* 転んだ *
「(あー、もう〜!!)」
体育館の壁際。
さっきからうろついている私。
これでも、一応試合には参加してるのだけど。
「(怖すぎだよー!!)」
飛び交うボールを見て、
私はただ腕を竦めるだけだった。
今日は、球技大会。
1年に2回の学年行事。
今回は、その種目はドッヂボール。
選りによって私の嫌いな、球の当て合い…。
なんでそんな痛い思いをするスポーツが楽しいのよ!
と思うけど、みんなはどうもそれが好きらしくて…。
「(もともと私スポーツは得意じゃないのに…)」
ドッヂボールなんてもっと嫌だよー!
そう心の中で叫んだ。
それでもボールは、コート中を飛び交うわけです。
試合開始直後早くもぶつかってしまった私は、
さっきから外野でうろついています。
ボールは拾っても味方にパスしちゃうし、
なかなか内野に戻れません。
戻りたいとも、思わないけど……。
そして何より、この球技大会の一番嫌なところは…。
「(どうして男女合同なのー!!!)」
二つに分けられたクラス。
男も女も交じっているそのチームを見て、
私は怯えているだけだった。
「(大体どうして男子も一緒なの!体育の時は別なのに!)」
あんな球に当たったら死ぬー!!
良かった、さっき女の子に当てられておいて…。
もし顔に当たったらどうするの!?
骨が折れでもしたら…イヤー!!!
「そこ、取れ!!」
「へ?」
考えていると、味方の声がした。
見てみると、ボールが外野の誰もいない場所で弾んでいる。
そしてその場所は、丁度相手コートとの境目。
「(あ、取らなきゃ…)」
当てることは出来なくても、せめてルーズボールを取るぐらいはしなきゃ…。
そう思ってそのボールに手を掛けようとした時。
『ドンっ』
「きゃ!」
瞬間、相手コートの誰かにボールを奪われ、
更にその際に体当たりをされ私は尻餅をついた。
「………」
しかも、無情にもみんなは私のことなんか気に掛けず、
またボールの投げ合いに身を投じていた。
誰も、気に掛けてやくれはしない。
「(全く誰よ。体当たりしておいて………?)」
横に立っていた、その人を見上げると…
桜井君だった。
瞬間、なんだかどきっとしてしまった。
何故かというと、桜井君って前から良い人だなーと思ってたから。
恋愛感情とは言い切れないけど、悪い人ではないなって。
たまにからかい半分に苛めてくるけど。
でもそれは自分にとって楽しくてちょっと嬉しいことだって気付いたから。
でも…ちょっと今ので幻滅したわ。ぐすん。
私が転んでるのに、ボールのほうが大事だったっていうの?
まあ、試合の進行上そうしなきゃいけなかったのかもしれないけど…。
でもでもっ!
…もしここで優しい言葉でも掛けられて、
手でも差し伸べられたら許しちゃうけどー、なんてね。
「(まさかそんな少女漫画チックな…)」
「大丈夫か?」
「――」
…優しい言葉、合格。
って、そうじゃないでしょ自分!
何考えてるのよっ。
別に、好きなわけでも、なんでも……。
「…ごめんな」
「いや、平気……っ!?」
瞬間。
体が軽く持ち上がったのは、
左腕に手が掛けられ、
上に引かれたからである。
「………」
「ほんと、ごめんな」
立ち上がってもぼーっとしている私に一言掛けると、
桜井君は再び試合へと戻っていった。
楽しそうに走り回っている横顔は、
とても格好良く見えた。
「……どうしよう」
小さく呟いた独り言は、誰にも聞かれていないはずだけど。
でも、誰か教えて?
この想いの正体を。
いや、本当は自分でも分かってる。
私…どうもこの人のことが……。
好き、みたいです。
紳士的な行動に弱いんですよね、私。
(ここで第一波が来たくさい)
2003/04/05