。


「寒いと思ったら…」


独り言は、雪の白さに紛れていった。


そういえば、朝一番の国語の授業。

先生の言った言葉を思い出した。


『雪ってさ、なんかよくない?』

『なんか、しっとりとしてて…心が洗われる感じがするよね』


上を見上げると、チラチラと雪が降ってくる。



 世界一杯の白――。



もしも本当に雪が心を洗ってくれるなら。

嫌な気持ちも流してくれるなら。

私の全てを、白に変えてくれるなら。

この風に、飛ばされてみたいと思うの。



その先には、何があるんだろう。

全てを白く染めた雪は溶けさって、

明るい世界を残すのだろうか。

降り注ぐ雪だけを消し去って、

重々しい雲は残るのだろうか。



軽く降り注ぐ雪の中。

明日のことを考えて、軽く目を閉じた。























誰にでも優しいのって時によりとてつもなく憎い。
(『sunny-side up』の設定と思われ)


2003/04/10